第五話
つくもさんの部屋から出た俺は、ゴミ出しを思い出す。
眠る前に面倒くさいけど、出しておくほうがいいだろうなあ。
俺が住んでいるのは四階だから、一階まで降りなきゃいけない。
だけど、メリットはひとつある。
ルールさえ守れば、どの曜日にどんな種類のゴミを出してもかまわないのだ。
俺は可燃ごみとプラスチックごみを分別もせず、ひとつの袋に入れてエレベーターに乗り込む。
ゴミ捨て場は内廊下で行けるから天気を気にしなくていいのが、ちょっとうれしい。
ゴミ捨て場の真っ黒なドアは閉まっていた。
俺はドアをコンコンと二回叩いて、
「失礼します、躑躅が原さん」
とあいさつをして中に入る。
中にはゴミステーションがあり、右脇には清掃員みたいな恰好をした50歳くらいのおじさんが立っていた。
この血の気が通ってない顔をしたおじさんは【ゴミ捨て場の躑躅が原さん】と呼ばれている。
誰が名付けたのか、あるいは本人が名乗ったのか、誰も知らないという。
「今日は燃えるゴミとプラスチックゴミをまとめて捨てたいんですけど」
と話しかけると、躑躅が原さんは小さくうなずいた。
「よかった。よろしくお願いします」
と言って俺はゴミ袋をステーションの中に入れる。
躑躅が原さんはもう一度小さくうなずいたのを見て俺は外に出た。
ドアに触れなかったのにも関わらず、勝手に閉まってしまう。
「これ、自動ドアじゃないだろ」というツッコミは初めて来たときに済ませた。
「あー、寝坊した、遅刻しそう!」
たまに見かける三十歳くらいのスーツ姿の男性が、ゴミ袋を抱えて走って来る。
そしてそのままゴミ捨て場に向かう。
それだけならいいんだけど、ノックをせず、声もかけずにゴミ捨て場のドアを開けてしまった。
「あっ」
思わず眠気が消え、声を出してふり向く。
「ガオン!!!!!!!!!!!!!!!!!」
まるで重い金属が落ちてきたような音が、周囲に響く。
「あー……、またあき部屋が出ちゃうな」
何でわかりやすいルールを破ってしまう人がいるんだろう。
この場に居合わせてしまったのだから仕方ない。
俺はため息をつき、管理人の近根木さんにスマホで連絡する。
【えええ……あのルールを破った人が?】
驚き半分、呆れといやそうな感情が25%ずつくらいの返事が来た。
気持ちはわかる。
こんなマンションに住んでるんだから、せめてわかりやすいルールくらいは守ろうよ……自分の命だろうに。
【ゴミ捨て場の躑躅が原さん】は無口なおじさんに見えるが、れっきとしたこのマンションに存るモノ。
ルールを破ったら……ねえ?




