EX2
鈴木(仮名)の家を出た天樹たちは近くのカフェに入って、ホットコーヒーを二つ頼む。
「女子生徒の視点での情報はなかったから、収穫だったわ」
天樹は真剣な顔で言う。
今までは警察からの視点と、教師視点の情報が中心だった。
「【ことりことり】ねえ。まるで女の子たちが獲られたみたいじゃない」
奈々子は何げなくつぶやく。
彼女のほうは半信半疑だった。
鈴木(仮)が嘘をついているかはともかく、何か見落としていたり、把握していない出来事があるのではないかと思っている。
ただ、一方で出てきた遊びに関して引っ掛かりはあった。
「何で男女別にしたのかな? はないちもんめとかでも、そんなルールはないはずよね?」
奈々子の疑問に天樹はうなずく。
二つのチームに別れるのはともかく、性別で分けるゲームなんてあっただろうか。
「そうなのよね。そもそも【ことりことり】という名前は初めて聞いたわ。【ことろことろ】というわらべ歌や、鬼ごっこの一種なら存在しているんだけど」
という天樹の言葉に奈々子は驚く。
「そんなものがあるの?」
「ええ。発祥は平安時代。当時の呼び方はたしか【ヒフクメ】。子を奪う鬼と、子を守る地蔵菩薩との戦いだったらしいのよ」
天樹はうなずいて説明する。
「さすが詳しいわね」
いくらオカルトが好きだからと言って、そんなものまで把握しているのか。
奈々子は素直に感心した。
「平安と言えば京都だし、そこから地方に広がるうちに変化した可能性はあるんじゃない?」
天樹の意見に奈々子も賛成する。
時代を考えればそれが自然だからだ。
「とはいえ、これ単体だと弱いんじゃないの?」
「そうね。何か関連づけできそうな伝承を調べてみなきゃね」
奈々子の問いに答えて天樹は背伸びした。
「まずは埼玉かしら」
と奈々子が言ったのは、【ことりことり】を言い出したのが埼玉の高校の男性生徒だからである。
私立高校なので、もしかしたら県外出身かもしれないが、最初の手がかりを求めるべきだ。
「京都から東に伝播する経緯で変化したとは言え……京都から調べるのは大変だしね」
と天樹も賛成する。
今回の事件を解き明かすためには、遊びが変化した経緯と場所、理由を調べる必要がありそうだ。
「男女別でわかれるようになった理由について、心当たりはあるの?」
博識な友人ならあるいは、と奈々子は問いかける。
「わからないわね。神様と巫女が結婚する【神婚】にしては、不自然な部分があるのよ」
天樹は表情をくもらせた。
たいていの場合神様が自分に仕える巫女と結婚するか、天女が地上の男と結ばれるというパターンである。
「荒ぶる神でも生贄として女を要求することはあるけど、話にあった女を奪うようなやり方はしないのよね。わたしの知ってる範囲では」
天樹の説明を聞いているうちに、彼女の言いたいことを奈々子は察した。
「神様は人間に合意を求めるけど、【ことりことり】は合意なく奪っている?」
奈々子の言葉に天樹はうなずく。
「ええ。まあ、神様じゃなくておぞましい怪物なら、話はわかるけどね」
女をさらって強引に結婚するのは、怪物のやり口だと天樹は語った。




