表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルールを守ればこのマンションは安全です  作者: 相野仁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/13

EX

 戸塚奈々子と天樹瑪瑙はひとりの女性のところを訪ねていた。


 数年前、修学旅行で奥多摩地方を観光した、埼玉のとある私立高校に通っていた女子生徒、鈴木加奈子(仮名)である。


 茶色に染めた髪を腰までストレートに伸ばした、内向的な印象だ。


「あのときの話ですよね?」


 と言った奈々子と瑪瑙より数歳年下である鈴木の表情は硬い。


「実名も顔写真も出しませんし、謝礼は支払います」


 と天樹が約束すると、鈴木はうなずいて重い口を開いた。




 数年前のことだから、もちろんよく覚えています。


 最初、行き先が西多摩と言われたとき、クラスのみんな「えーっ」と声をあげました。


 わたしも内心は同じ気持ちでした。

 どうせ東京に行くなら、もっと有名なスポットがよかったですから。


 担任の先生(男性です)は苦笑しながら、西多摩は自然が豊かで風光明媚なポイントがある、と話しました。


 埼玉の人間はその気になれば、大人になれば、都内に行くのは難しくないじゃないかって言われると、たしかに……と一応は納得しました。


 男子はぶーぶー言ってる人いましたけどね。

 実際行ってみたらすごく景色は綺麗だったし、食べ物もおいしかったです。


 あ、昏睡事件の話ですよね?

 旅行の初日が終わって夜、ホテルでのことです。


 スマホはあるけど、それじゃあもったいないってクラスのある男子が言い出したんです。


 せっかくの経験だから、普段やらないレクリエーションをやりたいって。


 それでひとりの男子生徒が「珍しい遊び」があると提案したんです。

 

「それが【ことりことり】というゲームでした」


 まず男女にチームを分けます。

 そして男子のひとりが「神官」として、女子とじゃんけんをします。


 じゃんけんに負けた女子は、「神官」陣地に移動します。


 残りの女子は「神官」とじゃんけん対決しながら、「神官」陣地に捕まった女子の救出を試みます。


 他の男子は「神官見習い」として、それを阻止します。

 ただ、女子は「神官見習い」に負けても何も起こりません。


 女子を捕まえることができるのは「神官」だけでした。


 本当はじゃんけんではなく、外で鬼ごっこするのが正しいそうですが、夜だったのでホテルの大きな部屋でやりました。


 さすがに異性の部屋があるフロアへの移動は禁止でしたが、共用スペースではわりと自由でした。


 先生たちの目も光っていましたしね。


「それで女子たちは負けました」


 わたしは参加しませんでしたが、男子5人、女子15人だったかな?


 勝った男子たちは女子たちを囲んで回りながら「子はすべて取った。子はすべて手に入れた」と何度も復唱してました。


 それを見ていた他のクラスの男子が、「自分たちもやってみよう」と言い出しました。


 男女楽しく遊べるし、変わってると言っても、基本は鬼ごっこみたいなものでルールはわかりやすいからって。

 

 わたしみたいに気乗りしない子は参加せず、見てるだけでした。

 

 いつの間にか、全クラスではじまっていました。

 女子が勝った場合は「子は守られた」と女子が復唱していましたね。


 何回もやった結果、どのクラスも二回くらいは女子が負けてました。

 じゃんけんが強い男子が「神官」をやってたんでしょうか?

 

「そろそろ遅いから解散しなさい」


 と先生に言われたのは十時ごろだったと思います。

 明日も旅行だし、みんな素直に解散して部屋に行きました。


 部屋は和室で五、六人分の布団が敷かれていました。

 予想できると思いましたが、みんなすぐには寝ませんでした。


 電気を常夜灯に変えて、布団にもぐりこんでひそひそと話しこみました。

 そのままひとり、またひとりと寝落ちしました。


 わたしも眠くなって寝てしまったのですが、夢を見ました。

 そこではクラスの女子たちが、知らない中年男性を囲んで談笑していました。


 よく見ると、他のクラスの子たちも混ざっていました。

 知らない男性がわたしを見て、優しい笑顔で手招きしました。


 何となく気味が悪くて遠慮しているところで目が覚めたんです。


 予定の起床時刻だったので、起き出したのですが、他の子たちはまだ寝ていました。


 声をかけても誰も反応さえしません。


 みんながそろいもそろって爆睡していることを不思議に思いましたが、とりあえずわたしだけでも外に行こうと着替えます。


 部屋の外に出て朝食会場に向かうと、男子は8割くらいが来ていたのですが、女子は2割程度しかいませんでした。


 男子も先生たちも怪訝な顔をしていますが、わたしにもさっぱり意味がわかりません。


 食事をすませたあと、女子たちはいくら呼びかけても起きてきませんでした。

 みんなパニックになっちゃって、予定を切り上げて家に帰らされました。


 ええ、これが「集団昏睡事件」の実情です。

 警察が調べても何も出て来なかったらしいけど、当然ですよね。


 男子のひとりが「昏睡してる女子はみんな【ことりことり】に参加してた」と言ってましたが、そんなことってあるでしょうか?


 おじさんが出て来る不思議な夢? 

 ええ、今でも夢に見ます。


 山本香苗ちゃんってわかりますか?

 去年、行方不明になったと報道されていた子です。

 

 あの子、高校時代の同級生なんです。

 昨日見た夢では元気そうでしたよ。


 おじさんの隣に座って二人親しそうに話してました。

 

 みんなが楽しそうにしているなら悪い人じゃないのかも、という気持ちがわいてきています。


「これって信じてもらえます?」


 と鈴木は訊き、奈々子と天樹は顔を見合わせた。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ