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 里穂の暴言を聞いたとたん、千沙が凍り付いた。


「ハ、ハハハメ……って、そんなバカなことが」


「起こり得たのよ、千沙。ね、高尾?」


 納豆をとりつつも、あまりのことで眩暈がしていたので、すぐに反応できなかった。

 すると真紀さんが、ふしぎそうな表情で言うのだ。


「高尾くん、何かを里穂とハメて撮影したの?」


 真紀さん、ハメ撮りを知らなかった。


「そうそう、そんな感じ」


 しかし真紀さん、性知識は遅れていても、バカではないのだ。僕の狼狽やら千沙の反応からして、里穂の発言がただならぬものであったことは推測してしまったようで。


 不満そうにつぶやいた。


「なんだろう、気になるなぁ」


 いま真紀さんは、お盆で両手がふさがっているため、スマホを取り出してネット検索できないわけだ。

 ということはテーブルにつくまでに、誤解を解かねば。というか里穂の暴言を否定せねば。


 しばし躊躇っていた千沙が、決意した様子で里穂に言った。


「じゃ、見せて」


 里穂がきょとんとする。


「何を?」


「つまり、くだんの動画を」


 ハメ撮り(もちろん存在しません)の動画を見せろ、と要求しているわけだ。


「……」


 まぁ、こういう展開になるよね。

 里穂がどう返答するかと、僕は興味をもって待った。すると、


「朝から、あんな刺激的なものを見せられないわね。お子様な千沙には」


 うーむ。苦しい言い訳だぞ。わざわざ話題に出しておいて、そんなウソでは逃げられまい。


 やはり余裕を取り戻す千沙。


「なんだ、やっぱり嘘だったわけだ」


 しかしダークサイドに堕ちた里穂は、なかなかに手ごわかった。

 なにやら謎めかした笑みを浮かべて、


「さぁ、どうかしら? 高尾、あたしにも納豆をとってくれる? ところで、納豆ってなんだか卑猥よね?」


 これは僕も即答できるぞ。


「ぜんぜん」


 とりあえず里穂は、納豆にかかわるすべての人に土下座して謝ったほうがいい。


 とにかく里穂は、ハメ撮りの有無を明らかにしなかった。

 こうなると千沙としては、無いと言い切ることもできない。里穂が見せなかったからといって、100%存在しないことにはならないので。


 いや、まった。

 僕は100%存在しないと言い切れるぞ。


「千沙。ハメ撮りの動画なんてものは存在しないからね。里穂の嘘にまどわされないように」


 ところが千沙は、疑わしそうに僕を見るわけだ。


「水沢くんがそう言っても、いまいち信ぴょう性に欠けるよね」


 え、当事者だから?

 確かに存在したとしても、僕は『ない』と言うだろうけども。


 くっ。里穂め、まさかそこまで織り込みずみだったのか。


 みんなで、自分たちのテーブルまで移動する。朝食をのせたお盆を置いて、まずは「いただきます」。


 それからスマホを操作した真紀さんが、ふいに声を上げた。


「高尾くん、なんてことを!」


 あ。真紀さんのことを忘れていた。

 さては、いま検索して、ハメ撮りの意味を知ったな。


 視界の片端で、小夜だけがのんびりと朝食をとっているのが、なんか腹立たしい。



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