91
里穂が右手をぶんぶんと振る。
「いやいや、あたし、エロくないし」
「でしたら、ことに及んではいなかったのでしょう」
「えー、そうなの? そうなのね、なんだぁ」
がっくりきたらしい里穂。
しかし、ここで疑いの眼差しを、この僕に向けてくる。
「だけど、あたしが裸だったのは、高尾──さては、あたしが爆睡しているところを襲ったのね! もう高尾、そんなアグレッシブなところがあるのなら、ちゃんとあたしを起こしてくれればいいのに。ばかね」
こんどは僕が右手を横に振るところか。
「いやいや、僕は気絶していたんだから」
しかし信じていない様子の里穂。
「ならどうして、あたしの衣服が脱げていたのよ」
「僕はてっきり、夜這いするため、里穂が自分で脱いだのかと」
120パーセント、そんな理由だろうと思っていたけど。
僕の指摘に対して、里穂は頬を朱に染めて、
「あたし、夜這いするときは服着ているわよ──だって、ほら高尾に脱がしてほしいし」
知らん。
「ふむ。僕でも里穂でもないのならば──普通ならば、その時点で容疑者ゼロとなっていた。しかし、いまこの部屋には、もう一人いる!」
びしっと小夜を指さす。
里穂も『なるほど』という様子。
「あ、言われてみると。そうね犯人は、そこにいたわ」
小夜が迷惑そうな顔をする。
「まさか、わたくしが渋井さんの衣服を脱がせたと? わたくしはヤンデレと言われたことはあります、心外ですが」
心外なのか。自覚があると思っていたけど。
「しかしながら、百合ではありませんので、渋井さんの裸に興味はありません」
「だそうよ」
「いやいや、これは裸に興味があるとかではなく、もっと場を混沌させようという策略に違いない。まさしくさっき里穂が誤解したように、僕が脱がしたと思わせるとか」
「なるほど」
小夜は残念そうな溜息をついた。
「残念ですね。わたくしを、そんなふうに解釈していたとは」
「え?」
「わたくし、やるときは容赦いたしませんよ。まず渋井さんだけではなく、水沢さんも脱がすでしょう。さらに気絶したように寝ているのでしたら、そのまま裸のお二人を上と下にして、さらにローションで──」
「分かりましたもういいです」
「あ、昨夜のうちに、ママからメッセージが届いているわ。気づかなかった」
そう言って里穂がスマホを見ながら、
「ふむふむ。『里穂、あんたは夢遊病の癖で、寝ながらパジャマを脱ぐから、旅行中は気をつけなさいよ』だって。へぇ、そうだったのね……えぇ、あたし、脱ぐ子だったの!?」
いままで知らなかったのか。
これで解決、と思いきや。またも小夜が余計なことを。
「ですが水沢さんが、裸の渋井さんを放置していたのか。まだ無罪が決まったわけではありませんよ。水沢さんにも夢遊病の癖があったかもしれませんからね」
「……は?」
気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。




