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 里穂が右手をぶんぶんと振る。


「いやいや、あたし、エロくないし」


「でしたら、ことに及んではいなかったのでしょう」


「えー、そうなの? そうなのね、なんだぁ」


 がっくりきたらしい里穂。

 しかし、ここで疑いの眼差しを、この僕に向けてくる。


「だけど、あたしが裸だったのは、高尾──さては、あたしが爆睡しているところを襲ったのね! もう高尾、そんなアグレッシブなところがあるのなら、ちゃんとあたしを起こしてくれればいいのに。ばかね」


 こんどは僕が右手を横に振るところか。


「いやいや、僕は気絶していたんだから」


 しかし信じていない様子の里穂。


「ならどうして、あたしの衣服が脱げていたのよ」


「僕はてっきり、夜這いするため、里穂が自分で脱いだのかと」


 120パーセント、そんな理由だろうと思っていたけど。


 僕の指摘に対して、里穂は頬を朱に染めて、


「あたし、夜這いするときは服着ているわよ──だって、ほら高尾に脱がしてほしいし」


 知らん。


「ふむ。僕でも里穂でもないのならば──普通ならば、その時点で容疑者ゼロとなっていた。しかし、いまこの部屋には、もう一人いる!」


 びしっと小夜を指さす。

 里穂も『なるほど』という様子。


「あ、言われてみると。そうね犯人は、そこにいたわ」


 小夜が迷惑そうな顔をする。


「まさか、わたくしが渋井さんの衣服を脱がせたと? わたくしはヤンデレと言われたことはあります、心外ですが」


 心外なのか。自覚があると思っていたけど。


「しかしながら、百合ではありませんので、渋井さんの裸に興味はありません」


「だそうよ」


「いやいや、これは裸に興味があるとかではなく、もっと場を混沌させようという策略に違いない。まさしくさっき里穂が誤解したように、僕が脱がしたと思わせるとか」


「なるほど」


 小夜は残念そうな溜息をついた。


「残念ですね。わたくしを、そんなふうに解釈していたとは」


「え?」


「わたくし、やるときは容赦いたしませんよ。まず渋井さんだけではなく、水沢さんも脱がすでしょう。さらに気絶したように寝ているのでしたら、そのまま裸のお二人を上と下にして、さらにローションで──」


「分かりましたもういいです」


「あ、昨夜のうちに、ママからメッセージが届いているわ。気づかなかった」


 そう言って里穂がスマホを見ながら、


「ふむふむ。『里穂、あんたは夢遊病の癖で、寝ながらパジャマを脱ぐから、旅行中は気をつけなさいよ』だって。へぇ、そうだったのね……えぇ、あたし、脱ぐ子だったの!?」


 いままで知らなかったのか。


 これで解決、と思いきや。またも小夜が余計なことを。


「ですが水沢さんが、裸の渋井さんを放置していたのか。まだ無罪が決まったわけではありませんよ。水沢さんにも夢遊病の癖があったかもしれませんからね」


「……は?」


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