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このキスは千沙のときとは違う。
何が違うかといえば──えーと、味わい?
真紀さんは頬を赤らめて、なんかもじもじしている。
小夜が『してやられました』という顔で言う。
「ここで積極的に攻めてくるとは、侮りがたいですね滝崎さん。そこで水沢さん──」
顔がほてっていたが、小夜が寄こそうとしてくる小箱を見て冷めた。
「どうぞ、最強の武器にして防具コンドームです」
「いきなり何を渡しているのかな」
「今夜は滝崎さんのお部屋に一泊でOKですね?」
ここで自分を客観的に考えてみた。
分析的思考ON。
確かに真紀さんで一択な気もする。
しかしここで真紀さんの部屋に泊まれば、間違いが起きるはず。
獣モードに突入すること請け合い。
小夜と陽菜さんの管理下で、そこに至るのは癪だ。
というわけで真紀さんはない。
残るは千沙と里穂。
コントロールできそうなのは、里穂かなぁ。さっき胸見たけど。
「里穂にする」
小夜が明らかに舌打ち。
「わたくしも陽菜さんも選んでいなかったところを突いてきましたか」
やはり、誰の部屋を選ぶかで賭け事みたいにしていたな。
真紀さんが地味にショックを受けた様子。
「え、高尾くん。里穂のところに泊まるの?」
「真紀さん、これは仕方なしなことで」
決意のまま部屋を出て、里穂の部屋へ。
間違って、千沙の部屋に入った。
退屈そうにスマホを弄っていた千沙が、ハッとして顔を上げた。
「水沢くん! やっぱりわたしのことが──」
「あ、ごめん。間違えた。おやすみ」
僕が出ていこうとすると、止められた。
「嫌がらせ!」
「そっちが嫌がらせだって水沢くん!」
千沙を振り切り、里穂の部屋に避難。
里穂の姿はなかったので、とりあえず入らせてもらって座椅子に腰かける。
ふと里穂と目があった。
トイレ中だった里穂と──まて。なぜドアが開いている。
「なに、なんで、変態!」
「これは僕が悪いのか! 悪いような、そうでないような!」
慌てて廊下に避難。
小夜が唖然とした顔で立っていた。
「乱心ですか?」
「うるさいな」
「お渡ししておきます」
しつこくコンドームを押し付けてくる。しかもなぜか疲れた様子で。
「わたくし、夜22時には寝る人なのです。もう5分過ぎました。睡眠不足は最悪です。どうしてくれるのですか?」
「なんで僕が責められてるんだろう……しかし僕も疲れた」
よって押し返す力もなくコンドーム箱を手に取って、小夜と別れた。
小夜はあくびしながら部屋に戻っていく。さっきまでのエネルギーが、まったく感じられない。22時をすぎたからかぁ。分かりやすいな。
部屋に戻ると、ちょうど里穂が手を洗っていた。
先に謝っておこう。
「里穂。さっきはごめん」
「いいのよ。あたしも油断したわ──え、高尾。それを持っているということは」
里穂の視線を追うと、僕の右手にある小箱。チョコではありませんコンドーム。
「つ、ついに、決意したのね高尾!」
ほらぁ。小夜め、面倒な誤解を生んだじゃないか。
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