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最後は真紀さん。
真紀さんの部屋に入る。
真紀さんは浴衣姿で、座椅子に腰かけていた。
なぜだろう。それだけで色っぽい。
僕は真紀さんの真向かいに座った。
「……」
「……」
沈黙が重たい。
「えーと。良いお日柄ですね」
凄まじくバカなことを言ってしまった。
真紀さんはクスっと笑ってから、
「どうして緊張してるの、高尾くん?」
「いやぁ、2人きりは久しぶりな気がして」
「そうかも。いろいろと話したいことがあったんだよ、高尾くんと」
「僕もだよ、真紀さん」
さて、いい雰囲気になった。
そんなときに現れるのが、小夜という生命体です。
「おやおや、盛り上がっていないようですね? わたくしの助力が必要のようですが?」
「いや小夜。君の登場は求めてないから」
「残念ながら、そうはいきません。本来でしたら、お二人で王様ゲームでも始めていただきたいところですが──千沙さんのときとは違って、お二人では盛り上がりそうにありませんね」
真紀さんから睨まれる。
「ふーん。千沙と王様ゲームなんかしたんだね、高尾くん。楽しかった?」
どう答えても、ロクなことになりそうもない。
黙秘権を行使。
小夜はうんうんとうなずいてから、
「では、わたくしが王様役を買って出ましょう。わたくしが、お二人で何をするか決めさせていただきます。たとえば千沙さんのときの、ポッキー・ゲームのようなものを」
またも真紀さんから睨まれる。
「ふーん。千沙とポッキー・ゲームなんてしたんだね、高尾くん。楽しかった?」
どう答えても、ロクなことになりそう以下略。
ここで小夜が、さらに余計なことを。
「危うく、千沙さんとベロチューまで至るところでしたよね水沢さん? さすがに、わたくしが止めましたが」
「ベロチュー?」
と、小首を傾げる真紀さん。
真紀さん、ベロチューを知らないらしい。
ググられる前に、話を進めよう。
というわけで、僕は小夜に言った。
「小夜。君がなぜ王様をやるんだ。断固として拒否する」
「ではゲームで決めましょう。わたくしと水沢さんの一騎打ちです。勝ったほうが王様です。そしてゲームですが──31ゲーム、ご存じですか?」
「31ゲーム? 知らないけど」
「陽キャに人気です」
「知らなくて当然だね」
「ではルール説明を。といってもシンプルですよ。2人で『1』から順番に数字をカウントしていき、『31』を言ったほうの負けです。一度にカウントできるのは、3つまでです」
「じゃあ、そのゲームで僕が勝ったら、小夜には退出してもらおう」
「よろしいですよ。しかし、わたくしが勝った暁には──ふっふっふっ」
不穏な笑み。
この状況、小夜には何としても勝たねば。
真紀さんと視線があう。
信じているから、というふうにうなずかれた。
任せて。
「先攻をどうぞ、水沢さん」
「そう? じゃ、1,2,3」
とたん、真紀さんがガクッとうなだれた。
あれ、どうしたんだろう。
あのね、ぼっちとしての人生が長いんだから、こんなゲームをしたことはないんだよ。
しかし、もしかして31ゲームって必勝法とかある?
小夜が「4,5,6」と続けた。
ふむ……この後の展開を考えてみる。
まずこのゲーム、26でカウントを終えた方が勝つよね。一度にカウントできるのは、3つまでだから。
よって僕が26を言えれば、小夜はもう打つ手がない。
26を取るには、22を取ればいい。22を取るには、18を取ればいい。18を取るには、14を取ればいい。14を取るには10を取ればいい。10を取るには6を取ればいい。
だから──
あれ?
もしや、もう詰んだ?
先攻の僕は、3までではなく、2まで言うべきだったんだ。
それなら小夜がどうカウントしても、僕のときに6まで持っていけたのに。
いやいや。まだ小夜が、この必勝法にまでたどり着いていない可能性もある。
諦めずに続けよう。
「7,8」と、ぼく。
「9,10」と、小夜
「11」
「12,13,14」
「15,16,17」
「18」
「19,20」
「21,22」
「23」
「24,25,26」
「……………27」
小夜はほほ笑んで、
「28,29,30」
僕はうなだれた。
「………………………31。負けました」
小夜は満足そうにして、僕と真紀さんを交互に見た。
「ではでは──お二人で、ベロチューをしてください」
おい。
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