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「お邪魔しまーす」


 と部屋に入ってみたら、里穂がベッドの上で寝転がっていた。浴衣を諦めパジャマ姿で。


「高尾。ごはんにする? お風呂にする? それとも、それとも、それとも……分かるでしょ?」


 そう顔を真っ赤にして言われた。


 なんか凄い古典が来た。

 しかもお風呂も夕飯もすでに済んでいる上に、肝心の決めのところがボカされているし。恥ずかしいならやめなさい。


「里穂。無理すると体を壊すよ。旅行先では体調第一」


「高尾、バカにしているわね。だけど余裕を見せていられるのも今のうちよ。あたしにはね、ググって得たエッチな知識というものがあるのよ」


 人々はそれを『付け焼刃』というのであった。


 しかし里穂の今のテンションだと、30分間のうちに事故が起こりそうだ。


「里穂。いいものを見せてあげる」


 ベッドの上で、ちょこんと正座する里穂。

 瞳の輝きが妖しい。


「何か積極的なことをしてくると思っていたわ。高尾も男だもんね」


「準備が必要なんだけど。このテーブルの上に花瓶を置いて、こうやってテーブルクロスを勢いよく引くと──みごと花瓶を倒さずテーブルクロスを引けました」


 テーブルクロス引きで時間を稼ぐ作戦。

 ところが、僕の隙のない作戦が思いがけない展開に。


「ま、まさか、た、高尾──あたしのこと、服を着せたままブラだけ取ろうというのね。テーブルクロス引きのスキルで」


「……いや、そんな気はないけど」


「じゃ、あたしが自分でやるわ」


 里穂は鮮やかに、服を着たままでブラを外し、抜き取ったのだった。


 まさか里穂にそんな技術があったとは。いつ会得したのか。

 

「あら。意外と簡単にできたわ」


「え、初めての挑戦だったの?」


 僕でさえ、テーブルクロス引きには3時間も練習したのに。ちなみにそれは小学3年生の話。


 里穂は頬を赤らめつつ、ぬぎたての下着を差し出してくる。


「あ、あげるわ」


「いらないけど」


「なんでいらないのよ! そこは有難くもらっておくとこでしょ! 日本人は贈り物にNOを言わないはずじゃなかったの!」


 なぜか『日本人とは何か』という壮大な話になった。


「じゃ、もらう」


「え、もらうの?」


 いやいや、なぜそこで動揺するんだ。


 もらった下着は、まだぬくもりが残っていた。


「高尾。顔にのせて匂いかいでも、怒らないわよ」


「あのさ里穂。君は、僕を変態と誤解しているようだが、違います。あえて明言しておくけどね。この下着は、えーと、あとでコインランドリーで洗って返すよ」


「そういうの求めてないのよ! あと高尾、それはそれでなんか変態っぽいわ」


 まてよ。僕の手元に下着があるということは、里穂は今やノーブラか。当たり前だけど。

 里穂もいまさらながら意識してきたようで、耳まで赤くしてもじもじしだす。


 すると僕まで意識してきてしまった。


 とりあえず、もういちどテーブルクロス引きをして、心を落ち着かせよう。



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