62
ひとまず解放された。
今日はもう遅いからと週末デートのプランは、明日に持ち越し。
つまり明日また本庄家に行かねばならない。
地雷だらけでサメがいる本庄家に……自分で考えていて意味不明になった。
クタクタになって家に帰りついたところ、英樹からスマホに電話。
「英樹──生きていたんだね」
「なんで俺が死んだことになってんだ? つーか高尾、だいぶ疲れた声だな」
「話せば長いんだけど」
実際、長い話だった。
僕が話しているあいだ、英樹は静かにしていた。
きっと僕の深刻な悩みに共感していることだろう。
さすが親友。
「てめぇ自慢か、高尾」
「は?」
「本庄千沙っていったら、滝崎真紀に劣らぬ美少女じゃねぇか。胸もでかい。それなのにヤっちまうチャンスを逃すとか。お前それでも男か、高尾!」
「……」
親友、替えたい。
「一度しか言わないからね、英樹。僕は真紀さんが好きなので千沙と関係は結べない。OK?」
「あのなぁ。滝崎真紀にはフラれたんだろ。しかも、一度はお前がフッたんだから自業自得だ」
「それはそうだけど」
「ならもう忘れろ。いまは本庄千沙だ。据え膳食わぬは男の恥というだろ。ここは一発、やっちまえ!」
「それで結婚コースに入るとしても?」
「バカだなぁ。んなわけないだろ。ようは本庄の姉貴を追い返せばミッション完了なわけだろ? ヤることやって、本庄の姉貴を安心させてやれよ」
「……」
英樹の助言に従って、素晴らしく解決したことがあっただろうか。
ない。
「そういえば小夜さんがよろしくって」
「小夜……じゃな、高尾。健闘を祈るぜ」
通話が切れた。
小夜の名を出すと、英樹は逃げ出すらしい。
これからはウザいとき使おう。
翌日。
登校すると、昇降口のところで里穂を見つけた。
里穂もこちらに気づき、興味津々という様子で近づいてくる。
「どうだったの昨日は?」
「一言で言うと、進展はなし」
「ふーん」
つまらなそうな顔をする里穂。
「いちおう、君は寝取り返される立場なんだからな」
「そういえば、そうだったけ。あたしたち付き合っていることになっているのよね、陽菜姉の前では。ったく、高尾がトンでも設定を作るから」
トンでも設定を再確認しとこう。
その1,里穂が、千沙から僕を寝取った。
その2,ので千沙が、僕をまた寝取り返す。
というのが陽菜さんが信じているトンでも設定。
「ごめん、ごめん。あのときは、最善だと思ったんだ。けど逆効果だった」
いずれにせよ、里穂が略奪愛したと信じているのは、陽菜さんくらいなものだ。
同席していた真紀さんと千沙は、嘘だと分かっている──はずだけど。
真紀さんには念のため、あとで説明しておこう。
昨日のことを話しながら、僕と里穂は教室に入った。
とたん、クラスの空気が違うと気づく。
黒板には、『水沢高尾』『渋井里穂』の名で相合傘が書かれていた。
無駄にデカデカと。
高校生なのにガキっぽいことを。
まった、まった、それよりも──。
僕と里穂が付き合っているトンでも設定が、漏れた? なぜ?
里穂が僕を小突く。
「トンでも設定が、クラスメイトにまで広がっているわよ」
「これも一種のパンデミックかな」
「封じ込めに失敗しているじゃない!」




