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「いちおう聞いておくけど、小夜さん。そのカオス作戦が成功する見込み、あると思うの?」
井出小夜は小首を傾げて、熟考スタイルを取った。
それから出した答えは、
「45パーセントの成功率です」
「……なるほど」
そもそも何をもって成功といえるのだろうか、この作戦は。
いやまて。僕はまだ作戦の全容を聞いてはいない。小夜が話したのは、第一段階のみだ。
この先に、第二段階が待っている。
「では、さっそく始めましょう」
と言うなり小夜が、僕の腕に自分の腕を絡めてきた。
「わあ、なんだ」
ヤンデレとはいえ、小夜は可愛らしい子だ。
そんな子にいきなり密着されたら、ドギマギするのは当然。
「カップルですので、イチャつかねばなりません。イチャつかないカップルなど存在しますか?」
なんか禅問答みたいなことを言いだした。
「けど今はギャラリーがいないんだから、イチャつく必要もないのでは? 標的は英樹なのだから、彼の前でこそイチャつかないと」
小夜は身を離して、
「なるほど。それは正論ですね。では参りましょう」
「どこへ?」
「英樹のもとへです」
だと思った。
ここは流れに任せていくか。
ところで英樹はどこの個室にいるのか。
そして英樹を発見する前に、里穂が追いかけてきた。
「高尾。何か怪しい動きと思ったけど、こんなところでイチャついているなんて」
「イチャついているわけではなくて、小夜さんに脅迫されている」
里穂は愕然とした様子。
「脅迫材料をヤンデレに握られるなんて」
そんな、この世の終わりみたいに言わなくてもいいのに。
「てめぇら一体なにしてやがんだ?」
ふいに声がしたので視線を転ずると、いいところで英樹がやって来た。
待ってましたとばかりに、ヤンデレ、ではなく小夜がくっ付いてきた。
「わたくしは高尾さんとカップリングしました。もう英樹の出る幕はありません。わたくし達はこれから、ラブホへ行きます」
念のため僕はひとこと言っておいた。
「いや行かないよ。どういう展開の速さ?」
「わたくしは、英樹から大切なものを奪ったのです」
と、小夜が解説を入れてきた。
さて友情とは、危機的状況でこそ試されるものである。
英樹が焦った様子で、
「なんだって? まて小夜。それだけは勘弁してくれ。高尾を犠牲にするわけにはいかねぇ。人身御供に出すわけには」
大袈裟だなぁ。
「では、わたくしと寄りを戻しますか?」
結局、小夜の真の目的は復讐ではなく元鞘だったのか。
いや元鞘に収まってから、じわじわと復讐するつもりかもしれない。
ありえそうな話だ。
一方、英樹は苦悶の表情。
しかし覚悟を決めた。
「ぐっ、仕方ねぇ。命を取られると分かっていて、高尾を小夜に渡すわけにはいかねぇからな。小夜、てめぇの要求を呑むから、高尾には手を出すんじゃねぇ」
英樹、ヤンデレと殺人鬼をごっちゃにしてないかな。
まぁ小夜と英樹が元鞘に収まるのなら、もうそれでいいんじゃないか。
とりあえず、僕は英樹の肩をポンと叩いて、
「ありがとう英樹」
英樹はフッと笑って、
「オレがお前を見捨てるわけねぇだろ」
小夜が目じりの涙をぬぐう。
「お二人の友情に感動です」
里穂がすっかり興味を失った様子で言った。
「あたし、ソロで歌ってくる」
ところで第二段階とは何だったのだろう。
いまや闇の中だ。




