48
カラオケ店に到着。
初めての場所なためか、小夜は興味津々でキョロキョロしている。
「カラオケって、考えてみたら僕も中学生以来だ」
ボッチ生活していると、とくにカラオケにも用はない。
一人で来るほど、歌うのが好きでもないし。
ちなみに里穂はよく来るらしく、アニソンを中心にしたレパートリーを持っていた。
「とりあえず、ドリンクバー行ってこようか」
小夜を個室に残して、里穂とドリンクバーに向かう。
そこで英樹と会ったので、
「やあ」
と声をかけた。
……いや、なんでいるんだ。
「よう、高尾じゃねぇか──おっとデートかぁ?」
里穂を見てから、そう付けたしてきた。
チキンレースというふざけた助言をしたことなど、とっくに忘れていそうな男である。
「えーーと、そうだね」
英樹が秘密めかして言う。
「実はな、オレもなんだ」
連れの女子はここにはいないので、個室にいるようだ。
「聡子さん?」
聡子とは先週、動物園で地獄になるキッカケを作った女子だ。
つまり、小夜と二股かけていた子。
すると英樹は顔をしかめて、
「いや聡子じゃねぇよ」
さては捨てられたか。
まぁ二股が発覚したんだから当然な話だが。
ということは──
「まさか新しいカノジョ?」
「おう、お嬢さま学園のピュアな女子だぜ。間違ってもヤンデレなんかじゃねぇ」
「へえ……お嬢さま学園? まさか白鉦学園の子じゃないだろうね」
「お、分かるか? むろん白鉦学園の女子だぜ。実はな、前に小夜を迎えに行ったときにさ、その子と出会ったわけよ。その頃からの付き合いなんだ」
いやいやいやいや。その頃からの付き合いって、まだ小夜と付き合っていたころだろ。
よって聡子とも付き合っていたわけで──まさかの3股か。
英樹、我が友。女の敵というより、人類の敵みたいになってきたな。
「……ところで確認だけど、いま小夜とは?」
「ああ、おかげさんで別れられたぜ。小夜もオレへの興味を失ったらしくてな。いやぁ、ヤンデレの復讐が怖かったが、何てことはなかったな。はっはっはっ。んじゃな、高尾。渋井さんも」
「じゃあね、英樹」
「さよなら、松本くん」
英樹が去ったところで、僕と里穂は顔を見合わせた。
里穂の目には、恐怖が浮かんでいた。
うーむ。僕の目にも浮かんでいることだろうね。
「……小夜がカラオケに来たがった理由って?」
「ま、まだ分からないわよ。ただの偶然ということも、あるかも」
僕らが個室に戻ると、小夜がほほ笑みかけてきた。
「もしかして英樹にお会いしましたか?」
やっぱり英樹がいること承知での、カラオケ行こうだったのか。
里穂が僕にくっ付いて、震え出した。
「高尾……きっと今日が松本くんの命日になるわよ」
「……まあ命日か知らないけど、たぶん酷いことが起きるんだろうね」
これ以上、英樹と小夜に巻き込まれるのは御免だ。
そこで僕はビシッと言うことにした。
「小夜さん。カラオケに来た目的が英樹なら、僕と里穂は帰らせてもらう」
小夜が手招きする。
僕は怪訝に思いつつ、小夜に近づいた。
小夜が僕の耳元で囁いた。
「わたくしのお友達が、水沢さんをお見かけしたそうですよ──夜の映画館で」
色々な疑問が湧きあがる。
なぜ僕の顔が知られているのか、とか。
しかし、まずはこれを尋ねねばならない。
「……僕は、何をしていたのかな?」
「本庄千沙という方と、ヤバめのキスをされていたとか」
この娘、悪魔かな。




