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 カラオケ店に到着。


 初めての場所なためか、小夜は興味津々でキョロキョロしている。


「カラオケって、考えてみたら僕も中学生以来だ」


 ボッチ生活していると、とくにカラオケにも用はない。

 一人で来るほど、歌うのが好きでもないし。


 ちなみに里穂はよく来るらしく、アニソンを中心にしたレパートリーを持っていた。


「とりあえず、ドリンクバー行ってこようか」


 小夜を個室に残して、里穂とドリンクバーに向かう。

 そこで英樹と会ったので、


「やあ」


 と声をかけた。


 ……いや、なんでいるんだ。


「よう、高尾じゃねぇか──おっとデートかぁ?」


 里穂を見てから、そう付けたしてきた。


 チキンレースというふざけた助言をしたことなど、とっくに忘れていそうな男である。


「えーーと、そうだね」


 英樹が秘密めかして言う。


「実はな、オレもなんだ」


 連れの女子はここにはいないので、個室にいるようだ。


「聡子さん?」


 聡子とは先週、動物園で地獄になるキッカケを作った女子だ。

 つまり、小夜と二股かけていた子。


 すると英樹は顔をしかめて、


「いや聡子じゃねぇよ」


 さては捨てられたか。

 まぁ二股が発覚したんだから当然な話だが。


 ということは──


「まさか新しいカノジョ?」


「おう、お嬢さま学園のピュアな女子だぜ。間違ってもヤンデレなんかじゃねぇ」


「へえ……お嬢さま学園? まさか白鉦学園の子じゃないだろうね」


「お、分かるか? むろん白鉦学園の女子だぜ。実はな、前に小夜を迎えに行ったときにさ、その子と出会ったわけよ。その頃からの付き合いなんだ」


 いやいやいやいや。その頃からの付き合いって、まだ小夜と付き合っていたころだろ。

 よって聡子とも付き合っていたわけで──まさかの3股か。


 英樹、我が友。女の敵というより、人類の敵みたいになってきたな。


「……ところで確認だけど、いま小夜とは?」


「ああ、おかげさんで別れられたぜ。小夜もオレへの興味を失ったらしくてな。いやぁ、ヤンデレの復讐が怖かったが、何てことはなかったな。はっはっはっ。んじゃな、高尾。渋井さんも」


「じゃあね、英樹」

「さよなら、松本くん」


 英樹が去ったところで、僕と里穂は顔を見合わせた。

 

 里穂の目には、恐怖が浮かんでいた。

 うーむ。僕の目にも浮かんでいることだろうね。


「……小夜がカラオケに来たがった理由って?」


「ま、まだ分からないわよ。ただの偶然ということも、あるかも」


 僕らが個室に戻ると、小夜がほほ笑みかけてきた。


「もしかして英樹にお会いしましたか?」


 やっぱり英樹がいること承知での、カラオケ行こうだったのか。


 里穂が僕にくっ付いて、震え出した。


「高尾……きっと今日が松本くんの命日になるわよ」


「……まあ命日か知らないけど、たぶん酷いことが起きるんだろうね」


 これ以上、英樹と小夜に巻き込まれるのは御免だ。

 そこで僕はビシッと言うことにした。


「小夜さん。カラオケに来た目的が英樹なら、僕と里穂は帰らせてもらう」


 小夜が手招きする。

 僕は怪訝に思いつつ、小夜に近づいた。


 小夜が僕の耳元で囁いた。


「わたくしのお友達が、水沢さんをお見かけしたそうですよ──夜の映画館で」


 色々な疑問が湧きあがる。

 なぜ僕の顔が知られているのか、とか。


 しかし、まずはこれを尋ねねばならない。


「……僕は、何をしていたのかな?」


「本庄千沙という方と、ヤバめのキスをされていたとか」


 この娘、悪魔かな。






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