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僕は里穂の肩に手を置いた。
「里穂。小夜の用件は知らないし、知りたくもない。ただこれだけは言える。君が指名されたんだから、僕はノータッチだ」
里穂はニッコリして、
「安心して高尾。あなたも指名されているから。ただ小夜は、あたしの連絡先だけ知っていたわけで」
「え、小夜と連絡先を交換していたの?」
僕が信じがたいという気持ちで言うと、里穂は溜息をついた。
「あのね。同性で連絡先を交換してと言われて、断るのは難しいの。ヤンデレだから嫌です、とは言えないの」
「まぁ、確かに。けど、なぜ僕たちを指名したんだろ?」
里穂は絶望の表情で言った。
「どうやら小夜は、あたし達に友情を抱いたようなのよ」
「友情……友情……」
その日は、その後も散々だった。
まず真紀さんがよそよそしい。
言うなれば、僕に対して塩対応。
これは本庄との件を怒っているのだろう。
しかし、真紀さん自身がそのことを認めない。
本庄はといえば、直接的には何も仕掛けてはこなかった。
だが間接的には、かなりのことをしてきた。
レイトショーデートの件を、クラス中に広めたのだ。
里穂だけならまだしも、まさかクラスメイトたちにまで拡散するとは。
何を考えているのか。
いや、何が狙いかは分かっているとも。
チキンレースは今も継続しているのだ。
で、クラスメイトたちの、僕に対する接し方が変わった。細かなところではあるけど。
たとえば授業中、消しゴムを落としたとき。
これまでは、拾ってくれそうなのは真紀さんだけだった。
ところが今日は違った。
消しゴムが転がった先で、近くの生徒がこぞって拾おうとしてくるのだから。
なんだ、このありがた迷惑な親切は。
まさか、僕のことを『本庄のカレシ』と誤解したためなのか。
それ以外、考えられない。居心地の悪いことこの上ない。
あと長本は死んだような顔をしていた。
なんだか、いろいろとご愁傷様だ。
▽▽▽
帰りのホームルームが終わる。
と同時に、真紀さんが教室を出て行く。
「あ、真紀さん待って」
「ごめんね高尾くん。わたし、部活だから」
先日まで、部活動に熱心でもなかったのに。
「高尾、行くわよ」
真紀さんを追いかけていこうとしたが、里穂に呼び止められてしまった。
これから小夜と会わねばならないんだった。
友情を感じられてしまったので。
ふいに耳元で、甘~く囁かれる。
「水沢くん。昨夜は楽しかったねぇ」
「本庄っ!」
里穂がハッとして、
「あの千沙。悪いのだけど、今日は高尾を借りるわよ。用事があるのよ」
真紀さんに対するのと違って、里穂も遠慮気味だ。
本庄は興味を引かれた様子。
「ふーん、用事って?」
そのとき僕は、ゴジラとキングコングの戦った古い映画を想起した。
毒をもって、毒を制す。




