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昼休みになった。
さて、どうしようかな。
本庄たちのグループと昼飯など食べたくはないが、ここで逃げるのも癪ではある。
迷っていたら、隣席の真紀さんが言った。
「さ、高尾くん。ごはん、食べよ」
里穂が速足でやって来る。
「高尾、高尾。逃げるなら今のうちよ」
「僕は逃げない。一緒に昼飯を食べたいというのなら、食べてやろう」
真紀さんがキョトンとした顔で、
「なんの話?」
「真紀は知らないの? 千沙が高尾くんをお昼に誘おうとしているって」
真紀さんは顔をしかめた。
「つまり、千沙のグループに?」
「そう」
「高尾くん。私がかわりに断ってくるけど、いいかな?」
「いや、断らなくていいよ。僕と食べたいなら、食べてやろう」
里穂が呆れた様子で言う。
「高尾、意地になってどうするの? あそこのグループといたら、絶対に面倒なことになるから。三咲とか、高尾のこと嫌ってるし」
長本三咲は、本庄の腰巾着の一人。当然、グループの中にはいるわけか。
「確かに長本は僕を嫌っているが、だからどうした」
すると本庄が、数人の取り巻きを引き連れてやってきた。長本と石戸の姿もある。
「やっほう、水沢くん」
「本庄、何か用?」
本庄はちらっと真紀さんを見やった。何か勘違いしたらしく、僕に微笑みかけてくる。
「どうやら上位カーストへのコースに入ったようだね、水沢くん」
いや、真紀さんには振られたから。
しかし、それを教える気はないが。
「きっぱり言っておく。僕は上位カーストなんかに入るつもりはない。そんなものに興味もない」
「『上』にいたほうが、いろいろと便利だよ?」
「僕はついこの前まで、底辺のボッチだったんだ。それで快適だったんだ」
本庄がくすくす笑って、
「確かに、キミは面白いかも。これまで埋もれていたのが惜しいくらい。真紀も、掘り出しものを見つけたね」
真紀さんが本庄の前に立った。厳しい口調で言う。
「千沙。そういう言い方は、高尾くんに失礼だよ」
「そうかも。ごめんね、水沢くん。で、昼食のお誘いなんだけど」
「本庄──朝の助言には感謝するよ。だから、もうこれ以上は僕に構うな」
「そんなふうに言われると、逆に構いたくなっちゃうなぁ。けど、今日はいいよ」
本庄が踵を返して歩いていくと、取り巻きたちも続く。
そのさい長本が、『親の仇』みたいに僕を睨んできた。
里穂が嘆いた。
「ああ、千沙のあの顔には覚えがあるわ。新しい玩具を見つけたときの顔よ。高尾、もう少し無難にふるまっておけば良かったのに」
「無難にふるまったつもりなんだけど」
「あれで?」
真紀さんが雰囲気を変えるような、明るい声で言った。
「それじゃ、高尾くん。お昼は屋上で食べよっか」
「真紀、あたしも行くわよ」
「里穂も? そういえば里穂も、お弁当を作ってきたんだっけ」
「真紀は、高尾を振ったわけよね? なら、あたし達は対等ということよね。しばらくは高尾の友達というわけ」
「『しばらく』と限定的なのはどうして?」
「真紀に振られた高尾が、気持ちを変えるかもしれないでしょ。つまり、新しい恋を見つけるかも」
「それが里穂とは限らないと思うよ。というか里穂という可能性は、ゼロに近いんじゃないかな?」
「うるさいわね」
僕はあることに気づいて、微笑ましく思った。
「真紀さん、里穂。やはり2人は仲がいいんだね」
「よくないよ」「よくないわよ」
ハモるあたりが、また仲がいい。




