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 真紀さんが階段かろ転げ落ちたことで、逆立ち一周も強制終了となった。


 真紀さんは悔しそうに、

「いつか、私はやってのけてみせる。そのときは見届けてね、高尾くん」

 という、謎のテンションを維持していたが。


 さて、その夜。合宿も明日で終わり。

 で、僕はまた誰の部屋で寝るのか問題に悩まされることになり、思考停止するために休憩室でマッサージチェアに座っていた。


 そこに里穂が足早にやってきて、


「高尾。いまこそ復讐のときよ。人はそれを愛と平和の気持ちをこめてリベンジと言ったわ」


「リベンジのどこに愛と平和があるのか知らないけれど。で、誰にリベンジするの?」


「もちろん小夜に決まっているでしょ。あたし達、どれだけ小夜に玩具にされ弄ばれたことか。一度くらい小夜を玩具にしたいじゃない。ね、そう思うでしょ高尾?」


 復讐は蜜の味だという。もちろん復讐に成功したら、という前提があるけど。里穂は、まだ味わっていもいない蜜のことを考えて、目を輝かせていた。


「あたしは考えたわ。小夜をぎゃふんと言わせるためには、何をすればいいのかを」


「何をすればいいの?」


「オナニーしているときに、突撃するのよっっっっ!!!」


「……」


 神は天と地をおつくりになり、ついでに渋井里穂もお作りになった。しかし神は疲れていたので、きっとネジを一本しめ忘れたのだろう。


「なに訳のわからないこと言っているの里穂。もういいから、僕は寝るよ。今日はメンタル的に疲れる一日だったのだし」


「まぁ待ちなさい。高尾。自身で考えてみて、最も無防備になるときって、どんなとき?」


「爆睡しているとき」


「あ、それは身体的に無防備ということね。あたしが言いたかったのは、精神的に無防備になっているときよ」


「うーん。想像だけど、たとえば家族が不慮の事故で死ぬとかして──」


 地団駄を踏む里穂。なんか拗ねている子犬的で、可愛い。


「そういう重たい意味じゃなくて! もう分かっていてやっているわね!」


「里穂がどういう答えに誘導したいのかは分かっているけど」


 里穂が拳を握りしめて突き上げる。


「そう、もちろんオナニーよ!!」


 なんだこのハイテンションは。睡眠不足なんじゃないかな。

 僕は周囲に視線をやりつつ、里穂に注意しておく。


「大声で言うのやめてくれない? 痴女だと思われるよ」


「痴女ではなくて復讐者よ! リベンジャー痴女? だから痴女ではないというのに!」


 やはり里穂の脳のリソースが足りていない。


「里穂。君の作戦には、大いに問題があるよね。その1,小夜が今夜オ、オ、オナ」


 里穂が小首を傾げる。


「オナニー? 高尾。そんな簡単な言葉も知らないの?」


 誰か里穂に恥じらいをお与えください。


「つまり、それを今夜やるとは限らない。その2,仮にやったとしても、なぜそのタイミングで突撃できるのかな?」


「あたしたちが、すでに小夜の部屋の押し入れの中に忍び込んでいるからに決まっているじゃない」


「……………………あたし()()って?」


「もちろん、あたしと高尾。最高のチームに決まっているでょ。あ、長丁場になると思うから、先にトイレは済ませたほうがいいわよ。さっそく行ってくるわね」


 と、意気揚々と歩いていく里穂。

 唖然として見送っていたら、別の入り口から真紀さんが入ってきた。里穂との会話を聞かれた? どの程度、聞かれたのだろう?


「高尾くん」


「……はい」


「何か里穂と計画を練っていたみたいだね、高尾くん。私も参加させてもらうよ。ところで、何を計画していたの?」


 え、真紀さんに説明するの? なんの罰ゲーム?


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