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里穂が涙目になって訴えてきた。
「いやよ、脱ぐなんて!」
「そうなの? どちらかというと、里穂は脱ぎたがりなのに。里穂、ワガママいわずに脱ぎなさい」
「こういう流れでは脱ぎたくないの! 恥ずかしいじゃない!」
里穂の『恥じらい』の基準がよく分からない。
「とにかく小夜に命じられて脱ぐというのが、屈辱だわ」
と里穂は改めて、強制命令で脱がされる点を指摘した。
対して小夜は、呆れた様子で溜息。
「まったく罰ゲームを嫌がるとは、ワガママな方ですね」
「もう一勝負しましょ小夜」
「脱ぐものがないでしょう。それとも次に負けたら、罰ゲームとして渋井さん、あなた〇×を△□〇に挿入しますか?」
「………え」
と、重度の熱でもあるように顔を真っ赤にする里穂。
小夜がさらりと言ってのけたのは、里穂でさえ赤面死させる内容だったのだ。
「……高尾がかわりに脱ぐわよ」
こら。
小夜は一考し、それはたいして面白くないと思ったようだ。
「わたくし、男性の裸は英樹以外の興味がありません。いえ女性の裸もとくに興味はないのですが、少なくとも面白みはありますからね。強制脱衣で屈辱を味わわせているときの」
「ドSよ、高尾! この女、ドSよ!」
と、小夜を指さして訴えてくる里穂。
何をいまさらなことを言っているのだろう。まるで灯台を指さして、「あれが灯台よ灯光が見えるもの」と言っているようなもので。
そんなことをしていたら、部屋に真紀さんと千沙が入ってきた。どうやら僕たちを探していたらしい。
「こんなところにいたの──というか、なんで里穂は下着一枚なの? 里穂、いくら変態でもやりすぎ」
と呆れつつ楽しそうに笑う千沙。
もちろん里穂は納得がいかないわけで。
「誰が変態よ!!」
いちおう里穂の名誉のため、僕はこれまでの展開を説明した。里穂が小夜に心理戦を挑み、あまりにあっけなく散ってしまった全容を。
千沙は腕組みして、
「小夜に心理戦ねぇ。里穂って、レミングという動物みたいなことするね」
「レミングって、可愛い動物?」と里穂。
レミングといえば集団で入水自殺する、という迷信があったような。
ところで小夜は新たな『面白み』を見つけたらしい。いまはポーカーフェイスを切っているようで、その表情からよく分かった。
「渋井さんのために、名乗りをあげますか、千沙さん? 代理としてわたくしと戦いますか? そちらが勝ったならば、渋井さんが素っ裸で、温泉宿内ランニングをする刑を免れますが? もちろんそちらが負ければ、強制脱衣です」
まてまて。素っ裸で温泉宿内ランニングって、なんだその地獄。
「あたし、そんな逮捕されるようなことさせられるの! 聞いてないけど! 千沙、助けて!」
千沙はあからさまに視線を外した。
「悪魔のようなヤンデレと心理戦をする自信はないかなぁ」
「裏切り者っ!!」
と弾劾する里穂でした。
いや裏切り者ではないかな。薄情者ではあるけど。意外ではない。
ここで真紀さんが挙手した。
「それなら、わたしが名乗りをあげようかな」
「え?」「え?」「え?」
左から、僕、千沙、里穂。
みなが「え」という反応だったので、真紀さん驚く。
「え? 友達は見捨てられないよね?」
真紀さん、君は天使か。
とはいえ、破滅フラグが立ったようにしか思えないけど。
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