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06.最低な入学式

 学校の敷地内に入る前に、持ち込み禁止のスマホで時間を確認する。少し遅れてしまっている。それもこれもタクシー運転手さんが来るのが遅れてしまったせいだ。

 だけど、まだ少し遅れた程度。

 全然許容範囲のはずだ。

 私達は駆けながら校門をくぐる。電話で聞いた話によると、もう既に始業式が始まっているらしい。

 自分のクラスメイトの顔も知らないまま、体育館へと急いだ。

「あの、すみませんっ!」

「すいません!」

 二人して体育館前で門番をするみたいに立っている、ごつい顔をした先生に謝罪する。

「わかっている、分かっているから、速くいきなさい。二人ともあのクラスだから! あっ、今から行ったら目立つから、もう、後ろに並びなさい!」

 どうやら私達の話は聞いていたみたいだ。

 うっとうしそうに支持する。

 こそこそと、私達はクラスの後ろに余っているパイプいすに向かう。

 だが、先生の大きな言葉もあって、私達はかなり目立ってしまった。

 私達に視線を向けながら、生徒達がざわざわしだす。

「ねえ、なんで二人一緒に仲良く遅刻しているの?」

「カップルじゃないの? 先生たちがタクシーとかなんとかで騒いでたのって、あの二人のことじゃないの?」

「うそー。朝遅刻って二人とも夜一緒にいたの? きゃー、それって……」

 な、なんか、変な噂が立ってるような気がするんですけど。

 やっぱり、電話して報告するのはよくなかったのかな?

 あまりにも大事になり過ぎている気がする。

 一年生はお互いに初対面が多い。だから話の種がなくて困っていたのだろう。おじいちゃんみたいに天気の話から入って仲良くなるのが普通。

 共通の話題なんてない。

 だけど、男女が遅刻して、しかもタクシーに乗ってきた。

 そんなホットで誰とでも分かち合える話題を見逃すわけなんてなかったのだ。

 ううう。

 あの無駄に大きな声の先生のせいじゃないかって思える。

 私達がそもそも遅刻したのが悪いけど、人のせいにしたくなる。ああ、どうしてもっと余裕をもって出なかったのか。そうやって反省するのは一体今日何回目だろう。

 目立つのなんて大嫌いなのに。

 学校もボッチのままでいいぐらいなのに。

 生まれて初めてこんな存在感を発揮してしまった。

 高校生活、一番最初の印象が肝心なのに。

 高校デビューとかして中学のキャラを一新して明るくて元気になるとかなるなら分かる。

 だけど、こんなにも悪印象をみんなに与えるなんて。

 始業式からこんな情報が拡散するなんて、嫌な予感しかしない。

 そして、私達が衆目を集めていた理由が分かる。

「あっ」

 一瞬、静かになっていたのだ。

 後ろから吹奏楽部がラッパの音を大きく鳴らす。

「わっ!」

「なんだ?」

 私と虎鉄くんは驚いて肩をすくめる。吹奏楽部の演奏とともに、教壇の上に立っていた野球部が音に負けない大声をマイクでだす。

「僕達野球部は毎日厳しい練習をしています! 汗だくで太陽の光を浴びて禿げそうになっています!」

 そう言った瞬間、ユニフォーム姿の男達数十人が帽子をとる。

 もちろん、みんな剃っている。

 その一連の動作が面白くて、会場中がドッと沸く。

「だけど! 僕達は甲子園に行くつもりです! そのためなら禿げようが、彼女ができなかろうが、精一杯努力していきます! 新入生の方、どうか野球部に入ってください! 一緒に甲子園を目指しましょう! あっ、女子マネージャーも応募しています! 僕達が甲子園に連れて行きます! 女子の方もぜひ野球部まで来てください! 部室かグラウンドでいつでも歓迎しています!」

 どうやら、新入生のための部活動紹介の紹介だったらしい。入れ替わりのタイミングでシンとしていて、私達が入ってきたからみんな騒ぎ出したらしい。

 タイミングが悪すぎる。

 そう思ったのは刹那のことで。

 タイミングは最悪だった。

「あっ」

 目が、合ってしまった。

 ぼけっとしているよっちゃんではなく、私の目線はさらに上。

 檀上。

 そこに立っているのは、私の憧れの人だった。

 私の進路を、人生を変えたほどの人に目撃されてしまった。

 私と男子である虎鉄くんが、まるで恋人のように誤解されているこの状況を。

 これが久しぶりに出会った憧れの人との再会なんて……。

 最悪の中の最悪だ。

 神様、酷いよ。



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