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20.逆ハーレム

 なんだろうこれ。

 逆ハーレム状態でうはうは。

 やばい。

 私の人生バラ色。

 勝ち組ロード驀進中。

 さいこー。

 ……なんて、思えるはずがない。

 私にとっては拷問に近い。

 男子との絡みなんか皆無だったはずの私が、いきなり男子二人と箸をつつき合うような関係になるなんて思いもしなかった。

 私には憎増もできないことだけど、きっと楽しんだろうな。

 妄想する女の気持ちなんて一切分からないけど、きっと気分いいんだろうなって。

 漠然と考えていたけれど。

 自分がなってみると地獄でしかなかった。

 なんなの?

 人生経験のない私にこんなこと経験させて、神様は何がしたいの?

 私が何もできずにあたふたしているのを笑いたいの?

「なんだよ、箸進んでないじゃん」

「いや、うん、ごめん」

「は? 何謝ってんだよ」

 虎鉄君が凄む。

 怒っていないのかもしれない。

 ただの素なのかもしれないけど、やっぱり怖い。

 やっぱり、この人って不良っぽいなあ。

「怖がっているからやめたら?」

「はあ?」

 や、やめてほしい。

 虎鉄君は虎鉄君で怖いけど、その怖さに物おじせずに普通に挑発するみたいな言い方をする猫山君だって怖い。

 別の意味で怖いけれど、猫山君の方がある意味恐いな。

 火種をどんどん拡大させるんだから。

 事なかれ主義の私とは真逆の人だ。

 そして。

 そういえばと、猫山君がまた爆弾を投下しそうな前置きをする。

「そもそも君達ってどういう関係なの? 噂でしか聞いてなかったけど。付き合ってるとか、付き合っていないとか」

「なっ――」

 猫山君の耳にもやっぱり届いている。

 その噂は、正直デリケートで、放置していたものだった。

 ぶっちゃけ、面倒な絡みにしか思えない。

 猫山君って普段は優しくて親切な人なのに、たまにこうなるな。

 虎鉄君とは相性が悪いのかな、やっぱり。

「まあ、それはないって分かっているけどね」

「ああ? どういう意味だよ」

「君みたいに粗暴な人と、安藤さんとじゃ釣り合わないしね」

 どっちの意味で?

 好意的に受け取れば、私の方がいい人だと思われているってことだけども。

 でも、逆に虎鉄君のことを買っていれば、私がダメダメだと言われているような気がしないでもない。

 いや、流石にそれは卑下しすぎかな?

「ほう。ただの優男かと思ったら、言うじゃねぇか。それは、けんか売っているってことでいいんだよなあ」

「ただ事実を言っただけなんだけどなあ」

 どうしよう。

 これ、私のために争わないで! とか勘違い台詞をいうタイミングな気がする。

 まあ、いいたくてもいえないんですけどね!

 たとえ、冗談であっても、そんなこといえるはずもない。

 自意識過剰にもほどがある。

「そ、それより、ご飯食べましょう、ね!」

 私に言えるのは、中途半端なことだけだ。

 どうにかこうにか仲裁できないものか。

「それよりってなんだよ。それよりも、っていうならなあ、昨日何があったんだよ」

「あっ、それは……」

 言えないことだ。

 猫山君は私の沈んだ顔を見て、また怒ろうとするが、

「心配しているんだからさ、ちっとは頼ってもいいんだぞ」

 虎鉄君が優しい声色でそうぃうと、黙りこくる。

 ああ、そうか。

 私は友達を失ったけれど、新しい友達を手に入れることはできたのかもしれない。

 男子と女子で友情が生まれるか、否か。

 そんなの、私にはよく分からない。

 恋愛のれの字も知らない私にとって、異性とのコミュニケーションなんて未知の領域だ。

 でも、嬉しかった。

 虎鉄君も、私のことを心配してくれたのだ。

まともに説明せずにどこかへ行ってしまった私のことなんて、虎鉄君のことだからまずは怒ってもいいだろうに。

 事情も知らないのに、こんなにもよくしてもらっている。

 それが、本当に嬉しくて、助かる。

 こういう人が一人いるだけでも、救われるものなんだな。

 ああ、でも、そんな大切な人に、私は大事なことを言っていない。

「昨日は、ごめんね。どこかへ行って」

「いいよ、べつに。それより、大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫だよ、きっと」

「なんだよ、それ」

 大丈夫じゃなかったけれど、今、ちょっとだけ大丈夫になった気がする。

 二人に優しさに触れて、随分と私の精神も回復してきた。

 嬉しい。

 きっと二人がこうして私をお昼に誘ったのも、私を元気づけさせようとしてくれたからだろう。

「良かった。思ってたよりも君がいい人そうで」

「あんだと、コラッ!!」

「あれ? 褒めたつもりだったんだけど、だめだったかな?」

 それから二人は昼飯を食べている間、ずっと口論を続けていた。

 騒々しくて、面倒だった。

 でも、それ以上に私は笑った。


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