15.マッスルボディ
「ちょっと脱ぐわ」
濡れた服を虎鉄くんは雑巾みたいに絞る。
私の視線は彼の肢体に奪われる。
筋肉すんごい。
バッキバキに腹が割れている。
腕の筋肉も盛り上がっていて、これが男の人の身体かー。
女の人とは全然違う。
それに、他の男の人とも多分違う。
キッチリ鍛え上げられている。
軍隊にでも入ってそうな鍛え具合だ。
部活動とかしているのかな?
「なに?」
「いや、なんにも」
あれ?
そんなに凝視していたかな?
「虎鉄君、どうしたの?」
「いや、特に用事はないんだけど、何しているのかなって」
「まあ、部活終わって疲れていたところかな」
浴びるように水を飲んでいたところ観られたのかな?
だったら恥ずかしいな。
というか、特に用事ないのに話しかけられたのか。
なんでだろう。
中学までは、プリント提出した? とか用事でしか話しかけられたことがなかったから新鮮だ。
私も用事がなければ他人に話しかけるような人じゃないし。
たとえその相手がよっちゃんであってもだ。
無意味なことはしない主義だ。
それでも話しかけてくるってことは、私のことを友達だとか遅刻した同士だとか思ってくれているってことかな? なんて思ってみたけど、そうでもないのかも。
普通の人だったら、特に何もないのに話しかけるのは普通なのかもしれない。
だって、天気の話とか、昨日のテレビの話とか将来全く必要のないようなことを無意味に話すような人達なのだ。普通の人って言うのは。
だから、こうして話しかけてきたのも特に意味がないことなのかもしれない。
「部活?」
「部活、うん、部活って言っていいのか分からないけど、応援団に入ったんだ」
「応援団!? なんでそんな人気ないのないのに入ったんだ!?」
「え? 人気ないの?」
「応援団って絶対に必要だけど、あまりの過酷さに団員がすぐ辞めるから、強制的にクラスから代表を選んで、応援団に無理やり入れさせることもあるって、先輩が言っていたけどな……」
「そ、そうなんだ……」
どうりで団員が少なかったわけだ。
あの人たちも無理やり入らされて人なのかな。
それしても、そんな過酷だなんて。
男子の人達でさえ音を上げるような練習なのに、私なんかが続けていけるのかな? ううん。不安に思っちゃだめだ。
自分の目標を達成させるためにも、応援団で頑張り続けなきゃいけない。
「そういえば、虎鉄くんはどこか部活入ったの?」
「入ってないけど、迷っているんだよな。バスケもサッカーも好きだし。どこに入ればいいのか……」
そっか。
虎鉄君は私と違う意味合いで悩んでいるのだ。
だって、虎鉄君はなんでもできるのだ。
スポーツ全般きっとできるのだろう。
これだけ鍛え上げられていた肉体を持っているのなら、どの部活だって虎鉄くんのことを欲しがるだろうし。
選択肢がありすぎて悩む人だっているのか。
私は選択肢がなさすぎてどうしようかって悩むタイプなんだけど。
「虎鉄君だったら、どこでも大丈夫なんじゃないの?」
「うーん。でもどのスポーツも大体経験しているから、挑戦したいんだよな、色んなことを」
「へえ」
挑戦したいって気持ちは応援したいな。
私も挑戦を今まさにしているところだから。
「身体を動かす部活がやりたいんだけど、なんかあるかなー。あっ」
私を見て何かを思いついたような声を出す。
「応援団に入ろうかな……」
「えっ、なんで?」
なんだかもったいないと思ってしまった。
別に応援団を下に観ている訳ではないけど、他の部活、スポーツができるのならそれを生かしたことをやればいいのに。
応援団はボランティア精神にあふれた人がやればいいと思うんだけど。
どうにも虎鉄君のイメージはそういう慈愛に満ちた人とはかけ離れている。
まあ、私も人のことは言えないんだけど。
「なんだか、安藤ができるんだったら俺でもできるかなって思ってな」
なんだかずいぶんと失礼なことを言われた気がすけど、そこは置いておこう。
「そう? まあ、喜ぶと思うけど」
「そっか! 安藤も喜ぶか!」
なんだか嬉しそうに笑われたけど、私が喜ぶんじゃなくて、みんなが喜んでくれるってことなんだけど。
応援団の団員も少ないことだし。
でもまあ、虎鉄君も喜んでいることなので、私も何も言わないでおこう。




