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6-4




 「亮――っっ!!」

 と、ほぼ同時だった。うるうる、と今にもこぼれ落ちそうだった結の瞳からは大粒の涙が溢れ出し、結は、ぐずぐず、と鼻をすすりながら、それを必死に手で(ぬぐ)っていた。

 ……たぶん、俺が無事だったことに心から安堵(あんど)し、張りつめていた緊張(きんちょう)の糸が一気に(ゆる)んでしまったのだろう。結はそれから、「よかった」「ほんとうによかった……」と、涙ながらに何度も(つぶや)いていた。

 それを見て俺は、「は、ははは……」となぜだか微笑してしまう。……おそらく、俺自身の緊張の糸も、だらんだらん、に緩みきってしまったのだろう。その結果、俺にはもはや、そんなふうにただ変な感じで笑うことしかできなかったのだ。

 ――次の瞬間、俺は思わず、思いっ切り安堵のため息をつくことになった。

 それはきっと、微笑して気を紛らわせた程度では俺の身体がついてこれず、その緊急解決策として俺の脳がそうさせたのだろう。俺はそのまま、何度か大きく息を吸っては吐いて、まるで深呼吸でもするかのように、ため息を連発することとなった。

 ――そして、数秒後。ようやく回復した俺の意識は、最後にもう一度、

 「よかった……」

 と、俺に最後のため息をつかせた。

 ……本当によかった。俺も、結も、〝生きている〟……一時は死んだとさえ思っていたけど、こうやって、ちゃんと〝生きている〟……! 本当に、よかった!

 ――いや、でも、何でだ? と安堵の中。俺の中でその強烈な疑問が残った。

 ……何で俺たちは、屋上から飛び降りて生きているんだ? そりゃあ結のことは、俺がクッションになったと考えても、だ……その俺は? クッションになって、〝全ての衝撃を一身〟に受けたはずの俺が、何で今も生きていられるんだ……???

 当然のことながら、気になった俺は慌てて辺りを見回すと……その時だった。地に付けていたはずの手の平に、明らかに地面ではない、〝細い何か〟が集まったような……そんな妙な感触のする、〝何か〟が当たっていることに、今さらながら気がついた。

 俺はすぐに手をどけて、その〝何か〟を見てみると、それは……

 「緑色の……〝ロープ〟???」

 いや、正確には、それらが交差しているこれは……〝(ネット)〟だ。

 ――そう、そこには、サッカーボールや、野球のボールなどがどこかに飛んで行ってしまわないようにするために学校でよく使われている、あの〝緑色のネット〟が張られていたのだ。そのおかげで俺たちは地面へ落下することなく、こうやって生きていられたのである。

 これのおかげで助かったのか……でも、どうしてこんな物が、こんなただの、教室の窓の所に張られているんだ? ボールも何も飛んでこないような所に張っても、全くの無意味だろうに……って!

 ああっ!!?

 刹那、俺は記憶の中に、このネットの〝心当たり〟を見つけた。

 そうだ! 思い出した! これって父さんの墓(店)参りに行った時に、高利が一人でがんばって張ってたやつだ!! 確か――【今こそUFOを~】どうたらこうたらっていう、わけの分からない部活の為に張ってたやつ! ――たぶん、あいつとしては、これはただの〝見せかけ〟。俺(たち?)はちゃんと部活してますよ~! って言うために、おふざけ半分で張ってた物なんだろうけれど……そうか! 俺たちは、そんな〝偶然の産物〟に助けられたんだ!

 「は……ははは……ははははははははは!!」

 ――次の瞬間だった。

 俺は、そんな偶然を……〝奇跡〟を前に、大声で笑ってしまっていた。

 それを聞いた結は一瞬、ビクッ、と身体を震わせて、それからゆっくりと、ぽろぽろ、と未だに涙をこぼしながらも、顔を上げた。

 「……り、りょう……?」

 「――ははは! いや、すまん結! こんな偶然があるのかって、つい、な……」

 ――だけど、と俺はすぐに続けた。

 「……だけど、結。これではっきりと〝分かった〟よ!」

 「わ…〝わかった〟……???」

 何が? 聞きたそうな顔をする結に、俺ははっきりと、笑顔のまま言い放った。


 「――神様がお前に……俺たちに、〝生きろ〟って言ってくれてるのがさ!」






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