5-16改 五話目終わり。
「…………え?」
今……なんて……なんて言った?
結が……〝殺した〟!!?
「やっぱり……驚くよね、こんなこと聞かされたら……」
結は、それに補足を付け足すように話した。
「……でもね、これは本当のことなんだ。どんなに違うって否定しようとしても、どんなに逃げたいって思っても逃げられない、変えようのない事実――」
「――ちょっ! ちょっと待ってくれよ結!」
俺は慌てて叫んだ。
「それってどういうことなんだ? そんな話、俺今まで一度も聞いたこともないぞ!?」
「……かも、しれないね」
「かもしれないって……」
でも、と結はさらに続けた。
「……もう一度言うけど、これは変えようもない事実……その証拠に、なんて言うのもおかしいのかもしれないけど……だって、私……〝憶えてる〟から……」
「おぼえ……てる……?」
そう。と結は頷いた。
「……亮は見たことがないかもしれないけど、私のウチにはね、〝お仕事部屋〟っていう、〝私専用〟に作られた特別な部屋があったんだ。まるで刑事ドラマとかでしか見たことがないような、今にも〝裁判〟でも始まるかのような、そんな変な部屋が、ね…………」
「〝お仕事部屋〟…〝裁判〟!? お、おい! それってまさか……!」
「うん…………たぶん、亮が考えているとおりだよ。――その部屋は〝お仕事カード〟を使うための……〝私のためだけに作った部屋〟であって、そこで〝お仕事カード〟を持っていた私は、つまりはその部屋の〝裁判官〟。そして、そんな私の前に〝犯罪者〟として並ぶその人たちは、全員……」
――事件の……被害者たち……!!
「…………っ!」
ギリリ、と歯が鳴った。
まさか、そんなバカな! 有り得ない! ――そう思う俺自身がいる半面、〝憶えている〟という、誤魔化しようもない絶対的な事実を持った結に、俺はその話が真実であると信じざるを得なかったのだ。
「……これで、わかったでしょ、亮?」
……結が、そう呟いた。
「私はもう……ううん、違う。私には〝最初〟から……そう、〝最初〟から、この世界で生きて行く権利なんて、ないの……私は、生きていちゃ、いけないの……だって、私は……今までに数えきれないほど多くの人たちの命を、〝奪って〟きてしまったから……」
「――ち、違う! それはお前が奪ったんじゃない! 奪ったのは白乃宮 在次郎だ!! お前はただそれに利用されただけであって……!!」
「……ううん。違う。私が〝殺した〟の……何も知らずに、笑顔で〝お仕事カード〟をあの人たちに渡し続けて、止まることのない大粒の涙を流しながら『ありがとうございます』って言うその姿を、ずっと〝感謝〟されているものだとばかり思って……あんな残酷なこと、もうどう償っても、償いきれない……だから、最後に、私にできる〝最後の償い〟を……」
「……お、おい! よせ、結! お前は……!」
「……こないで、亮……もう、どうすることもできないの……」
「ち、違う!! そんなことはない! いいか、とにかくそこを動くな! 今そっちに――」
「……あのね、亮……私……亮にずっと、伝えたいことがあったの……」
「つ…伝えたいこと? ――わ、分かった、何でも聞いてやる! だから早くこっちへ!!」
ぐいっ! ……俺は、精いっぱい血がにじんだその手を伸ばしたが、結はそれに全く応えようとはしない。――結はただ満面の笑顔で笑って、それからゆっくりと、口を開いた。
「――亮……〝ありがとう〟。〝大好き〟だよ……」
――次の瞬間だった。
伸ばした手の、あとほんの数センチ先。
そこに確かにあったはずの結の姿は、俺が手を伸ばせば伸ばすほど、触れることもできないほどに、どんどん俺の手から遠ざかって行った。
それはやがて俺の視界からも、まさに目に見えて遠ざかって行き、結の瞳からこぼれ落ちた大粒の涙が、まるで無重力空間にでもいるかのように、宙に取り残されていた。
――俺の頭の中は、真っ白だった。
何も考えられない。今、何が起こっているのか? これらのことが、いったい何を意味するのか? それすらも、分からなかった。
……だけど、
宙に取り残された涙の一粒が俺の頬に触れた、その時。
結の姿が、俺の視界から完全に消失した、その瞬間。
――俺は、俺の身体は……全身は、その全てを理解し、同時に、叫んでいた。
――ゆいぃぃっっッッッ!!!!!!!!!!




