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5-15改




 ……その言葉が結の口から放たれた瞬間、俺の頭の中は、真っ白になった。

 「……え……あ……」

 ……満足にしゃべることなんて、できるわけがない。何しろ、一番結に知られてはいけないことが……これだけは結に絶対に知られてはならないと、胸に刻んでいたそのことが、今、はっきりと、結の口から発せられてしまったのだ。

 ……俺は、どうすればいい? 結に知られてしまった今、俺にはいったい何ができるんだ?

 ……分からない。

 今の俺には、(うつ)ろな瞳のまま微笑む、結のその姿を見ていることしかできなかった。

 ……だから、かもしれない。

 そう思った、その直後。俺は叫んでいたのだ。俺の意思とは関係なく、俺の身体が、勝手に。

 「――関係ないだろそんなの!! お前には!!」

 「――えっ?」

 今度は俺の言葉に結が首を傾げることになった。

 俺は、俺の身体は、続けて叫んだ。

 「そんなのお前には関係ねーよ!! だって、そうだろ!? お前はただ、あの家で生まれて、あの家で育っただけだ! たまたま生まれ育った家で事件があって…それで何でお前がそんなに悩まなくちゃいけないんだ!? まだ幼かった俺にも! お前にも! あの事件の全てを知ることなんてできるわけもないし! ましてや止めることなんてできるはずもない!! ――無理だったんだよ!! あの事件は起きるべくして起こってしまっただけであって、俺たちにはどうすることもできなかった! だから……何も関係ないんだ!! 分かるだろ!? 何も関係ないんだよ!! 俺たちには!! 違うかッッ!!!!!???」

 「………………」

 ……それからしばらくの間、結は、何もしゃべらなかった。

 ……俺はその間、叫んだことによって乱れた呼吸を必死になだめながらも、ただずっと、それ以上は何も言わず、結の〝答え〟を待った。

 ……それから、いったいどれくらいの時間が経ったのだろう? 乱れた呼吸もほとんど元に戻ってしまった頃、ようやく結の口は、ゆっくりと動き始めた。――だけど、

 「……やっぱり、優しいよ、亮は……でも、ごめん……ね?」

 やっとの思いで出したのだろう。消え行くような小さな声で発せられたその言葉は、しかしなぜか、それは俺に対しての明らかな〝謝罪の言葉〟だった。

 「な……何で……謝るんだよ……? お前は何も悪くないって……言ったはずだろ? それなのに何で、謝ったりなんか、するんだよ……?」

 「…………」

 すぐに俺は聞いたが、結はそれに何も答えないまま、顔を伏せてしまった。

 「お……おい……結……?」

 無意識の内に、足が、身体が、結の方へと向かって、ふらふら、と弱々しく動いていた。

 ……このまま、もし、結が何も話さなければ、俺はそのまま結のことを抱きしめて、助けてやれたのかもしれない。

 ……だけど…………だけど、それを拒んだのは、やはり、結自身だった。

 「――ごめん……ごめんね、亮?」

 もう一度そう呟いて、伏せていた顔を上げた結のその表情は、変わらず〝笑顔〟で有り続けていたけれど……しかしその左右で色の違う綺麗な瞳からは、大粒の〝涙〟がこぼれていた。

 「ゆ……結?」

 なぜ、泣いているのか? それは聞く前に結が答えた。

 「……ごめんね? 泣いちゃったりなんかして……でも、私はもう……亮にいくら優しい言葉をかけてもらっても、もう、今までどおり、元のように亮やおばさまといっしょに暮らすことは、できないの……だって……だって私は……〝知ってしまった〟から……」

 「……知って……しまった……? 〝何を〟……?」

 「……それは…………」

 ………………………………。

 ………………再びの長い沈黙の後、結はゆっくりと、だが、はっきりと、答えた。

 「…………それは、あのカード……あの、〝お仕事カード〟を実際に使っていたのは――」

 次の瞬間。結が口にしたその言葉を聞いた、その時、俺は、我が耳を疑うことになった。

 ……そう、なぜなら、それは――


 「〝私〟……あのカードを使って人を〝殺していた〟のは、〝私〟なの……!」






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