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……その言葉が結の口から放たれた瞬間、俺の頭の中は、真っ白になった。
「……え……あ……」
……満足にしゃべることなんて、できるわけがない。何しろ、一番結に知られてはいけないことが……これだけは結に絶対に知られてはならないと、胸に刻んでいたそのことが、今、はっきりと、結の口から発せられてしまったのだ。
……俺は、どうすればいい? 結に知られてしまった今、俺にはいったい何ができるんだ?
……分からない。
今の俺には、虚ろな瞳のまま微笑む、結のその姿を見ていることしかできなかった。
……だから、かもしれない。
そう思った、その直後。俺は叫んでいたのだ。俺の意思とは関係なく、俺の身体が、勝手に。
「――関係ないだろそんなの!! お前には!!」
「――えっ?」
今度は俺の言葉に結が首を傾げることになった。
俺は、俺の身体は、続けて叫んだ。
「そんなのお前には関係ねーよ!! だって、そうだろ!? お前はただ、あの家で生まれて、あの家で育っただけだ! たまたま生まれ育った家で事件があって…それで何でお前がそんなに悩まなくちゃいけないんだ!? まだ幼かった俺にも! お前にも! あの事件の全てを知ることなんてできるわけもないし! ましてや止めることなんてできるはずもない!! ――無理だったんだよ!! あの事件は起きるべくして起こってしまっただけであって、俺たちにはどうすることもできなかった! だから……何も関係ないんだ!! 分かるだろ!? 何も関係ないんだよ!! 俺たちには!! 違うかッッ!!!!!???」
「………………」
……それからしばらくの間、結は、何もしゃべらなかった。
……俺はその間、叫んだことによって乱れた呼吸を必死になだめながらも、ただずっと、それ以上は何も言わず、結の〝答え〟を待った。
……それから、いったいどれくらいの時間が経ったのだろう? 乱れた呼吸もほとんど元に戻ってしまった頃、ようやく結の口は、ゆっくりと動き始めた。――だけど、
「……やっぱり、優しいよ、亮は……でも、ごめん……ね?」
やっとの思いで出したのだろう。消え行くような小さな声で発せられたその言葉は、しかしなぜか、それは俺に対しての明らかな〝謝罪の言葉〟だった。
「な……何で……謝るんだよ……? お前は何も悪くないって……言ったはずだろ? それなのに何で、謝ったりなんか、するんだよ……?」
「…………」
すぐに俺は聞いたが、結はそれに何も答えないまま、顔を伏せてしまった。
「お……おい……結……?」
無意識の内に、足が、身体が、結の方へと向かって、ふらふら、と弱々しく動いていた。
……このまま、もし、結が何も話さなければ、俺はそのまま結のことを抱きしめて、助けてやれたのかもしれない。
……だけど…………だけど、それを拒んだのは、やはり、結自身だった。
「――ごめん……ごめんね、亮?」
もう一度そう呟いて、伏せていた顔を上げた結のその表情は、変わらず〝笑顔〟で有り続けていたけれど……しかしその左右で色の違う綺麗な瞳からは、大粒の〝涙〟がこぼれていた。
「ゆ……結?」
なぜ、泣いているのか? それは聞く前に結が答えた。
「……ごめんね? 泣いちゃったりなんかして……でも、私はもう……亮にいくら優しい言葉をかけてもらっても、もう、今までどおり、元のように亮やおばさまといっしょに暮らすことは、できないの……だって……だって私は……〝知ってしまった〟から……」
「……知って……しまった……? 〝何を〟……?」
「……それは…………」
………………………………。
………………再びの長い沈黙の後、結はゆっくりと、だが、はっきりと、答えた。
「…………それは、あのカード……あの、〝お仕事カード〟を実際に使っていたのは――」
次の瞬間。結が口にしたその言葉を聞いた、その時、俺は、我が耳を疑うことになった。
……そう、なぜなら、それは――
「〝私〟……あのカードを使って人を〝殺していた〟のは、〝私〟なの……!」




