5-2改
「ただいま~。りょう~ごはん買ってきたよ~!」
――ウチに着くと、すでに玄関のカギは開いていた。ということは、亮はもう帰っているはずだと思い、私はそう亮を呼んでみたけれど…………。
……。
……。
……。
…………? いつまで経っても、返事は返ってこない。
もしかして、カギをかけないでどこかに出かけちゃった? ――とも思ったけど、足元を見てすぐに違うとわかった。
そう、亮の靴があったのだ。
「あら? 亮ちゃん帰ってないの……って、なんだ。帰ってるじゃない」
おばさまもそれを見てわかったらしい。「亮ちゃ~ん! ごはんよ~!」と私よりも大きな声で亮を呼びながらウチの中に入って行った。――私もその後に続く。
「――あら?」
と、リビングに入ってすぐ。
おばさまは、テーブルの上に置かれていたスーパーの袋を見つけて声を上げた。
「これって……今日の亮ちゃんの〝お昼ゴハン〟……よね? 何? あの子食べてないじゃない。――ちょっと亮ちゃーん?」
……。
……やっぱり、返事は返ってこなかった。
「……???」
首を傾げたおばさまは、まったく、とため息をついてから私の方を向いた。
「――ごめんね結ちゃん。あの子たぶんすねて寝ちゃってるから、ちょっと叩き起こしてきてくれる? あ、文字どおり叩いていいからね?」
「え……あ、はい……」
……べつに叩くつもりはなかったけど、私は言われたとおり、すぐに二階に上がって亮を起こしに向かった。
「……もしかして亮……まだ具合が悪い……のかな?」
そう、少し不安に思いつつも、私の部屋に繋がっているために普段はしないものの、今回は一応、コンコンコン、と扉をノックしてから私は部屋に入った。
「……亮? 寝ちゃってるの?」
……まだ完全に日は沈んでいないとはいえ、夕方になると日が当らないこの部屋の中は、すでに真っ暗だった。
……電気もつけてないし……やっぱり寝てるのかな?
そう思い、ベッドの方を目を凝らしてよく見てみると……いた。やっぱり、寝てる。
――そこには、布団を頭まで深く被った亮の姿があった。
「亮? 起きてる?」
声をかけると、もぞっ、と布団の中で亮が動いたのがわかった。
なんだ、起きてるじゃない。そう思って私は普通に話しかけた。
「亮、ごはん買ってきたから、いっしょに食べよ? ……それとも、まだ具合……悪い?」
「……」
「…………亮?」
「……」
「…………???」
……いくら待っても、返事はなかった。
……何だか、本当に不安になってきた。
遂には耐え切れなくなって、私は返事を待たずに再度亮に話しかけた。。
「あの……亮? 起きてるん…だよね? ……ねぇ、亮ってば。りょ――」
――うるさいっ!!
「ひっ……!」
突然のその怒鳴り声に、私は思わず小さく悲鳴を上げてしまった。
「り……りょう……?」
わけもわからず、恐る恐る、思わずそう呼ぶと……「……ごめん」とそれから、まるで消え行くような小さな声で亮は話した。
「……ごめん、結。いきなり怒鳴ったりなんかして……だけど、ごめん……今は……」
「あ……う、うん。わかったよ……」
慌てて、私は答えた。
「私の方こそ……ごめんね? せっかく寝てたのに、起こしたりなんかして……あ、あの、その……ご、ゴハン、ちゃんと残しておくから、食べたくなったら食べにきてね?」
「……」
「う……あ……えと……そ、それじゃあね?」
逃げるように言い置いた私は、キイイ、と音が鳴る扉を、できるだけ静かに閉めた。
――と、その時だった。
「……ごめん」
そう、小さく亮が呟いたのがわかった…………。




