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3-7改




 ――どうせ料理を作るのなら、自分たちで材料を買いに行こう。

 (なか)ば俺の提案による無理やり、ではあったものの、そのような結論に至った俺たちは、もうすっかり日が暮れて暗くなってしまってはいたが、もちろん母さんの許可を得て、近くにあるいつもの商店街へと買い物へ出かけることにした。

 そこで、と俺は家の前で、この間の、父さんの墓参り(店参り)の時と同様、結に片目を瞑って後ろからついてくるように指示……しようとしたのだが、それでは今後料理を作る際に色々と支障をきたしてしまうのではないか? という考えに行き着き、あれこれ試行(しこう)錯誤(さくご)したその結果――こうなった。

 「……亮……これ、ちょっと暑い……」

 ――結の格好。それは上から順に、まずは薄い茶色の、深さのある大きなおわん型の帽子。

 次に同じ色の丈の長いコートと、ネックナンタラとかいうちっさいマフラーみたいなやつ。

 そしてその下には、どこにでも売ってそうな安物の白っぽいセーターと、普通のジーパン。

 ……んで、最後に、特に飾りも何も全くついていない、何とも言い難い色の、スニーカー。

 …………はっきり言おう。せっかくの結のかわいさ、美しさ、それらを全て覆い尽くしてしまっているこの残念な格好……これは、そう。所謂〝変装〟というやつを実際に実行した、その成果(?)とも言えるべき格好であるのだ。

 「ちょっとくらい我慢(がまん)しろよ」

 そう呟いてから、商店街に向かって歩く途中、俺は続けた。

 「結はただでさえ髪とか、目の色とかで目立つんだ。だからこうでもしないと、まともに一緒に買い物もできないだろ?」

 「それは……そうだけど……」

 俺の言葉に一応の納得を見せつつも……やはり暑いものは暑いのだろう。結は、パタパタ、と手で自分の顔を(あお)いでいた。

 あはは……そんな結の様子に苦笑いしながらも、そういえば、と俺は思い出して結に聞いてみた。

 「あのさ、ところで結?」

 「…ん?」

 「いや、あの……料理のことなんだけど……何でそんな、俺と勝負してまでお願いしようと思ったんだ? 勝負なんかしなくても、俺たちならいくらでもそんなお願いくらい聞いてやるのに……?」

 「え? あ……えっと……そ、それは……ね?」

 と、結は暑さで火照(ほて)っていたその顔をさらに赤く染めて、まるで消えゆくようなか細い声でゆっくりと答えた。

 「私って……料理、ぜんぜんしたことない…から…………」

 「……?」

 料理をしたことがないから勝負って……ああ、なるほど。そういうことね。

 「……つまり、たぶんあんまり美味しくないものができちゃう可能性が高いから、そしたら〝バツゲーム〟とでも思ってもらおう……と、そういうわけか?」

 「……」

 こくり。……俺の顔を見ずに、結は恥ずかしそうに頷いた。

 ――ああ、なんだ! こんな格好をしてても、結のかわいさは微塵(みじん)も失われてはいないじゃないか!

 ぐっ! 結に見えないように隠れてガッツポーズを決めた俺は、しかし同時に、結の方に空いていた反対の手を…〝小指〟を伸ばした。

 「え?」と不思議そうに目を丸くする結に向かって、俺はその意味を説明する。

 「――指きりだよ。小さい頃はよくやってただろ? ……勝負に負けたから、ってわけじゃないんだけど、俺は今日、〝約束〟するよ。……結、俺はお前が作るその料理が、誰の舌でも(うな)らせるほどの料理になるまで……つまり、〝ウマイ!〟って言われる料理になるまで、何があってもずっと付き合い続けてやる……そう、〝約束〟する!」

 「亮……」

 きゅっ――次の瞬間だった。結の小指が、俺の指と重なった。

 「約束……破っちゃヤダからね……?」

 「ああ、もちろん!」

 絶対破るもんか! その強い意志を胸に、俺はしっかりと結と指きりを交わした。

 ――さて、とそうこうしている内にも、俺たちはいつの間にか、商店街の入り口のすぐ前にまできていた。

 「……よし、じゃあ結。作戦は憶えているな?」

 そこに立ち止り、俺は家ですでに立ててきた作戦を、すぐ隣に立ち止った結に確認すると、結は真剣な表情で、うん! と力強く頷いた。

 「もちろん、憶えてる!」


 一つ、右目は常に閉じていること。

 二つ、今の私は亮の従妹で、名前は(わか)野宮(のみや) (かえで)

 三つ、もしも知ってる人がいた場合は、亮の後ろに隠れて絶対にしゃべらないこと。


 「――だよね!」

 「――よしっ、完璧だな!」

 ――ちなみに楓というのは実在する俺の従妹で、現在小学五年生になったばかりのかわいらしい女の子である。結も実際何度も会ったことがあって、名字が似ているが、これは……って、今はそんな情報、どうでもいいか……。

 とにかく、作戦は完璧である。それを確認した俺たちは、いざ! と一歩、商店街へと足を踏み入れた。

 ――と、ほぼ同時のことだった。

 「――おーう、これはこれは我が親愛なる悪友よ。こんな所で会うとはまた奇遇だな!」





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