3-5改
「「ごちそうさま」でした」
夕食を食べ終わり、食器を流しに置いた俺と結は、いつものように部屋で一緒にゲームをすることにした。
――今回のゲームの内容は、〝レースゲー〟。
……ぶっちゃけると、M印と鼻ヒゲと、真っ赤な帽子がトレードマークの配管工のおっさんとかが出てくるレースゲーだ。ちなみに俺が基本的に使用するキャラクターは、全身緑色で舌がやたらに伸びる恐竜で、結が使用するのはキノコ頭の小人である。
……間違ったことは一切言ってはいないのだが、一応言っておこう。
――全国のMファンさん、ごめんなさい……!!
「――さて、今日はどこのステージにしようか? ……やっぱり、星のとこ?」
「うん!」と結は即答する。――なぜだかは知らないが、結はこの、星のステージが一番のお気に入りらしいのだ。
「えーと、じゃあこのステージで、あーしてこーして……よし、じゃあ始めるぞ……」
「――あ、待って!!」
と、突然、結がそれにストップをかけた。
「ん? どうしたんだ? やっぱり他のステージにするのか?」
ふるふる。結は首を横に振った。
「違うの。今回はその……ま、負けたら、相手の言うことを〝何でも一つだけ聞く〟――っていうルールにしない…?」
「ん??? …あ? えーと……それはつまり、所謂〝バツゲーム〟的なモノを付けてゲームをしよう……っていうことか……???」
こくん。
素直に、結は頷いた。
「そ。……だめ?」
駄目なわけないじゃないか!
――と、すぐにでも即答したかったが、俺はあえて、ここでその〝野心〟を……じゃなかった。〝欲望〟を……ああ、もう本心を隠しきれない……とにかく、そんなのを我慢して、腕組みをしながら悩んでいる〝フリ〟をすることにした。
「……う~ん、ダメ……ってわけではないんだけど、もし俺が勝ってしまった場合、結にそんな、バツゲームなんてものをやらせるのは……ちょっと気が引けるんだよなぁ~……」
百パーウソの塊のセリフを言い終わり、チラリ、と片目だけで結の方を見ると、そこには、
「そんなこと……わ、私だったらだいじょうぶだよ! 亮の言うこと、ちゃんと何でも聞くから! ……だから、ね? お願い……?」
がふっ! と何かが少し、口から飛び出してしまった。
そう、そこには、俺の作戦どおりと言っていいだろう。〝おねだり〟をする結の姿があったのだ。
――潤んだ色の違う左右の瞳。若干朱色に染まった透き通ったきれいな肌。そしていかにも柔らかそうな淡いピンク色の唇……しなやかな腕は、まるで祈るかのようにしてその豊満な胸の前で合わせられ、小首を傾げたようなその姿はまさに、〝天界の天使〟をも思わせるあどけなさ……もはや、語るとキリがない。それほどの、極上なイベントシーン……。
あぁ~もうっ! なんてかわいいんだ、結! 俺は絶対にこのイベントを一生涯、忘れないと誓うぞ! ……ただ、そんな中でも悔いが残るとするならば、残念ながらこのイベントシーンを写真や映像にして残しておけないという点だ。……くそっ! なんてこった! もしこれを残しておけるのなら、俺はそれだけで一生を楽しく過ごせるというのに……!!
「……あ、あの…………亮???」
「――はっ!」
慌てて我に返った俺は、そのまま結に返事をした。
「ああ、うん。そうだな。じゃあ……恨みっこなしでやってみようか?」
「ホント? うん! ありがとう、亮!」
いえいえ、何の何の。それはこっちのセリフですよ、結さん……。
俺は心の中で結に礼を言い、そして、すぐに〝真剣モード〟に突入する。
……この勝負、負けるわけにはいかない!! なぜなら結は、〝絶対に約束は守る〟女の子なのだ。したがって、本当に〝何でも〟俺の言うことを……〝願い〟を叶えてくれるのだ!
――全人類の男性諸君! そして勝利を司る神よ! 俺の勝ちを願っていてくれ! 俺は必ずこの勝負に勝ち、そして、青年誌でも書いていいのかどうかすら分からないようなことを結にやらせてみせる! 必ず!!
――俺は、新世界の〝神〟となるのだ!!!




