表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/223

2-9改




 ――おそらく、と俺はこれを推測(すいそく)する。

 動物は、結のその秘められた異常なまでの〝戦闘力〟を、本能的に、敏感(びんかん)に感知しているのではないか? ……と。もしくは、そもそも結は動物に嫌われやすい性質の持ち主なのではないか? と。……まぁいずれにしても、何の根拠(こんきょ)もない、素人の推測のため、全ては神のみぞ、ならぬ、動物のみぞ知る。というやつになるのだが……。

 「シャアアァッッ!」

 おっと、そろそろ助けてやるか。かわいそうだし。

 そう考え、俺は近づきながら猫に向かって話した。

 「ほらほら、そこの激アツトラ柄毛玉。いい加減に……」

 ……はっっっ!!

 瞬間、だった。ピシャアァッ! と、俺の中に、いつだかも走った、稲妻(いなずま)のような何かが走ったのが分かった。

 猫にケンカを売られるという、特殊な条件下でのみ見られる、結のあの〝表情〟。

 顔を真っ赤にして、今にも泣き出してしまいそうなほど瞳に涙をためて、しかし律儀(りちぎ)にも片目だけはしっかりと閉じて怒っているあの結の表情が、言っては悪いが、ものすごく、


 〝かわいかった〟のだ。


 しかも! と続けさせてくれ!

 「に、にゃああ!」

 間違うことなかれ。今の声は、結の声だ! ――おそらくは、触らせてくれない毛玉に向かって、猫語で「なんでよっ!」とでも言ったのだろう。これにはさらに、ズガガガーンッッ!! ときた。

 ……いや、お前……いったいどんな趣味(しゅみ)してんだよ?

 ――何て思われても、私は一向に構わんっっ!! ……俺はただ、このシーンをずっと眺めていたかった。

 ……………………だが、そうもいかないというところが、ものすごく辛いところだ。そろそろ本当に助けてやらないと……。

 まったく、男は辛ぇな……って、何言ってるんだろう、俺……。

 「こら、毛玉。いい加減にしろよ」

 がしり、とその毛玉の首根っこ(というのだろうか?)を掴んで、俺は結からそれを引き離した。

 ……すると、当然がごとく、毛玉は大人しくなってしまう。

 それを見て、むぅぅ、と唸りながら結は……

 「りょ~う~……!」

 ……分かる。分かるぞ、結。お前の気持ちも、言いたいことも、全部。だから、そんな顔で俺を見つめないでくれ。俺の方がおかしくなっちまう。

 「ははは……まぁ、そのうち触れるようになるさ。べつに(あせ)ることはないだろう?」

 言うと、今度は結が大人しくなった。

 「そう、だけど……」

 しかし、やはり納得できなかったらしい。不服そうに、俺の右手にぶら下がっている毛玉に向かって一言、呟いた。

 「……にゃー」

 おそらく、「今度は触らせてね」とでも言ったのだろう。がっくり、肩を落とし、結はほんの少し、俺……ではなく、毛玉から離れた。

 それを見て、俺は毛玉を解放してやる。

 ――すると、地面に下りて、一瞬毛玉はこちらを、チラリ、と見たような気がしたが、すぐに、ぷい、と顔を背けて、どこかに走って行ってしまった。

 ……何となく、お嬢さま状態の結に似てるな。なんて思った。

 ……ああ、そっか。

 もしかしたら、と俺はこの瞬間、新たな推測を立てた。

 ――動物は結のことを、人間だと思っていないのかもしれない。

 例えば、今の猫。自分と同じ動物に、縄張(なわば)りを荒された、とでも思っていたとしたら?

 例えば、あの時の犬。人間とは違うけど、同じくらい大きな動物がきて、驚いていたとしたら?

 ……全てとは言わないが、何となくつじつまが合っているような気がする。

 ……ま、もし本当にそうだったとしたら、結はまず彼ら(?)の仲間に入れてもらわない限り、一生動物には触れないのかもしれないけどな? ――逆に言えば、仲間にさえなれれば、一生触り放題、ということなのだが。……がんばれよ、結。

 「……っと、しまった! こんなことをしている場合じゃない! 早く行かないと母さんに怒られる! ――おい、結。先に行くから、急いでついてこいよ?」

 「……え? あ、うん。わかった」

 「よし!」

 その返事を確認してから、俺は一応この細道から出る時に周囲を確認して、それから急いで母さんのいる〝あの場所〟に向かった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ