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「丸山さん!」
と、真っ先に声を上げたのは結だ。
会うのは幼い時以来のはずだが、どうやら結は丸山さんのことを憶えていたらしい。さすがにこの時ばかりは色の違う片目を閉じることも忘れ、再会に笑顔の花が咲いた。
ちなみに、たぶん俺も丸山さんには会ったことがあるはず、なのだが……(もちろん)俺は全く憶えてはいない。まぁ、いつもに増してどうでもいいか……。
「おやおや、私のことを憶えていてくれましたか。まぁ、毎日会ってましたからね~」
では改めまして、と丸山さんは笑顔で答えた。
「お久しぶりですね、結さま♪ そう、私こそが白乃宮家の元・一般メイド、結さまのお洋服選びとか、タオルとかシーツとかの洗濯&掃除を主に担当していた、丸山 佳奈子(××歳)です!」
「結さまも憶えていたのに、な、なぜそんな説明口調で……」
愛が聞くと、え? と丸山さんは小首を傾げた。
「だって、どーせ亮さまは憶えてないでしょ? 亮さまがお屋敷に遊びにきた時、いっつも私が結さまの所に連れて行ってあげたのに?」
「うっ!?」
しまった、と思った時にはもう遅い。反応してしまったことにより、気遣って目を伏せてくれた愛以外の三人の冷たい視線が、俺に降り注いだ。
「亮、ウソでしょ? 私の家にくる度会ってたはずなのに、憶えてないの?」
「そういえば亮さま、私と愛のこともろくに憶えてませんでしたね。それこそ毎日のように会ってたのに」
「変わりませんね、亮さまは。ええ、そうですよ。私たちメイドは大勢で一括り。メイドに個人とか、そんなものはありませんよ」
「い、いや、俺は何もそんなふうに思ったことは……いえ、スミマセンデシタ……」
愛や明、丸山さんのことを憶えていなかったことは事実だ。今さらどんな言いわけをしても通るわけがない。そう思った俺はそれ以上言葉を足さず、ただ、小さくなった。
「さて、あんな亮さまのことなんて放っておくとして、さっそく本題に……っと! その前に、変に意識される前に、結さまには言っておかなければなりませんね?」
ビシッ! と丸山さんは人差し指を立て、高い背を折り、結の顔を覗き込むように話した。
「現在の結さまたちのことは、事前に愛や明から詳しく聞いています! その上で言いますが、いいですか、結さま? 私を含め、結さまにお仕えしていたメイドの中に、結さまのことを恨んでいたり、良く思っていなかったりしたメイドは一人もいません。おしゃべり好きで、今でもお屋敷にいた元・メイドたちほぼ全員と連絡を取り合っている私が保証します。だから、今日は何も気にせず、ゆっくりお買い物をして行ってくださいね!」
「……!」
結は数秒、驚いたような顔をしていたが、次の瞬間には再会した時と同様に、笑顔の花を咲かせていた。
「ありがとう」




