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14-10


 ……。

 ……。

 ……。

 ……何が起こったのか? この瞬間にも瞬きをせずに、ずっと見つめていたはずの俺にも、それが分からなかった。

 唯一見えたことと言えば、突然、元・お嬢さまの目の前にいたはずの高利が、本当に突然、俺の真横(、、)に現れ、窓を突き破って落ちて行くところ……それだけだった。

 「さて、と」

 それから、僅かに数秒後。

 「サル退治も終わったことだし、これで気兼ねなく授業に集中できるわね」

 そう、いつものように言い置いた元・お嬢さまは、これもまたいつものように、何ごともなかったかのように自身の机へと戻り、席についた。

 ……そんな元・お嬢さまの様子を見て、俺は思った。

 そんな、まさか……高が、高の作戦が……っ!


 〝勝「勝った〟――とでも思ってるのかしら、亮?」


 「!!???」

 ガタン!

 反応してはならない! そう思う前に、身体が勝手に反応し、俺は席から立ち上がり、たじろいでしまった。

 そして、その反動で思わず、口まで動いてしまう。

 「ど、どうし、て……!!?」

 「簡単なことよ。……愛、明」

 「「はい」」と、元・お嬢さまがその名を口にしたのとほぼ同時だった。教室の入口から現れたのは、先ほど保健室へ道具を取りに行ったはずの御守シスターズだった。

 バカな!!? 俺はまた思わず声を上げてしまう。

 「二人が出て行ったのは、本当にほんの、ついさっきのはず……! いくら二人の足が速いといっても、こんな短時間で教室と保健室を往復できるわけが……!!?」

 「いくらでも方法はありますよ~」

 と、それに答えたのは明だった。明は教室の中に入ってきて、俺の方に向かって歩み寄りながら話した。

 「あなたたちが油断しているスキを見て、気づかれないように一人が取りに走る。単純に、近くを通りかかった際に持って行く。誰かに命れ…こほん。頼んで持ってきてもらう。あとはいずれも近くに隠すだけなので、何も難しいことはありません~。……おっと、そんなことよりも、先ほどの続き、ですけど~?」

 ひょい、と、俺の方に歩み寄る明が途中で拾い上げたのは、〝カバン〟だった。

 それを見た瞬間、ドクン、と俺の心臓は飛び出しそうになった。

 明は、そんな俺の心情を知ってか知らぬか……いや、どう見ても知っている。くすくす❤ と不敵に笑いながら話す。

 「サルにしてはそこそこ知恵を使いましたね~? 本気で勝つ気のフェイク攻撃をして、通用せずに惨敗(ざんぱい)。しかしながらそれこそが作戦で、フェイク攻撃は作戦のためのフェイク。惨敗することによって真の本命である、〝隠しカメラ〟での盗撮を狙う、だなんて~♪」

 「ッッッ!!???」

 驚きを隠せない。隠せるわけがない! まさか、全てを読まれていただなんて……!!!

 「ぐ……くぅっ……!」

 まるで苦虫を噛み潰したかのような気分だ……などという言葉の使い方は、たぶん間違っているだろう。

 だが、今の俺はまさに、そんな気分だった。とにかく、最悪な気分だった!

 なぜなら……ッッ!!!

 「知ってて……知ってて! わざと罠にかかったフリをしていたのか!」

 「そのとおりです」

 答えたのは、愛だった。愛は無表情のまま続ける。

 「いかな妙案を立てようとも、どのような姑息な手を使おうとも、我々には決して、通用しない……それをあの者に知らしめるべく、結さまのご提案であえて罠にかかったフリをさせていただきました。……おそらく、あの者は生き返った後にでも、それをその身に、心に、痛感することでしょう」

 「ッッッ!!!」

 そんな……そんなことって……!!!

 あんまりだ! そう、俺がもう一度、苦虫を……奥歯を強く噛み締めた!

 と、ほぼ同時だった。

 「ん? 考えてみると……あのサルの作戦を知っていながらにして、それを私に知らせることもなく黙っていたあんたって……〝同罪〟じゃない?」




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