14-8
――四時間目開始直前、教室。
「……よし、作戦どおり、警戒してくれているな?」
「みたいだな? ……けどさ?」
作戦のため、わざと、だろう。べつにこなくてもいいものをわざわざ俺の席にまできて、横目で、チラチラ、と……俺たちのいる窓際とはちょうど反対側の、廊下側で立ち話をしている元・お嬢さまを監視する高利に、俺は聞いた。
「この後、どうやって的を一つに絞る気なんだよ? 警戒してんのに、単独行動をとらせることなんて……できるのか?」
「そのことなら……まぁ、見てろ。見た方が早い」
……見た方が早い?
どれどれ? 言われたとおり、俺は元・お嬢さまたちの方を見てみると……すぐに、動きがあった。
「……あれ? 何であの二人……急にゆ…元・お嬢さまから離れて行ったぞ?」
そう。本当に急に、だった。
敵意をむき出しにしたバカのメガネなサルが、明らかに狙っている。そんな状況にも関わらず、お嬢さまを護ることこそが本職のメイドたち。御守シスターズが、さっ、と何の兆候もなく、教室から駆け足で出て行ってしまったのだ。
「よし、作戦どおり! 二人とも道具を持ちに走ったか!」
道具? ――そ、そうか! 分かったぞ!
ばっ! 俺はすぐに黒板脇に貼られた授業の時間割を確認すると、やはり!
本日、水曜日の四時間目欄……そこには、〝保健体育〟と書かれていた! しかも、そこにはご丁寧にも、【本日はHRでも伝えてあるとおり、AEDの操作方法の実演を行います。日直の人は、保健室から~(以下略)】と書かれたピンク色の付箋まで貼られていた!
HRで伝えられていたことを、普段どおり全く聞いていなかった俺でもすぐに分かった! たまたま日直であった二人は、AEDやら何やらを、保健室へと取りに行ったのだ!
「今が絶好のチャンス!!! 亮! 俺様は今日、〝奇跡〟を起こしてみせるぜ!」
そう宣言した、直後だった。
「ヒャッハーーーッッッ!!!」
高利は、どう考えてもやられ役の雑魚のセリフ(?)を叫びながら、元・お嬢さまに向かって突進して行ったのだ!
続けて、高利はこう叫ぶ。
「覚悟しろ! 元・お嬢さま! 今日こそ俺様は、お前のパンツ拝んでやるぜーッッ!!!」
「またか……ふん、何度返り討ちにされても懲りないところは、やっぱりサルね」
死亡フラグ。明らかにいつものソレ(、、)だ。
そう、結も……元・お嬢さまも思ったのだろう。だからこそ出た、今のセリフ……。
それを聞いた瞬間、俺は、思った。
これは、本当に……〝勝てる〟かもしれない……ッッッ!!!!!
――とッッッ!!!
「おぉぉぉぉおおっっっらっああああっっっ!!!!!」
間合いに入るや否や、高利は先制攻撃である、右のストレートを放った!
しかし、高利が作戦どおりに動いているのならば、これはフェイクであり、フェイントだ。事前に俺の時にもやって見せたが、顔面に向かうあの右の拳は、元・お嬢さまの視線を誘い、誘導するためのモノ……本命の一撃である足払いを確実にヒットさせるための囮!
これにどう出る、元・お嬢さま……!?
俺はその一瞬を見逃さないよう、文字どおり瞬きもせずに、一心にそれを見つめた、
次の瞬間だった!




