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 「……立ち上がったが?」

 「うし。そんじゃあ、俺様は今からお前のことを〝殴る〟ぞ? と言っても、めちゃくちゃ弱く、だけどな?」

 「……は???」

 正直、意味が分からなかった。

 だけど、高利はそんな俺を無視するように、言葉を実行に移した。

 「ほれ、行くぜ? おりゃ~」

 ……高利から放たれたのは、ものすごく遅い、右のパンチだった。

 高利はその拳をゆっくりと進めながら俺に向かって話す。

 「さあ、亮! 俺はお前に向かって殴りかかってんだぞ? お前はどうする? 元・お嬢さまの気持ちになって行動してみろ!」

 何? 元・お嬢さまの気持ちになって……だと???

 「……」

 何だか分からないが、とりあえず、やらなきゃ終わらなさそうだったし、やらなきゃ何も分からない。そう思い、仕方なく俺は演技した。

 「だったら、こう……避けて、お前にパンチ……カウンターかな?」

 「スキあり!」

 「んな!!?」

 べしっ! 突然放たれたのは、高利のキック……いや、正確に言えば〝足払い〟だった。

 確かにスキあり。意表を突かれた俺は、「うおわっとと!」という変な声を上げて、そのまま後方のベッドに尻もちをついてしまった。

 「いきなり何すんだよ!」

 当然の抗議。だが高利は、そんな抗議をする俺を指差しながら、言い放った。

 「これ(、、)、さ!」

 ……?

 「こ……これ???」

 どれ??? 分からずに聞くと、高利は補足の説明を始めた。

 「殴られると分かっていれば、人は条件反射的に、自然そっちに注意が行き、他は注意が(おろそ)かになる。しかも、相手は完璧に自分を狙っていると分かっている人物だ。そんな人物が襲ってきたら当然、警戒感はMAXになり、条件反射の注意もより危険度の高い(それ)に集まる……つまり俺様が導き出した作戦とは、『狙っていると分かっている状態であえて素直に狙い、馬鹿正直に正面から突っ込むと思わせておいて実は裏をかき、本命の一撃を叩きこんで〝勝利〟を掴み取る』っていうものさ! ふはは! どうだスゲーだろ!?」

 「……」




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