表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/223

2-5改




 「……」

 …………………………え? 今、何て? 結のことを、〝好き〟? え? え? ええっ~!?

 いや、ちょっと待ってくれ! それってどういう意味だ? もしかして結は俺のこと……いやいやいや、待て、それは考えすぎだ。俺の悪い癖だぞ。だいたい結が俺のことを、その、す、〝好き〟なら、譬え元・お嬢さまという仮面を被っていたとしても、俺に対してあんなにも暴力を振るうだろうか? 暴力は愛情の裏返し? そんな言葉は聞いたことがない。あと、それなら高利にも当てはまっていることになるし……そうだ! きっと結は、何らかの理由があって俺を試しているか、もしくはからかっているんだ。そうでなければこんなことを聞くわけがない。そうだ、きっとそのとおりだ。――でも、もしも本当に結が俺のことを〝好き〟だったとしたら? 俺はなんて答えればいい? いや、もちろん俺としてはこんなにうれしいことはない。それこそ毎日ハッピーライフだ。……じゃあこの、結の質問の答えは、〝好きです〟? ……否、〝愛している〟? ――いやいやいやいやいや、そうじゃないだろう! もしもただの俺の勘違いだったとしてみろ! 恥ずかしい思いをしてフラれた挙げ句、学校で殺されるかもしれないんだぞ! ――いや、でも……だーッッ!! もう(らち)が明かん!!!

 ――俺の長々とした妄想に付き合ってくれた人、ありがとう。くれなかった人、ありがとう。俺は両方に感謝する。

 あれこれ考えても無駄だ! そう思った俺は、結に直接聴いてみることにした――できるだけ、平静を装って。

 「こほん。……ど、どどど、どうしたんだよ、結? きゅ、急に、そんなこと聞いて? やっぱり、ま、まだ、昼間のことで、その、おおお、怒って、いるのか???」

 ……どこが平静なのか、自分でも分からなかった。

 しかし、どうやら言いたいことは通じたらしい。ふるふる、と結は首を横に振って答えた。

 「昼間のことなんて、もう怒ってない。ただ……」

 「た、ただ……?」

 ゴクリ、と(つば)を飲み込んで、俺は結のその答えを待った。早くしてくれ、もう窒息(ちっそく)しそうだ。

 ――そう思った矢先。結は自分の両方の胸……その下方に手を当てて、ほんの少し、それを持ち上げたのだ。

 ぽよん、と俺の目の前でそれは揺れる。

 くはっっ!!? 刹那、こぷっ! と今度は鼻から何かが飛び出しそうになった――が、状況が状況であるため、俺は何とか耐えた。それに、〝漢〟として……!!

 そんな俺の頑張りも知らずに、結はゆっくりと、先ほどの続きを話した。


 「……ただ、あの本に出てた女の子たちって……みんな、〝胸が小さかった〟から……」


 ……。

 ……。

 ……。

 ……へ?

 「それだけ???」

 思わず口に出してしまった。

 だが結は、それに、こくん、とはっきりと頷いて答えた。

 「――だって、私の胸って……あの女の子たちよりも全然おっきいし、もしかして亮はそういうの、嫌いなのかな……って。そしたらもう私、この家にいられないかもしれないって、思ったから……」

 え…………………………あ? あ、ああ! な、何だ、そ、そういうことだったのか!

 数秒、俺は結の言葉の意味が分からなかったが、何とか、理解することができた。

 瞬間、その心の緩み…安堵からだろうか? 俺は、大声で笑っていた。

 結はそんな俺を見てしばらく、ポカーン、としていたが、すぐに正気に戻って、びっくりしたように聴いてきた。

 「な、何!? 私……何かおかしいこと、言った???」

 「ははははは、いや、なんか、安心しちゃってさ。お前、そんなこと考えてたのかよ?」

 「そんなことって……こ、これでも、私にとっては死活問題なんだから!」

 まぁ、確かに。住む所がなくなってしまったら、そりゃあ結も困るだろう。……そうは思いはたが、しかし……長年いっしょに暮らしてきて、たかが、とは言わないが、胸の大きさが気に入らないから出ていけ、なんて俺が言うわけもないだろうに。

 …………いや、でも、逆に言えば、それだけ結は不安だったのかもしれない。何しろ、結はこの町にとっては〝邪魔者(じゃまもの)〟以外の何者でもなかったのだから……それに、俺の家からまでも追い出されてしまったら、結は本当に帰る場所がなくなってしまう。こんな状況で、不安でないと言う方がオカシイというものだ。

 いつの間にか止まっていた笑いを気にすることもなく、俺は結の不安を少しでも取り除くために、たった一言、


 〝大丈夫〟。


 とだけ言った。

 それを聞いて、え? と結は顔を上げる。

 俺は、俺自身のその言葉に補足を付け足すように、続けて話した。

 「俺も、母さんも、結のことが〝大好き〟だよ。……いいや、それだけじゃない。高利だって、クラスのみんなだって、町のみんなだって、本当は結のことが大好きなんだ。――ただ、今はその気持ちに気がついてない……〝気がつけない〟。……ただ、それだけなんだ」

 だから、〝大丈夫〟……。

 話し終わってから、俺はゆっくりと笑った。

 俺の不安を取り除くために、過去に結が何度もそうして見せたように、〝満面の笑顔〟で。

 ……ま、本来ならこの辺で、〝愛の告白〟の一つでもしていれば、相当に格好がつくんだろうけどな? ……残念ながら、俺のような小心者は、そんな度胸など最初から持ち合わせてはいない。

 ……でも、それでも。いくら俺が格好悪くても、結の不安が少しでも減ってくれるのであれば、俺はそれだけで満足だった。

 ――結は、そんな俺の言葉を聞いて、ただ、小さく微笑んでいた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ