表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/223

2-3改




 ――さて、と。

 ヒマつぶしも充分に終わった俺は、もう一度、ふぅ~……と深呼吸をするように深いため息をつき、ゆっくりと身体を起こした。

 そろそろ、くる頃だ。そう思ったからだ。


 ――ザッザッザッ!


 ――次の瞬間だった。

 やはり、きた。


 ガ、ギ、ドン!


 ……何度聞いても、清々(すがすが)しさを感じさせる良い音だ。――なんて思ったが、しかし、今回は間に、ギ、という雑音が入った。

 ……たぶん、毎日尋常(じんじょう)ならざる力で開けられているせいだろう。扉の(みぞ)でもすり減ったのかもしれない。……やれやれ、たまには、ガララ、という、扉本来の音色を(かな)でてやってもいいのに……。

 ――とにかく、そんなこともお構いなしに、今回は珍しく両手にカバンを持ってはいるが、お嬢さまはいつもどおり、ずかずか、と保健室内に入ってきて、そしてこれまたいつもどおり、仁王立ちにて辺りを見回した。

 「……!」

 ……と、一瞬、ぴくっ、とその凛々(りり)しい(まゆ)が動いたかと思ったら、ふん! とため息をつき、お嬢さまはそのまま俺の方に向き直り、また、ずかずか、と歩み寄ってきた。

 ……何だ? 俺の他に、誰かがいたのだろうか? とはいえ、気配も何もしなかった……よな???

 まさか忍者…か何かでもいたのだろうか?

 そう思った俺は、今度は左を向いてみる。

 ……と、なるほど、どーりで気配も何もしなかったはずだ。

 ――そこには、胸の前で祈るように両手を組み合わせ、顔に白い布切れを被せられてベッドに横たわる、高利の姿があった。

 死んでいるんだから、気配ゼロ。これはある意味予想外だった。

 ……というか、お前の存在を忘れていたぞ、高。俺はてっきり、まだ教室の窓の手すりにでもぶら下がっているのかと……。

 「ちょっと、亮」

 いつの間にか俺のすぐ隣に立っていたお嬢さまは、続けて話した。

 「いつまでもそんなとこで寝てないで、さっさと帰るわよ! 早く準備しなさい!」

 殴っておいてひどい言葉だな。……なんて、俺は微塵(みじん)も思わなかった。なぜなら次の瞬間、お嬢さまは……いや、〝結〟は、右手に持っていた俺のカバンを優しく渡してくれたのだ。

 おそらくは高利が死んでいたからだろう。そうでなければ、両方のカバンを俺に強引に渡していたはずだ。……あ、いや、高利に思いっきり投げつけていたかもしれないが……。

 ――ともかく、普段の結の話し言葉とは、まだだいぶ違う。一応、警戒(けいかい)しているのだろう。

 「イエッサー」

 そうすぐに返事を返した俺は、ベッドから立ち上がった。

 ――しかし、

 ズキィッ! 「――いッッ!?」

 また、貫くような激痛が俺の頭を襲撃(しゅうげき)した。思わずフラつく……。

 「あっ、だいじょ――」

 むぐぅ!

 ――刹那、結は両手でその小さな口を押さえた。さらに次の瞬間、耳まで真っ赤になり、耐えきれなくなったのか、慌てて、くるり、と後ろを振り向いて、

 「さ…さっさと、行くわよ……!」

 とだけ呟いて、ずかずか、ではなく、すたすた、と出口に向かって歩いて行った。

 ……お分かりだろうか? 今のが、結だ。――べつに、ツンデレというわけではない。むしろ本来はデレのみなのだ。……ただ、元・お嬢さまという仮面が邪魔をしていて、あんなふうになってしまっている。それだけだ。

 ……なぜか、そんなギャップが俺にはたまらなくいい。――なんて思っていることは、結には絶対に内緒だ。……絶対だぞ?

 「な、何してんのよ! 早く行くわよ!」

 「おーけー、さー」

 結のかわいさを垣間見て、若干ユルイ感じに答えてしまったが……結なお嬢さまはそれどころではないようだ。すでに保健室から出て行ってしまっている。

 俺はふらつきながらも、その後を必死に追いかけた。

 ――日直の仕事が残っている気もしたが、それは裏切り者のAにでも押しつけよう。

 なんて、思いながら……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ