2-2改
「…………」
――目が覚めると、目の前にはこれまで幾度となく見てきた、〝見慣れた天井〟が広がっていた。
それに気がついた俺は、はぁ……と、やはり俺のデフォルトは、リスボーンポイントでもある〝保健室〟から始まるのか……と、小さくため息をつく。
……さて、そんなことよりも、だ……今回はいったい、どこを殴られたのだろう? ――殴られた瞬間……おそらくは身体の防御反応というやつだろう。気絶した俺は、その部分に関する記憶が全くなかったのだ。――恐怖……はもちろんあったが、試しに、身体を起してみる。
――刹那。
づっ――!!? な、なるほど、今日は〝こめかみ〟か……。
理解し、そして痛みに納得して、俺は再びベッドに沈んだ。
……よりにもよって、何もこんな〝人体急所〟を攻撃してくれなくてもいいのに……そんなことを考えながら、俺はそれ以上、できるだけ身体を動かさないように気を配りながら、ゆっくりと目を閉じた。
……そういえば、と、ふと、思った。
――何で、今日は殴られたんだっけ……?
「…………うん」
動くことができず、有り余る時間……ヒマつぶしに、俺はその理由を思い出してみることにした。
確かあれは……そう、昼休みのことだ。
――昼休み。
普段誰もこない学校の屋上。そこで俺と結は、いつもどおり一緒に弁当を食べていた。
――なぜそんな所で食べていたのかと説明すると、俺と結の弁当箱は、それこそ大きさは違えど、母さんの手作りであるがために、中身も外見もほとんど同じだったのだ。――つまり、そんなのを他の誰かに見られたら、俺と結の関係がバレてしまうかもしれない……そう思ったのである。
しかしそこに、たまたま、運悪く……と言っておこう。――【今こそUFOを捕える会】。とかナントカという、胡散臭さ極まりない会を名乗る高利が、人間二~三人くらいはかるく入るだろう。という、割と大きなサイズのネットを持って出現したのだ。それで一緒に弁当を食べていたことがバレて……ああいや、それは何とか、下僕であるこの俺が作ってきた。ということで誤魔化したのだが……問題はその後だ。
――何を思ったのか、いきなり高利はその変な会に、俺を〝勧誘〟し始めたのだ。
無論、俺はそれを断ったさ。だけど高利は諦めが悪く、遂には『最終兵器だ!』とか言って、カバンから〝一冊の本〟を取り出したのだ。
――それが、マズかった。
そのものズバリ、高利が取り出した本のタイトルは……
【ロ×××万歳!】
…………。
……はっきり言おう。ただの、その……え、〝エロ本〟だ…………。
……正直に言うと、実は、俺はこういう本をまだ〝一度も見たことがない〟のだ。
なぜなら、俺の母さんがそういう本を見ることを絶対に許してはくれなかったし、何より、基本俺の部屋には結がいて、一緒にゲームやら何やらをして遊んでいる。――そうでなくとも、結の部屋は真隣だ。いつ結が部屋から出てくるのかなんて、分かるわけがない。
つまり、見れない。見れるわけがない。
……もし、俺と同じ状況でそんな本を読める人がいたのなら、俺はその人のことを、絶対にこう呼ぶだろう。
〝師匠〟……と。
……まぁ、そんなことはどうでもいいとして、そういう経緯があって、俺にはエロ本に対する耐性が全くない。だからその本を開かれた瞬間、俺は食い入るようにその最終兵器たちの肌色を観てしまい、挙げ句、
『この会に入れば、毎日こんな本が見放題だぞ?』
と、いきなり差し出された高利のその手と、俺はがっちり握手を交わしてしまったのだ。
瞬間、ぶちっ! という、何かが切れるような音がしたかと思ったら、俺の隣に座っていた可憐な美少女がいつの間にか凶悪なオーラを纏っていて、完全なる恐怖の大魔王……いや、女王様か。――へと変化を遂げていた……と。
……まぁ、後のことはだいたい予想はつくと思うが、その後俺たちは学校中を逃げ回り、ついには自身等の教室に追い詰められ、説得を試みようと歩み寄った瞬間高利が宙を舞い、慌てて逃げようとした俺を、結は……ではなく、元・お嬢さまはクラスメートAに捕えさせ、で、今に至ると。
……何というか、〝いつもどおり〟の一日だったな。それが今日の日直でもあった、俺の学級日誌の内容だ。
「はぁ~……にしても」
と、またふと思った俺は、ベッドから見て右側の壁に設置してある時計を見てみた。
時計の針は、【十六時】。……もう六時間目の授業も終わって、その後にある掃除も全て終わっている頃だろう。つまり、俺は昼休みから数えての三時間、ずっとこの保健室にいたということになる。
……こんな感じのことが毎日続くとなると、俺の単位とか、成績とかは大丈夫なんだろうか? なんて思うかもしれないが、心配ご無用。――実は、俺は授業に出ていなくとも、この保健室にいる限り、〝ちゃんと授業には出席している〟ことになっているのだ。
それはどういうことなのかというと、答えは簡単だ。
〝生け贄〟。
……あまり詳しくは語りたくない。だから、この〝生〟と、〝け〟と、〝贄〟の三文字だけで許してほしい。お願いします。頼みます。どうか……。




