ショートショート:折り紙
「ここはね、こうやって折っていくのよ」
いつも美味しいご飯を作ってくれるおかあさんの手。
少しかさかさになった指先。
その指が丁寧な動きで色紙に折り目をつけていくのをじっと見つめる。
端までピッタリと合わさったお手本を見て同じようにやってみる。
……上手くできない。
少し泣きそうになっていると、ふわりと頭に何かが触れる。
暖かい手。
くるくるしてふわふわなわたしの髪を優しく撫でてくれるこの手が大好き。
「なんでも最初からうまくやろうとしなくていいの。それよりも楽しさを知ることの方が大事。続きをやってごらん」
離れていく手が少し寂しい。
でもやさしく見守ってくれてるお母さんの目を見ると安心する。
そのまま少しづつ、なるべくきれいになるように……よし。
今はまだ何を作っているのか全然わかんない。
でもお母さんのやり方をちゃんと見て、同じになるように折っていく。
だんだん形になっていくのが面白い。なんだかワクワクする。
静かなお部屋に響くのは紙をひっくり返すときのわずかな音だけ。
その音はまるで壁に吸い込まれていくみたいに消えて、手が動くたびにまた同じ音がして、消えていく。
耳に心地いい。
窓から差し込むお日様の光は柔らかくて、ポカポカあったかくて気持ちいい。
眠くなりそうな心地よさ。
でも折り紙が楽しくなってきたから、寝ちゃうのはもったいない。
だから頑張る!
真似っこで折っているとだんだん形になってきた。
もうすぐ出来上がりなのかな?
でもまだ何ができるかわからない。
何ができるんだろ。
ワクワクがとまらなくなってきた。
そこからはすっかり夢中になっちゃった。
ここを重ねて、こっちを折って。
そして最後の一折りで一気に形になってビックリ!
ただの紙だったものがまん丸になってる!
「最後はね、こうするの」
お母さんが出来上がった折り紙の一番下に開いてる穴へ口をつけた。
ふー。
お母さんが作った折り紙はきれいに丸くふくらんで毬みたいになった。
すごーい!
わたしの作ったやつもさっそくふくらませてみる。
ふうぅ!
ちからいっぱい息を吹いたらわたしの折り紙もちゃんと膨らんだ。
やったぁ!
でもお母さんのとは違ってデコボコしててちっともきれいじゃない。
むー。
むくれていたらまたお母さんが頭を撫でてくれた。
気持ちよくてつい猫みたいに目を細めちゃう。
するとお母さんは優しく微笑んでくれる。
「初めて作ってみてどうだった?楽しくなかった?」
「ううん、楽しかった!でもちゃんとできなかったから……」
「楽しかったなら大丈夫。楽しんで作ってればすぐに上手くなるから。楽しくなかったらもっとやってみようと思わないでしょ?」
お母さんの言う通りだ。
とっても楽しかった。上手になるまでやってみたい。
お母さんとわたし、2人で作った2つの折り紙。
今日、わたしの宝物が2つも増えた。
2人で作った折り紙が一つ目の宝物。
二つ目はおかあさんと一緒に過ごす折り紙の時間。




