『学校祭スタート』
遂にこの日が来てしまった。他のクラスでは楽しそうな笑い声がするなか、我がクラスは異様な雰囲気に包まれていた。
メイド服を着たむさい男達と、メイクされて清楚系黒髪ロングメイドに変えられた俺が、orzのポーズで蹲っていた。
「………まさか本当に着ることになるとはっ」
「冗談だと思ってた……」
「地味に似合ってるのがつらい……」
「いっそ殺してくれ………」
「はははは、なんだその格好!」「お前もな! ははははは」こんなやり取りも出来ないくらい、俺達はダメージを受けていた。
何故か?
パッドとか女性用下着まで履かされたからだよ!
あの先生、やるなら本格的にとか言って、俺達を脅迫してきたのだ。後ろに鬼が見えたよ。
「それじゃあ、準備始めるわよ。九条さんと雷門さん、それに雪子ちゃんは、予定通りに宜しく!」
「オッケー」
「分かりました」
「………ぉぅ」
俺はこの期間中のみ雪子ちゃんで通されるらしい。もう色々と諦めているので、雪子の件はいいだろう。問題なのは、俺が客呼び係だということだ。
『女装メイド喫茶やってますっ!』と書かれた看板を持って、九条さんと雷門と一緒に中庭の特設ステージに向かう。うちの学校祭は、開始前に一般の方達に各クラスの展示を宣伝出来るのだ。開始後も、校内を歩いて宣伝出来るけど、客がどれだけ来るかは、この最初の宣伝にかかっているらしい。
「はぁ、憂鬱だ」
「三日間くらい頑張りなさいよ」
「無理」
「私達もついてますから、頑張りましょう」
「………期待はしないでくれ」
そういえば、女子は可愛い文字で『1━Bすたっふ』と書かれたTシャツを着てるんだが、いつの間に作ったんだろう?
特設ステージの裏に着くと、既に殆どのクラスの代表がいた。
「三年生、気合い入ってるわね」
「演劇と本格お好み焼きと……あとは……」
「3━Cの撮影会………ありなの?」
こう見ると、普通なのか普通じゃないのか分からないな、うちの学校。個性的な人達が多いから、奇抜なのが一つ、二つ、三つ………牛の乳絞り体験って……出来るの? というか、よく許可されたな。
さて、気配を消してじっとしていたのに、顔見知りの先輩達に囲まれてしまった。
「写真、写真!」
「可愛いらしく、こう……ニコッと!」
精神がゴリゴリ削られていく………
「そろそろ紹介始まりまーす。二年生の人達は準備してください」
やっと解放された。因みに、発表の順番は二回のクジで決まる。先ずは、三学年の順番を決め、次に学年内での順番を決める。
さて、順番だが、二年生→一年生→三年生の順で、俺達1━Bは学年内では最後だ。
「皆様お待たせしましたー! クラス展示宣伝の時間でーす! 司会は私! テンションの高さと明るさとウザさは学校一! いや、宇宙一! お馴染み放送委員会委員長にして、新聞部部長、3━Bの倉敷 涙とぉ!」
「3━Aの西院 美玲ですわ」
「学校一美人の生徒会長だーーー! お前らーー! 下僕になりたいかーーー!?!?」
「倉敷さん!?」
『なりたぁぁぁぁぁぁぁい!!!』
「なんでですの!?」
倉敷さんか………あの人初対面でいきなり、「男装女子かなっ!?」て、聞いてきたんだよな。
男ですって答えたら、「男の娘か!」って言われたんでソッコーで否定しといた。その結果かどうかは分からないが、数日後に一年生美少女ランキングで3位にされるという……
それにしても、あの真面目で微天然な生徒会長と一緒に司会か………まぁ、確かに面白いな。倉敷先輩の可笑しかったりするボケと、生徒会長の何処かズレたツッコミが笑いを誘っているから、成功しているのか?
「では、続きましては大本命! 私が是非行きたいと思っている1━Bです!」
「それ、言っちゃっていいんですの?」
どうやら俺達の番が来たようだ。色々と心配だけど、行くしかないな。
「「1━Bでーす!」」
「待ってました!」
「可愛らしいメイドさんですわね。メイド喫茶かしら?」
ごはっ! 生徒会長の悪意の無い本心の言葉が、俺の精神にクリティカルヒットした。辛い………女顔に産まれるぐらいなら、ゴリラ顔に産まれたほうが何万倍もマシだったよ。
「えーと、1━Bは女装メイド喫茶をやります!」
「女装メイド………えっ!? 男の方なんですの!?」
生徒会長の西院先輩が、上から下までじっくり見てくる。なんか恥ずかしいな。これ黒歴史になるから、あんまり見ないでほしいんだけど。
「……何処からどう見ても女の子ですわ」
「さっすが雪ちゃんだね! きゃわいいー!」
「雪ちゃんはやめてください………」
色んなアングルから俺を撮る倉敷先輩。っていうか、司会なのにそれでいいのか。
「この子はうちの看板メイドの雪子ちゃんです」
「一年生美少女ランキング3位の子ですよー」
嘘じゃないのが辛いよね。泣きたくなってくるよね。一般の方の何人かは、未だに少し疑っているようだ。
早く終わらないかなーと思っていたら、いつの間にかいなくなっていた倉敷先輩が、誰かを連れてステージに上がってきた。
って、東雲先輩じゃん。
「やっ冬道くん。大変そうだね」
「まぁ、そうですね」
3━Aの東雲 夏希先輩。演劇部の部員で、宝塚風の美人で、女子にモテモテの女子。東雲先輩とは仲がいい。なんでか知らないけど、気楽に話せるんだよな。何でだろう?
「じゃあ夏希! お願い!」
「はいはい」
東雲先輩が俺の腰に手を回して顎クイをしてきた。黄色い悲鳴が上がるが、当事者の俺はどう反応するのがいいのか分からず、困惑顔だ。
ただ一つ思うことは、パシャパシャ写真を撮る元凶を今すぐ簀巻きにして、そこら辺に投げ捨てたいということだけだ。
「いいねいいね! タイトルは、『イケメン王子様と、感情を無くしたメイドの恋』! サブタイトルは、『突然の顎クイに困惑するメイドと、それを愛おしげに見る王子』で決まりね!」
東雲先輩は意識してそういう表情なんだろうが、俺は自然にそんな表情になったんですけどね、後、演劇部部長にネタ提供するの止めてもらえます? あの人、一回脚本書いて渡してきたことあるんだから。
「採用!」って聞こえた気がするけど、きっと気のせいだ。気のせいに違いない! 気のせいと言ってくれ!
「えーと、兎に角1━B着てください!」
「待ってまーす!」
1━Bの宣伝になってなかった気がするんだけど、大丈夫か?
少し不安になりながらも、三日間頑張ろう! と思った。




