『巨大な』
ソウレンと名乗った目の前のプレイヤーのせいで、さらにフィールドに出るのが遅くなりそうだ。イライラする。
もうあれだな、クノとライラを抱えて飛んで行ったほうがいいのではないか? いや、出来るかどうか分からないことをやるのはなぁ……
因みにだが、俺がこうして思考している間、ソウレンはずっと喋っている。一度俺と話したかったから始まり、このゲームには沢山の強者がいてとてもやりがいがあるとか……
「厄介なのに捕まったわね」
「うん」
「知ってるの?」
「コイツらに負けたのよ」
なんでも、闘技大会で当たって負けてしまったらしい。善戦はしたようだが、一歩及ばなかったとか
「スノウがいたら勝てたかもしれないのに……」と、ジト目で見てくるライラをスルーする。そんなこと言われたって、知らなかったんだし……
「スノウさん貴女の噂は沢山聞きました。この僕と戦っていただけませんか?」
「やだ」
挑発的な笑みを浮かべるソウレンに、短く拒否の言葉を伝える。
あれ? なんで皆固まってんの? ライラにクノまでとは………まぁ、これでいいだろうから、さっさとフィールドに行きますかね。
固まったままのクノとライラの手を引いて、ソウレンその他の横を通り過ぎる。さぁ! まだ見ぬモンスターが待ってるぜ!
「怖いんですか?」
定番セリフだね。でもね、こんな見ず知らずの奴と戦ってる暇なんてないんですよ。
「急いでるから」
歩みを止めず、後ろを振り返らずにそう告げる。流石に無理だと思ったのか、それ以上は何も言ってこなかった。
という訳で、王都の先にあるフィールドにやって来ました! 見渡す限りの大草原。様々な種類のモンスターが、そこら中を駆け回っている。
「……スノウが戦わないのは意外ね」
「そうだね」
二人は俺を戦闘狂とでも思ってるのか? まぁ、確かに近いかもしれないけども、今は新フィールドに行きたい欲求のほうが強かったのだ。
っていうか、どっちにしろ戦うじゃん
「このフィールドのモンスターは、だいたいノンアクティブよ。アクティブなモンスターは、もっと先に行かないとね」
「後はアレに気を付ければ、そこまで難しくないと思うよ」
「ん」
アレというのは、一定確率で出現する特殊モンスターのことだ。今まで勝てたプレイヤーはおらず、というか、戦いにすらならないらしいが……
まぁ、ヤバいモンスターがごく稀に出現するから、出現したら全力で逃げろということらしい。
「それじゃあ、行こっか」
「うん」
「ん」
とりあえず、アクティブなモンスターがいる所まで走る。ノンアクティブなモンスター達はの反応は様々で、俺達が近づいても気にも止めない奴や、警戒して威嚇してくる奴、一目散に逃げる奴等々。
そうこうしているうちに、前方から何かが走って此方に向かってくるのが見えた。
「来たわ! “フレア・ハイエナ”よ」
「火魔法の使えるモンスターで、連携が強いから注意して!」
「ん。了解」
連携が強いなら結構簡単だぞ、先ずは、指示を出している個体を見極め、そいつを倒す。それで統率がとれなくなって動きが鈍れば簡単に倒せる。
えっと………
分からん。コイツら、テレパシーでも使えるのか? 阿吽の呼吸で連携してくるんだけど……
結局指示を出している奴とか関係なく倒し、次のモンスターを探しに行く。このフィールドにいるモンスターは、“フレア・ハイエナ”、“バブル・ハイエナ”、“ドリルホーン”、“ボム・エレファント”だ。
一番大変だったのは“ボム・エレファント”かな? 自慢の長い鼻から、爆弾を飛ばすし、瀕死になると自爆しようとするしで、かなり厄介だった。
「順調、順調。この調子なら、〈ヴュステ〉には今日中に着くわね」
「あの町そんなに好きじゃないんだけどね」
「ふーん」
王都の次に行ける町は3つあり、今から向かうのは王都の門から出て、そのまま真っ直ぐ東にある〈ヴュステ〉だ。砂漠の近くにある町らしく、〈ヴュステ〉の先には砂漠のフィールドがある。
草原を北に向かって進んでいくと、頂上付近が雪で白い巨大な山があり、その先には雪の町〈ラスタ〉がある。山越えが大変らしく、〈ラスタ〉にたどり着いたプレイヤーは少数らしい。
逆に草原を南に向かって進んでいくとあるのが、巨大な渓谷だ。この渓谷をかなり進んだ所に、集落らしきものが見えたそうだが、強力なモンスターに負けて分からず仕舞い。町があることは分かっているが、未だに辿り着けたプレイヤーはゼロだそうだ。
ということで、俺達は一番簡単な〈ヴュステ〉に向かっている。山と渓谷にはボスがいるそうだが、草原にはいないらしい。なので、〈ヴュステ〉は歩いて辿り着ける楽な町なのだ。その先の砂漠は鬼畜らしいけど
「んん?」
「ライラちゃん、どうかした?」
「いるわ」
「え? いるの?」
「いるのよ……」
「ん?」
ライラがげんなりしながら指を指す方向を見ると、巨大な何かが見えた。もしかして、アレがそうなのか? 大きいとは聞いていたが、小山サイズに見えるんだが………
横に回り込むように移動すると、それが何か分かった。ゴツゴツとした体表をしたアルマジロのようなモンスターだった。
「あれが、“山肌サンゼンコウ”ね」
あ、サンゼンコウなのね。あれに挑んだプレイヤーは何人かいるらしいが、あの巨体には攻撃など通用するハズもなく、直ぐに巨体で轢かれてやられたらしい。
俺はこのままやり過ごすつもりのライラとクノを見て、ゆっくりと歩いている“山肌センゼンコウ”を見た後、ふと思った。あれって、アクティブなモンスターなのかな? と………
二人に話してみると、そういえば知らないと言われた。それなら行ってみようっ
「行ってくる」
「もしアクティブだったら、全力で戻って来なさいよ」
「無理はしないでね」
「ん」
自慢の速度で一気に近づいてみたが、特に反応しない。前に出てみたが、此方に一瞥くれただけで直ぐに視線を前に向けてしまった。
お次は、身体を登ってみる。どうやらこの身体、表面は岩石や土になっているらしい。岩石や土を纏っているから、“山肌”なんてついてるのかもしれないな。
「うーん」
登ってみた結果、背中に鉱石っぽいものや宝石っぽいものがあるのが分かった。これ、俺には関係なかったな。
戻って二人に報告すると、何かいいアイテムがあるかもねといった返答が返ってきた。とりあえず、リジェさんやスリート姉さん、ヘイル達には採掘ポイントがあったとメールしておいた。
「着いたわね」
「そうだね」
「ん」
「時間もアレだし、ログアウトしましょうか」
「クノちゃんと私は、明日からはログインが暫く不定期になるんだよね」
「二人も?」
「二人もってことは、スノウも?」
「ん」
もうすぐ文化祭なので、忙しくなるのだ。
ハハハハハハハハハハハハ
まったく憂鬱だぜ………
暫くログインが不安定になるということで、明日からは好きに行動ということになった。
次回からは、リアルに入りますよ




