『聖花:白銀』
「ふぅ、ちょっと休憩」
「………」
それなりの大きさの岩の上に腰掛け、大福を降ろして暫く休憩することにした。後方を見ると、今まで登ってきた道が見える。
歩き続けて三時間くらいかな? メニューで小まめに時間を確認していたので、あってるハズ。
晴れているうえに、草木も殆ど無いので、雄大に広がる大自然が一望できる。何枚かスクショを取っておく。帰ったら、ライラちゃんやスノウちゃんに見せてあげよう。
「まだまだ遠いね」
「………」
目的地はまだ見えない。一体、どのくらい広いのだろう? 真っ直ぐ進んで行けばつけるらしいので、そこはとても助かる。
それにしても、本当に長い道のりになりそうだ。これは、数日はかかると考えたほうがいいかもしれない。幸い、食料は多めに持っているので大丈夫だし、テントや寝袋もある。【結界魔術】を使えばモンスターの侵入も防げるし、なんとかなるかな?
「よし! 出発」
再び歩き出す。ゲームのこの世界なら体力もかなりあるし、少し休むだけでほぼ回復するから、かなりのハイペースで登っていっても問題ない。
道がでこぼこしてるし、険しい所もあるけど問題ない。すたすたと歩いて行く。
「あ」
「………」
影がさした。
動く鳥のような影。
空を見上げると、大きな鳥が旋回していた。モンスターかな? 空を飛んでいる鳥には、魔法は当てにくい。というか、動いている敵に当てるのは難しいんだよね。
「えっと、ナーオスイーグル?」
鑑定してみると、この山脈限定の生き物だということが分かった。モンスターではなく、普通の生き物らしい。人を襲うことはないようなので、気にしなくて大丈夫だろう。
それにしても、ここまで特に何の障害もなく楽に来れたけど、師匠の言っていた自然の猛威ってなんだろう?
「あれ?」
「………!」
なんだか寒くなってきた。それに、雲行きも怪しくなってきたし、なんなんだろう?
嫌な予感がしてきたので、急ぎ足で進んで行く。しかし、変化は直ぐに現れた。
「雪?」
「………」
雪が降り始めた。自然の猛威って、もしかしてこういうこと? そうこうしているうちに、どんどん雪が降り続け、風も吹き出してきた。
このままじゃ、吹雪になるかも!
「と、思ってる間にーーーー!!!」
「………!!」
気付けば前方が見えなくなるくらいの猛吹雪。身を斬るような寒さが襲いかかり、足が止まる。それよりも、大福がピンチだ。亀だということで、寒さには弱い。
とにかく、なんとかこの猛吹雪を耐えなきゃいけない。
「『対自然結界』」
「………」
大福と一緒に『対自然結界』を張ったけど、結界は、全部その場に固定されるタイプ。このままここで晴れるまで待っててもなぁ………
でも! 魔力を多めに消費するけど手はある。
「『結界纏い』」
『結界纏い』は、【結界魔術】の一つ、張った結界を身体に纏うことが出来る。これで、結界張ったままでも歩ける。
スッゴい魔力消費するんだけどね……
「足下に気をつけつつ、洞窟とか吹雪を防げる場所を探そう」
「………」
寒さも吹雪も気にしなくてよくなったけど、視界までは流石にどうにもならない。足下に注意していないと、足を出したら崖だったなんて、大変だからね。
残り魔力を気にしつつ、先へ先へと進んで行く。
早く止まないかなぁ………
「あ! 大福、洞窟あったよ!」
「………」
洞窟を見つけて中に入る。周囲の安全は確認したので、安心して中に入れる。入り口付近だと吹雪の影響をまだ受けてしまうので、奥へ奥へと進んで行く。
中にはモンスターがいるかもしれないので、慎重に慎重に進む。
「? この臭い……」
「………」
なんだか嗅いだことのある臭いがする。
あ! これって………
「血の臭い?」
師匠にかせられた修行でなんども嗅いだことがある。詳細は省きます。
「肉食の生き物でもいるのかな?」
警戒を強めて先に進んで行くと……
「グルルルルルル」
「!?」
洞窟の一番奥にいたのは、白銀の色をしたとても美しい毛を生やした生き物だった。大きな尻尾はふさふさで、とてもモフモフしている。そして、鋭い牙を覗かせて威嚇している。
血の臭いは、この肉食らしき生き物が何か食べていたからかな? と思ったら、その生き物の下辺りから血が広がっていっている。
「大変!」
「グラァ!!」
「ひゃっ!?」
手当てをしようとしたら、思いっきり威嚇されてしまった。凄く怖い。けど、このままにしておくのもあれだし………
とりあえず、大福を置いて荷物と杖もおき、ゆっくりと近づいて行く。
「だ、大丈夫だからね……」
「グルルルルルル」
警戒させないように笑顔を浮かべながら、ゆっくり、ゆっくり近づく。
なんとか近づくことが出来たので、傷を確認。なんとか確認出来たけど、ざっくりお腹が裂けており、とても痛そうだ。
このままじゃ、治したとしても血が足りな過ぎる!
「とにかく、癒さないと……少し痛いけど、我慢してね『セイント・キュア』」
「グルァァァァァ!!!」
「きゃあっ!?」
魔法を使って癒そうとしたら、暴れられて吹き飛ばされてしまった。
立ち上がって此方を威嚇してくるけれど、傷口からさらに血が出ていっている。
「駄目っ!! 死んじゃうよ! 大人しくして!」
「グラァ!!」
「!?」
襲いかかられて、腕に噛みつかれる。いやもう、噛みつかれるとかじゃなくて、噛み千切られそうだ。でも、私はどうせデスペナになるだけ。この子は死んじゃうかもしれない。
落ち着かせようと、噛まれていない右手で優しく頭を撫でる。
「大丈夫。何もしないよ? 貴方を助けたいの」
凄く痛いけどなんとか笑う。分かってもらわないと、どうしようも出来ない。生き物が何度か瞬きをした後、口をゆっくりと離した。ほっと息を吐いた私は、腕を庇いつつ傷口に寄って再び傷口を癒す。
なんとか傷口を塞げたけど、魔力が尽きてしまった。
「はぁ、はぁ、なんだか疲れちゃった━━━」
ずきずきと痛む腕に顔をしかめていたけど、突如襲ってきた疲れと眠気に抗えず、私の視界は暗転した。




