『霊月:死なないのなら』
洞窟に入ってみたけど、鳥肌と悪寒が止まらない。何か、不味いことが行われてる気がする。
音でバレないように、でも、気持ち急いで進んでいくと、前方が明るくなり始め、話し声も聞こえ出した。
『………ふ……け…………!!』
『ク………い………?』
『!? そ……はッ!!』
「? リューニャ以外に誰かいるの?」
「ホー?」
明かりがいっそう強く漏れている所の奥。大きめの部屋になっているようで、そこから声が聞こえていた。
フクロと一緒に、こっそり中を覗いてみる。
「「!? ッ」」
思わず声が出そうになって、自分とフクロの口を押さえる。
落ち着いてから、手を話して中の状況をより詳しく把握する。
中にいるのは、リューニャと、趣味の悪い飾りをつけた黒紫色の毒々しいローブを着た、頭から山羊の角のようなものが生えた、痩せぎみの男。そして、男の後ろには、大きな逆十字になった、黒い十字架に張り付けにされた、リューニャと同い年ぐらいの女の子がいた。
「約束通り一人で来たわよ。ミサを解放して!」
「何度も言わせないでくれよ、君が僕らに力を貸してくれたら解放してあげるよ。さぁ、此方に来るんだ」
「信用出来ない! 先にミサを解放して!」
「おいおいおい。状況が理解出来ないのか? 彼女は君を釣る餌なんだから、正直どうなってもいいんだよ」
「っ! この!」
「駄目! 言うこと聞いちゃ━━」
「君は黙ってるんだ」
状況は最悪な感じみたい。
でも、僕らって言ってたけど、あの男以外敵はいないみたいだから、なんとかなるかもしれない。
とりあえず作戦。何かいい作戦を考えなきゃ
「………分かった。力を貸すわ」
不味い!
あの男が言うとおり、あのミサって子を解放するハズないのに、何やってるのよ! って、今は従うしかないのよね。
あぁもう! やるっきゃない!
「(フクロ、あの男ぶっ飛ばしてなんとかミサって子助けて)」
「(ホー)」
私の無茶なお願いを聞いたフクロは、胸を膨らませると、影に入った。
【影隠れ】を利用して男の真下まで移動したフクロは、じっと待つ。男が最大の隙を、最大の油断をするその瞬間までじっと待っている。
「クククク。さぁ「ホー!!!」ぐはぁっ!?」
「ええっ!?」
「ナイスフクロ!」
男を自慢の鉤爪でぶっ飛ばしたフクロが、ミサという名前らしい女の子の元へ向かい、一生懸命拘束を解き始めたので、私のほうはリューニャを引っ張って男から遠ざける。
「ライラ!? なんでここに?」
「追って来たのよ。水くさいじゃない、まったく」
「ごめん……それと、ありがと」
ぎこちなく笑うリューニャを見ながら、この後どうするか考える。
とりあえず、フクロがミサを解放するまで、男を牽制しよう。
「……嘘をついたな、一人で来たとっ!?」
とりあえず、火魔法の『クリムゾン・ブラスト』を放ってみたけど、防御されてしまった。
「私は勝手に来たのよ」
「……魔族ではないな、それにここで生きていくにはあまりにも脆いようだな、逃げるなら見逃してあげるよ?」
「バカ言わないで、友達を見捨てるわけないでしょ」
「友達? 友達ねぇ………」
可笑しそうに笑い出した男に、私はいっそう警戒心を強める。
コイツは強敵だ。
それも、何時もなら見かけたら直ぐに逃げるような強敵。
でも、リューニャがいるから引けない。ここで引いたら、一生後悔する。少しでも助けられる可能性を上げなくちゃ
「………何時までそう言ってられるかなぁ?」
男が笑いながら両腕を上げると、周りからゾンビが現れ始めた。
物凄いリアルなゾンビね、クノが見たら気絶するわねコレ。
「ホー!?」
「フクロ! 耐えて!」
「私がサポートする! 『マナ・ループ』!」
リューニャから魔法がかけられた、名前からして、魔力の消費が抑えられるものだと思う。コレなら、魔力切れの心配しなくていいかも。
さらに、魔力活性薬を飲む。これで、魔力の面は心配しなくていい。
フクロのほうを見ると、リューニャがゾンビの撃破をサポートしていた。
「『焔一閃』!」
迫り来るゾンビ達に向けて、炎を纏った剣を一閃。
炎が閃き、ゾンビ達が燃えながら両断され、塵と消える。アンデットに光や火が効くのは、お約束みたいなもんよね。
次々と出てくるアンデット達を、炎を纏った剣でどんどん倒していく。
全て倒し終わった。
「こんな雑魚いくら用意したって無駄よ。大人しく捕まりなさい」
「クククク。確かにこんな雑魚をいくら用意しても無駄なようだね、ふむ」
私が油断なく男を見ていると、何かが切れる音や千切れる音がした。
「ホー!」
「なにっ!?」
「フクロ、またまたナイス!」
フクロがミサを解放出来たので、リューニャと一緒に魔法を放って男を牽制する。
「リューニャ様!」
「ミサ! 良かった」
「感動の再会は置いといて、逃げるわよ!」
「ホー!」
リューニャとミサを連れて、洞窟から脱出━━━
「逃がすと思うぅ?」
━━━出口が塞がれて、洞窟から出られなくなる。
こうなったら、やるしかない!
『トンっ!』
軽い衝撃が走ったけど、攻撃? でも、別になんともな━━━
「ライラ!?」
「ホー!?」
『え?』
地面に倒れた私の身体に、リューニャとフクロが飛び付いた。ミサは、口を手でおおって驚愕している。
いやいや待って! 私立ってるんだけど!?
身体を見てみると、身体が透けている。思わずステータスを見てみると、状態異常“幽体離脱”となっていた。
なんでそんな状態異常があるのよ!!
「ハハハハハ! これが絶望ってやつだよ! 何も出来ずに友達がいいようにされるのを見ているといいよ!」
「ライラ! ライラ!」
「ホー! ホー!」
「クククク。最後に勝つのは━━━ッ!?」
両手から魔力を溢れさせる。
「な、何をしているっ!?」
「な、なんなの!?」
「ま、魔力が……」
「何をしている?」 ですって? あんたを倒す算段よ。
『よいかライラ、魔力とは魂を守るエネルギーのベールじゃ』
『エネルギーのベール?』
『うむ。故に、魔力が無くなると魔法への耐性が弱くなる』
『やられやすくなるってことですね』
『うむ。そして、肉体は魂と魔力の器じゃ、これがあるから魔力と魂を止めておける』
『成る程。あれ? じゃあ、ゴーストとかは?』
『ゴースト族や、レイスなどのモンスターは、魔力総量が異常に多い。魂を無理矢理止めるためじゃ。なので、土壇場の霊体系は強いぞ、全魔力を攻撃へと転ずるからのぅ。しかし、その後は消滅する』
『へぇ~』
今の私は霊体系。全魔力を攻撃へと転ずれば、アイツに届くハズ!
デスペナルティにはなるだろうけど、どうせ死なないのなら、なんだって出来る!
『これで終わりよ!』
「や、やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」
魔力での攻撃は、精神への攻撃。より精神にダメージを与えるために、闇属性へと変える。
男に向けて闇の魔力で出来た剣を振るう。なんの抵抗もなく男の身体を通過する剣、なんの手応えもなかったけど、男は白目を剥いて気絶した。
あ、もうダメね。
全ての魔力を使いきった私の視界は、だんだんと真っ暗になっていった。




