『仙雪:覚醒の時』
どうも皆さんスノウです。
あれから3日修行しましたが、土に埋まっても何も感じとれません。
「他はないの?」
「なぁーに、もう少しすればちゃんと感じとれるようになるわい」
この爺さんのもう少しって、いったいどのくらいなんだ?
なんというか、弱気になってくるな。
俺ってこんなに集中力なかったっけ? 埋められてから一時間もしないうちに、身体が疼き出して土の中から脱出。気がつくと、例の雲海の見える場所で風を感じていて、気づいたテンシンさんに連れ戻されて埋められる。
埋められてから一時間もしないうちに━━━
駄目だ、ループしてる。こんな調子で大丈夫なのか?
「そんな調子で大丈夫なのか?」
「………テンジか」
あ、あのむすっとしていた青年だ。しかし、この埋まった状態だと、近くにいられたら見上げても顔が見えないな。
話を聞いていると、俺なんかよりもっと見込みのある奴を見てやれということらしい。
うーん。ま、確かに俺より見込みある奴なんて腐るほどいるだろうね。こんな集中力も根性もない奴なんかより、ずっと集中力も根性もある奴が……
なんだろう。もう一度祖父に鍛えてもらったほうがいいかな俺。もしかして、鈍ってるのかな俺。
「まだ一週間もたっとらん」
「それでもこんな奴なんかより、もっと見込みがある奴いるじゃないか!」
「………よかろう」
おや? テンシンさんが根負けしたかな?
……じゃあ、俺の修行を見てくれる人は誰になるのだろうか? もしかして、シュンメイさんかな? 女性だけどテンシンさんのお孫さんだし、きっと強いだろう。
「テンジ、スノウと戦え、それで分かるハズじゃ」
「「え!?」」
なんでそうなるんだよ………
土に埋まった状態で俺はため息を吐いた。
結局、戦うことになった。
武器は無し。ちなみに、符も使っては駄目らしい。他はオーケーなようなのだが、体術だけで何処までやれるだろうか………【仙人化】は使わない。なんとなく使ってはいけない気がするのだ。
「爺さん。俺が勝ったら━━」
「いいからさっさとやらんかい。ほれ」
「━━━分かった。手加減するつもりはない。せいぜい、死なないように防御するんだな」
テンジさんが言うが早いか突撃してきて、そのまま掌底を放ってきたので、余裕をもって回避する。
「『仙術:土柱連隆』」
テンジさんが手を地面に叩きつけるようにすると、俺に向かって地面から次々と土の柱が出てきた。
このままいくと、俺のいる場所からも出てくるな。
状況判断を終えた俺は、バック宙で素早くその場から離れるが、まだ来そうな土の柱を見て、連続バック宙でさらに回避。
「『仙術:風炸弾』!」
ちらりと見ると、テンジさんが右手で正拳突きを放ってるのが見え、さらにその右拳から空気の球が放たれたのも見えた。
当たっても大丈夫だとは思うが、ここは回避しておこう。
バック宙から側転に瞬時に切り替えて、その場から横に避ける。今度はこちらから行こう。
「『疾風蹴り』!」
「『仙術:小山』」
走った勢いのまま、飛び蹴りを放つが、テンジさんの前方に現れた、山の形をした岩の壁を砕いただけで終わった。
さらに、砕けた岩の破片の隙間から、既に次の一手にかかろうとしているテンジさんが見える。
不味い!
「『仙術:黒金ノ拳』、『螺旋拳』!」
「がっ!?」
吹っ飛ばされた先で、げほげほと咳き込む。
痛い。今のでかなりのダメージが入った。こりゃ、勝てないな、無理、同じ土俵に立たなきゃ一方的に攻撃されるだけだ。
「お前じゃ俺には勝てない。自然を一欠片も感じられないお前では、俺には勝てん!」
自然? まてよ、自然?
俺はなぜ“土”を感じられなかった?
俺はなぜ 直ぐに飛び出した?
俺はなぜあの場所に行った?
思い出せ、俺は━━━
「くふ。くくくく」
「?」
「あはははははは!!」
「! 何が可笑しい!」
なんでこんな簡単なことに気がつかなかった? 解決策はもう手の中にあるじゃないか、分かったなら後は簡単じゃないか。
目を閉じる。
見るな、聞くな
ただ感じろ
大丈夫。見えなくても、聞こえなくても、教えてくれる。
右斜め下から迫る蹴りを、揺らぐようにして回避。
正面から迫る正拳突きを、ヒラリと風に飛ばされる紙のように回避。
地面から迫る土のトゲを、踊るようなステップで回避。
飛んで来る無数の風の刃を、隙間を縫うようにして回避。
分かる。分かる。
今、全て繋がった。
《お知らせします。仙人として覚醒したため、天女の能力が解放されます》
《≪種族特性≫、【浮遊】【仙人化】【自然操作】が消失し、新たに≪種族特性≫、【仙術】【神仙解放】【第三の眼】が解放されました》
《〈天女の着物(封印)〉が、〈神衣:雪嵐〉に変わりました、以後、【神仙解放】を行うと、装備が自動的に〈神衣:雪嵐〉に変わります》
《『天心眼』が開眼しました》
アナウンスが流れて、はっきりと自分が仙人として覚醒したことが分かった。今まで以上に、深く、広く風を感じ取れる。
俺は風の適性が高過ぎたために、土を感じとり難くなっていたようだ。まぁ、時間をかければ感じとれるようになるだろうけど、これでいい。
「こ、この状況で仙人として覚醒するだとっ!?」
「いやはや、驚きじゃわい」
「スノウちゃん、凄い!」
さて、もう少しテンジさんには付き合ってもらおう。この能力をもう少し詳しく理解したい。
とりあえず、今発動しているのは、【第三の眼】の能力で、『瞳術:風感領域』という技だ。もう目というか、全身みたいなもんだけど、周囲の風を視解き、周囲の動きが完全に分かるらしい。なかなか便利です。
さて、【仙術】を使ってみますか
「『仙術:竜巻防陣』」
仙術を発動させると、俺の周りを守るように回る、三つの小さな竜巻が現れた。
「くっ! 『仙術:土岩流』!」
テンジさんが地面に手をつくと、そこから大きな岩の混じった土石流が発生し、俺に向かってくる。しかし、俺の周囲はもはや近づくことすら不可能な、暴風域。
土や石、岩が、俺に当たる前に吹き飛ばされて飛んでいく。
さて、お次は此方の番だ。全力でいかせてもらう
「【神仙解放】」
衣装が一瞬で、淡い、白にも見える薄い水色をした、着物というか、胴着というか、巫女服というか、色々と合わさった服に変わる。柄は、雪と一陣の風のような柄になっている。
さて
右腕を上げて、技を発動させる準備を行う。
俺の腕に、周囲の“風”が集まり、拳に吸い込まれるように消えていく。
「【神仙解放】!」
俺の行動を見たテンジさんが、【神仙解放】を行う。テンジさんの衣装は、胴着と中国の民族衣装のようなものが合わさった感じに変わる。そして、右拳を地面につけた。受け止める気かな? なら、いけるか試そう。
地面を蹴ると、後ろで爆音のような音が聞こえたが、それを気にせず右拳を突きだし━━━
「そこまでじゃ!」
テンジさんと俺の間にテンシンさんが現れたので、俺は拳を突き出すのを止めた状態になった。
「スノウ。慣れておらんから仕方ないかもしれんが、おそらく、それを使ったら前方消し飛ぶぞ」
え!? ヤバい、ヤバい。解除しよう。
腕を振るって溜めておいた風を外に出す。一気に出ないようにだけ気を付けた。
「テンジ、全部解決したの」
「あぁ、そうだな」
テンジさん冷や汗出てんな。
色々とあれな感じになったが、俺が仙人として覚醒したことをお祝いしようと、シュンメイさんがご馳走を用意した。
テンジさんも加えた四人の宴会となり、そこで俺は今回のことについて自分の推測を話してみた。
「成る程のぅ。アネス様の寵愛持ちじゃったのか」
「それで土の修行に身が入らず、あの場所に行ったのか……なんで気づかなかったんだ俺は」
「わしも気づかなかったとは……耄碌したかのぅ。修行やり直すか」
「爺さん、俺もやる」
「私も!」
三人の心に火をつけてしまったようだ。
「スノウ。お主の修行は終了じゃ。しかし、お主の風の仙術は威力が可笑しいから、しっかり威力を確かめてから使うように」
「ん。分かってる」
「それで、帰るんじゃろう?」
「ん。帰る」
修行は終わったからね。なんか、思ったより強化された気がするけども、ま、強くなったんだからいいだろう。
直ぐに帰ろうと思ったが、シュンメイさんがどんどん料理を追加して、夜まで宴会が続いたため、その日は泊まることになった。
さて、明日は久しぶりにギルドホームに帰って、ライラやクノに近況報告をしよう。
“雪”はこれで終わりです。
早いかもしれませんが、そろそろ〈ヤマト〉は終わらせたほうがいいかな~と
天人・天女、仙人についてですが、人族の進化先の一つです。仙人連峰で最長1ヶ月修行することでなれます。勿論、人によっては短くもなります。
種族ランダムでゲームをスタートして、天人・天女になったとしても、スノウのように修行することは変わりません。期間は最低でも半分になりますが
スノウの場合、“風”に対する高い適性と、【風之主】のおかげ等々で、期間がかなり短くなりました。ちなみに、あのまま半月修行していれば、【仙術】は満遍なく(勿論風の威力は称号などで上昇しますが)使えるようになっていました。【第三の眼】も別になっていたハズです




