『稲荷山にて“聖地”』
最初の聖地に来たのだが、中々に壮大で思わず見とれてしまう。
ごうごうと轟音とともに、周囲に水飛沫を上げて此方を圧倒するのは、稲荷山周辺を流れる河川の源、高さ百メートルはあろうかという、大きな滝である。
滝で修行っていうと、滝行しか思い浮かばないのだが、こんな大きな滝に打たれなきゃいけないのだろうか? ここがファンタジー風のゲーム世界で、肉体をかなり強く出来るとはいっても、下手したら死ぬ気がする。
「これに打たれるの? 死なない?」
「打たれるは、打たれるけど、こんな大きな滝に打たれたら死んじゃうに決まってるでしょ」
「巫女修行用の普通の滝がありますので、そちらでしますのよ」
「成る程」
二人についていって、その巫女修行用の滝までいくと、常識的な、滝行にもってこいな滝があった。
ふむふむ。確かにこれなら、いくら打たれても大丈夫だろう。
二人が装飾品などの邪魔になるものを外し、滝の下まで行って滝行を始めたのを見た俺は、周囲の警戒をすることにした。
とりあえず、【風之主】で周囲の音や気配を感じとることにする。目を閉じて、リラックスした状態で神経を集中させる。
生き物達の蠢く気配
木々のざわめき
川のせせらぎ
滝から流れ落ちた水の轟音
森に不釣り合いな異音
音と気配だけに集中することによって、かなりの広範囲のソレを感じとることが出来た。その中から、例の三人組らしき声と気配を探す。
探すこと数秒
かなり遠い場所に、それらしき気配と声を見つけた。
『くそっ! なんなんだよ、あの女!』
『分からないわ。でも、情報通りじゃないのは確かね』
『三老師カラノ連絡ガコナイガ、トニカク、アノ二人ヲナントカシテ連レテ行クゾ』
『そうね。幸い、ここにいるのはあの三人だけだから、いくらでも方法はあるわ』
『ふん! 作戦は任せる。俺は、あの女に復讐できりゃあいい』
ふむふむ。諦めてはいないようだな。
さて、このまま逃げ切れるか………無理だな。聖地で色々とやる時間もあるみたいだし、というか、向こうの機動力もまだ分からない上に、能力についても不明なんだよなぁ………
俺については、いざとなったら死に戻れば助かるけれども、護衛の二人はそうはいかないからなぁ
うーん。どうるするか……
「ちょっと、何寝てるのよ」
声をかけられたので目を開けてみると、眉間にシワをよせたイチカが、イライラしたような顔で此方を見ていた。
どうやら終わったようなので、立ち上がる。
「次は?」
「次に行くのは、“碧の洞窟”ですわ」
「“碧の洞窟”?」
「地底湖よ。驚くほど澄んだ水の……ね」
へぇー。
それにしても地底湖か。なんというか、聖地というより絶景な気がしないでもないな。うん。
再び三人で歩いていく。
二人は時々睨み合いをして、俺のほうは周囲の警戒をする。
ちなみに、滝を過ぎたこの辺りからは、モンスターも出現する。妖狐や、化け狸、鎌鼬などの、獣系妖怪達だ。幻術やら妖術を使ってくる厄介なモンスターなので、早めに倒すのがコツらしい。
そんな妖怪系モンスター達だが、陰陽師系統なら複数。他の職業ならだいたい一体だけだが、式神として契約できる。俺の場合なら、柊だ。
「そういえば、スノウはなんで巫女になったの?」
睨み合いに飽きたのか、暇潰しのためなのかは分からないが、唐突にイチカが巫女になった理由を聞いてきた。
突然なんでなったか聞かれてもなぁ………
ええっと、確か鉄扇の教官のクレハさんにアザミさんを紹介されて、特に就きたい職業とかもなかったし、そのままなっちゃったんだよな。
うーん。ありのことを言ったら面倒なことになりそうだな。ちょっとぼかそう。
「知り合いにすすめられて」
「へぇー。私は、生まれた時から巫女になるために頑張ったのよ」
自慢気に今までのことを話始めたイチカに相づちをうちつつ、まだまだ離れているが、着実に此方へと向かってくる3つの気配に警戒する。
なんとか、奴らに追い付かれる前に二つ目の聖地でことを済ませて、アネス達の所に行きたい。そこなら安全だし。
「スノウさん」
「ん?」
「スノウさんは巫女なのに、なんでそんなに強いのかしら?」
ミズキが俺がなんで強いかたずねてきたが、俺の強さの大元ってなんだ? 祖父から鍛えられたからか? 装備か? スキル……
やっぱり祖父かな? うん。祖父だろう。
「祖父に鍛えられた」
「おじいさんに?」
「ん」
「さぞかし有名な方なんでしょうね」
「?」
有名と言われても、この世界の人間じゃないし、向こうでも教えた人は殆どいないんじゃないかな? まぁ、言っても分からないだろうしそのままにしておこう。
滝から出発し、途中モンスターを倒したり、休憩しながら歩くこと一時間。”碧の洞窟“の入り口へとやって来た俺達は、迷うことなく入っていく。
洞窟内は青く光る石があるため、ランプなどは必要ないようだ。暫く歩いていると、遂に目的の地底湖にたどり着いた。
そこには━━━
「……凄い」
「綺麗ですわ」
「聞くのと見るのとじゃ大違いね」
青く澄んだ湖に、周囲にある青く光る石や水晶の光が当たり、水面で反射した光が周囲をいっそう青く輝かせ、反射せずに水中に入った光は、湖の中で咲く花々を美しくライトアップしている。
最初の聖地である、壮大で雄大な滝。
二つ目の、静かで美しい地底湖。
やはり聖地という名の絶景な気がしないでもない。
「それじゃ、身を浄めてくるわ」
「警戒。お願いしますね」
「ん」
そうそう。滝では精神を浄め、ここでは肉体を清めるらしい。
さて、一応入り口から出ることも、もう一つある入り口(出口)から出ることも出来るので、片方から奴らが来たら、もう片方から出ればいいのだが、連中は三人。二手に別れられたら挟み撃ちにされる。
連中の気配はそう遠くない位置。さて、早めに終わればいいけど………
待つこと三十分。連中は入り口の側まで来ている。そろそろ行動しないと不味いな。
「終わったわよ」
「行きましょうか」
「すぐそこまで来てる」
「「え?」」
「急ぐ」
二人の手を引いて、例の三人がいるのとは反対のほうの出口に向かう。
む。一人こっちがわに来るな。
とりあえず、一人ならまだ対処のしがいがあるけども、いったい誰がくるのやら………
「はっはー。当たりだぁ!」
デカイのが来た。




