『稲荷山にて“三人”』
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■稲荷山“修行之地”■
巫女修行を開始したイチカとミズキ
それぞれ修行達成のために、最初の聖地へと向かっていたのだが………
「ちょっと、着いて来ないでよ」
「それはこっちのセリフ。着いてきてるのは、貴女のほうでしょ?」
目的地が同じであるため、言い合いをしながら早足で同じ場所に向かっていた。
森の中を歩きながら、イチカは思案していた。
(さてと、この女より先に修行を終えないとだけど、普通にやったらほぼ同時に終了のハズ………ここは、わざと最短ルートから外れるべきかな? でも、この女も最短ルートぐらい調べてそうだし………)
そして、イチカの隣を歩いているミズキも、同じく思案していた。
(この女より先に行く方法………別のルートから行くべきかしら? でも、この女の事だから、最短ルートぐらい調べているハズだし………)
お互いに、どちらが先に終わらせられるか考えているが、相手が修行を達成出来ないなど考えず、相手を修行失敗に導く方法も考えない。あくまで、正々堂々と勝つための方法を考えている。
サクラとキクノ
イチカとミズキ
二組とも相手の実力は認めている。その上で、どちらが上なのか張り合っているのだ。
他人から言わせると、ただのライバルである。
さて、二人が暫く考え事をしながら歩き、最初の聖地の近く………そして、巫女の総本山である城から遠く離れた場所に差し掛かった時、事態は動き始めた。
「見ツケタゾ」
「ハハハハハ! へぇ、なかなかの上玉じゃねぇか」
「手は出しちゃダメって分かってるわよね?」
二人の前に現れたのは、フードを被った顔や素肌の見えない性別不詳の人物。大柄で所々赤く染みになっている金棒を持った男。露出の高い服に、鎖を身体に巻き付けた女の三人組。
「誰っ!?」
「どうしてここに部外者が………?」
二人は直ぐ様懐から符を取り出して身構えるが、性別不詳の人物が指を鳴らすと、紫色の靄のようなものが発生し、二人を絡めとっていく。
二人は、もがきつつ符を使おうとするが、何故か発動しない。
「な、なんで?」
「符トハ、魔道具ノ一種ダ。ナラバ、魔道具ヲ封ジル魔法デ使エナクサセラレル」
「ま、そういうこった。大人しく、着いて来てもらうぜ」
大柄な男が、符が使えない二人に手を伸ばす。
二人が、なんとかこの場を切り抜ける方法を必死に考えていたその時。
一陣の風が吹きわたったかと思えば、大柄な男が消え、直後幾つもの木がなぎ倒されるような音がしたかと思ったら、男がいた場所に、巫女服を着た少女が立っていた。
「間に合った」
突然の少女の出現に固まる周囲の者達、そんな彼らを見ながら、少女━━━スノウ━━━は、この後どうするか考えていた。
◇
■スノウ視点■
さて、あの二人は何処に行ったのかな?
以外にも足が早かった二人を、俺は早速見失っていた。
まぁ、暫くすれば見つけられるし、それまではこの森の中にある珍しいアイテムでも収集しますかね。
薬草やら、毒草やら、木の実やらを採取していく。そういえば、最近ポーション作ってないな、帰ったら暫くポーションの量産に勤しみますか。
「ん?」
風に乗って聞こえてきた声に、俺は困惑してしまった。
何処か焦っているような、怯えたような、そんな声が聞こえてきたのだ。それは2つなので、多分あの二人なのだろうけど、モンスターが出てくるのは後半じゃなかったっけ?
まぁしかし、護衛を頼まれてるし、それが俺の巫女修行の内容だから、さくっといきますかね。
声のするほうに駆けていくと、例の二人に上半身裸の大柄な男が手を伸ばしている所だった。
直ぐ様、『疾風』と『迅雷』の符を発動させる。早く、上位互換の『疾風迅雷』か、『電光石火』が使えるようになりたい。
「【吹風掌】」
皆大好き【疾風蹴り】はお休みして、【吹風掌】を使ってみる。
こっちは、【疾風蹴り】よりは攻撃力が下がるけれども、吹き飛ばしに関しては此方のほうが上のようだ。
「間に合った」
敵はさっきの大男に、フードを被った性別不詳の人物、露出の多い服に鎖の巻き付いた女性。
さて、相手が何者なのかも分からんし、どうしようかね…………うーん。ここは、一先ず逃げますかね。
「『我求むは、人を喰らいし鬼の魂より産まれし子』!」
「馳せ参じました、主様!」
柊を呼び出し、『疾風』と『迅雷』を付与、イチカを抱えさせる。
「ええっ!? な、なに? なんなの!?」
「じっとしていて下さい」
俺のほうは、ここから脱出するための準備をしておく。さてさて、いきます━━━
「てめぇぇぇぇぇ!!! 覚悟は出来てんだろうなぁぁぁぁぁ!?!?」
「『竜巻』」
大男が目覚めたので、さっさと脱出する。三枚の符から放たれた、幾つもの竜巻が周囲に暴風を巻き起こす。
敵は耐えるのに必死なようなので、俺はミズキを抱えて、イチカを抱えた柊と一緒にその場から全力で逃走。
最初の聖地のすぐそばまで来た俺は、柊を帰した。
「それで、なんで私達を助けたの?」
怪訝そうな顔で此方を見るイチカ。助けたというのに、その言い分はなんなのだろうか。全く、お礼一つ言えるようにならなきゃ、この世界で生きていけないよ、本当もう。
「助けてもらったというのに、お礼も録に言えませんの? 助けて頂きありがとうございますわ。スノウさん……でしたわよね?」
「ん」
「なっ! 煩いわよ! えと………その、ありがと」
「ん」
ふむ。もしかして、ツンデレか? ツンデレなのか? どちらかというと正直な娘のほうが好きだけど、ツンデレもいいと思うよ、うん。
さて、二人に色々説明するか。
「…………つまり、貴女の巫女修行は私達を守ること………ですの?」
「ん。ツバキさんにも頼まれた」
「ツバキさんが? ふーん」
まぁ、ここで拒否されても、嫌がられても、ついて行くけどね。
「まぁ、またあの連中に襲われたら不味いですし、護衛の件、お願いしますわ」
「別に頼んでないけど………宜しく」
よし、二人の了承も得られたし、のんびりいきますか。




