『稲荷山にて“再会”』
「ん~」
「………」
「………」
「……ねぇ」
誤解も解け、稲荷山に入る許可ももらった━━もう既に入っているが━━ので、風の示すままに迷いなく歩いて行く。
「ん~ん~」
「………」
「………」
「ねぇってば」
というか、会って話をするだけってなんかあれだな。まぁ、一応食べ物は色々用意してるからいいけど、何が気に入るかな?
甘味が好きかと思って、プリンとか今作れるものを作ってきたが、気に入ってくれるかな?
「ちょっと、いいかげん聞きなさいよ!!」
「ん?」
あ、そうそう。何故か、俺を襲った三人がついて来ている。
いや、ついて来ているのは狩衣の女性で、後の二人は狩衣の女性に付き添っているだけみたいだ。
それにしても、この人………いや娘かな? 女性というより少女だな。俺より背が高いようだが、年は俺と同じくらいだと思う………あくまで、現実基準だけども
「アンタ、何処に行くきよ!」
「………さぁ?」
そんなもん俺が知るわけなかろうに………
だってさぁ、俺は風の示すままに歩いているだけであって、目的地は知らされてないんだよ。
と、そんなことを言えるハズもなく………だって、行ったらこの娘めんどくさい感じになりそうなんだよね、まぁ、言わなくてもめんどくさそうだけど
「何よ『さぁ?』って! じゃあ何しようとしてるのよ!?」
「ん~…………お話し?」
「なんでそれも疑問系なのよ!」
「そう言われてもね」
とにもかくにも、ずんずん先に進んで行く。
しかし、少女は未だにギャンギャン騒ぐ、なんなの? 俺が何したっていうの………
いや、不法侵入したはしたけどさ、神様が大丈夫っていうから入ったんだから、俺は別に悪くないと思う。うん。悪くないハズ。
「あーもう! やっぱり納得出来ない! アンタ、さっさと出ていきなさいよ!」
「おい」
「だ、駄目ですよそんな言い方!」
「だっておかしいでしょ!? 勝手に入って来て、勝手にウロウロするなんて!」
確かに。
さて、俺は急ぎたい。という訳で、後ろで言い合っている三人は置いて行こう。
「なっ!?」
「あ」
「ちょ! 待ちな━━━」
全速力で、風の示す先に、走り、飛び、どんどん進んで行く。
木々の合間を跳ねるように、先へ先へと進む。
「あれかな?」
暫く進むと、開けた場所に豪華な社があった。正面に“風”と書いてある額もあるし、ここで間違いないだろう。
扉を開けて中に入ると、風神アネスの木像が置いてあった。
ベールのような薄い衣を身に纏った、ポニーテールの美しい女性だ。
しかし………
「もう少し、子供っぽさを入れたほうがいいと思う」
「まぁ、確かに」
声のほうを向くと、うっすらと光っている、薄緑色の長いポニーテールに、エメラルドグリーンの瞳、白にほんの少し緑を混ぜたようなワンピースを着ている、美しい女性がいた。
俺の視線に気がつくと、いたずらっ子のような笑みを見せた。
「久しぶりだね、スノウ」
「ん。久しぶり」
風神アネス。俺に寵愛を与えた神様………しかし、今のプレイヤー間では、神様と会ったという情報が無い。隠している可能性もあるが、そこの所どうなのだろうか? とりあえず、アネスに聞いてみると………
「異界の冒険者はまだよく分からないことだらけだからね、皆様子見してるよ」
ここでアネスの言う皆とは、他の神々のことだろう。
あれ? じゃあ、俺は?
「え? 気に入ったからだよ?」
何かおかしい? というように首を傾げるアネスに、何も言うきが無くなった。
「でもね、皆も気になってる子がいるみたいだから、そのうち神の加護を持つ子が増えるんじゃないかな?」
スノウみたいに凄く好かれるのは、かなり珍しいけどね。と、笑うアネスから詳しく聞くと、他の神よりは寵愛を与えるとはいえ、寵愛を与えられるのは本当に珍しいらしい。
なんだろう。風竜王といい、風霊王ルフといい、俺は風系に好かれるなんかを持っているのかね? まぁ、別にいいか。
「あ、そうだ! スノウ、今度巫女修行でヒュールの所に行く子がいるんだけど、手伝って上げて」
「なんで?」
「実は、正直まだ早いんだよね、私もヒュールも時期を待てって神託を出したんだけど、人間の都合なのかなんなのか、早まっちゃって、心配だから一緒に行ってあげて」
行ってもいいが、そういうのって、一人でやるものじゃないのか? そう聞いてみると、俺のほうも巫女修行としてアネスの所に行くことにし、途中から一緒に来てくれればいいそうだ。
「途中まではモンスターも出ないんだけどね。とにかく、ここの最上位の巫女の一人が、私の寵愛を持ってるからすんなり通ると思うよ」
なんてったって、私からの指令だからね! と、自信満々に言うアネス。
あれ? そういえば、ヒュールって誰だ?
「水神ヒュール。仲いいんだ」
水の神様か、どんな人なんだ? アネスの自由人な感じを許容出来るってことは、それなりに心が広い人なのかな?
とりあえず、ずっと話しているのもあれなので、色々と料理を出してみる。
「わぁ! 料理ってちゃんと食べること少ないんだよね♪」
嬉しそうに、どれから食べるか悩んでいるアネスを見ながら、大福を食べる。
うん。我ながら上手く出来た。
「これ、綺麗で、可愛くて、美味しい!」
アネスは、初めて作った和菓子を、美味しそうに食べている。
和菓子が食べ終わると、肉や魚、ご飯、パン、好きなように自由に食べていく。
「スノウの料理凄く美味しい! また食べたいな♪」
「ん。任せて」
神様に気に入られるか不安だったが、美味しく食べてくれたようなので何よりだ、今日は和食が多かったけど、次はフランス料理とかにもチャレンジしてみるかな




