『稲荷山にて “誤解”』
何故か宿代はいらないと言われた。
ユキミさんの封筒のおかげかな? ラッキーだったので、そのまま宿から出て、当初の目的地に向かう。
〈キョウト〉から出て、目的地まで走る。
暫く走っていると、霧に包まれた山が見えてきた。
山裾には、一軒の茶屋があった。
「こんにちわ」
「こんにちわ」
お店の女性店員さんに挨拶。
「この山は稲荷山であってる?」
「えぇ、でも、許可証がないと入れないわよ? 『惑いの結界』のせいで、山裾に戻ってきちゃうから」
「ん。大丈夫」
大丈夫のハズだ。
なんせ、俺のバックには神様がついてるからなっ!
『ふんふんふーん』
………大丈夫だよね?
とりあえず、山を登っていく。
霧が濃くて何も見えないが、風が通り道を教えてくれる。
なんというか、神様に会うとイージーモードにならないかコレ? とにもかくにも、先に進んでいく。
そういえば、なんで神様に会うために、巫女の総本山に行かなければならないのだろうか? 疑問に思ったので、聞いてみると……
『聖域があるからだよ』
「聖域?」
『うん。私達って、そんな簡単に下界には降りられないの、色々と制約というか、なんというかがあって、聖域に一時間いるのが限界』
「あの時は?」
俺が初めて会った時は、聖域なんてたいそうな所にはいなかったと思うんだけど?
『あの時は、ちょっとした条件が揃って、なんとか接触出来たんだよ。ちなみに、こうして長く話せるのも、私の寵愛と、【風之主】、それにここが聖別された場所だからだよ』
成る程、通りで最近話す頻度が多いと思ったら……
『あれ?』
「何?」
『ううん。多分大丈夫だとは思うけど、気を付けてね』
「え?」
『私は降臨の準備をしてるから、後は風の示す場所に来てね!』
なんかよくわからんが、何か起こるらしい。
『我求むは、風纏いし俊足の鎌!』
「む?」
風に乗って聞こえて来た声と同時に、右のほうから風を切る音が聞こえてきて、何かが迫ってくる。
とりあえず、避ける。のだが
なんか着いて来るんですけど?
とりあえず走って逃げていると、広い所に出た。
「━━━━ッ!!」
「しっ!」
急停止して、迫って来ていたモノを鉄扇で弾き飛ばす。
「フゥゥゥゥゥ!!!」
「鎌鼬?」
襲撃者は、まんま前足が鎌になった鼬だった。
そして、目の前の木々の間から、巫女服の女性が一人と、白い狩衣? を着た男性と女性が一人づつ。見た感じ、鎌鼬を呼び出したのは男性のほうみたいだ。
にしても、他人の式神を初めて見たが、鎌鼬もいるのか…………まぁ、俺は陰陽師ではないので、式は三体までだからしっかり選ばんとな
「どうやって『惑いの結界』を越えたかは分からないが、ここまでだ!」
「『我求むは、幻惑にたゆたう獣』! 逃がさないんだから!」
「お二人とも、油断しないで下さい」
あれは……管狐かな? しかし、なんで攻撃されてんだろ?
あ、巫女服に着替えるの忘れてた。
とりあえず、装備チェンジ!
「巫女服?」
「杖も本物ですね」
「貴様! 何処で手にいれた!」
あれ? 巫女服に着替えたのに、まだ警戒されてるんですけど………しかも、狩衣の女の子は敵意むき出しになってるんですけど……
とりあえず、三体一は流石に不味い、といっても、俺が呼び出せるのは一人だけなんだよなぁ。
鎌鼬と管狐の攻撃を避けつつ、懐から式神を呼び出すための符を取り出す。さて、呼び出すための呪文は無くてもいいんだが、ここは前の二人にのって、言いますか!
「『我求むは、人を喰らいし鬼の魂より産まれし子』!」
「馳せ参じました、主様!」
ぼふんと煙を上げた符から出てきたのは、既に刀を抜いた状態の柊だ。
場を見回した柊は、此方に向かってくる二匹の獣を認識すると、一瞬で斬りふせた。
煙となって消える二匹
「式神だと?」
「それも、若いですが高位の鬼です」
「くっ」
さて、柊にとりあえず警戒を指令をだし、どうやって誤解を解くか考え………てる暇はないようだ。
此方に向かってくる幾つもの気配を感じる。
応援かな?
「侵入者がそっちに逃げた! 捕まえてくれ!」
「どけぇぇぇぇぇぇ!!!」
違ったみたいだ。
異形の姿をした大太刀の男が森の中から現れ、俺に向かってその巨大な刃を振るってきた。
しかし、その凶刃が俺に届くことはない。
「主様に武器を向けるとはっ!」
「何っ!?」
凄い勢いで振り下ろされた大太刀が、柊のもつ刀に弾かれてふっ飛ぶ。
「主様に刃を向けたことを、一生後悔するがいい、『餓狼連撃』!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!?!?」
〈妖刀・屍桜〉によって身体中に斬り傷を刻まれた異形の大男が、叫び声を上げながら地面をのたうち回る。
うん、【邪刃】はもう使わせないほうがいいかな?
とりあえず、柊は送還しておく
「ご協力に感謝………どちら様ですか?」
大男を追っていた狩衣を着た男性の一人が、お礼を言った後に首を傾げて尋ねて着たので、事情と、巫女であることを伝える
「す、すみません!」
「申し訳ない」
「…………」
俺を侵入者と勘違いした(ある意味侵入者だが)三人が、謝ってきた。いや、狩衣の女性はむすっとした顔でそっぽを向いている。
俺を侵入者と間違えた理由だが、三人とも【鑑定】スキルを持っておらず、侵入者の情報を殆ど聞かないまま探しに出たので、分からなかったそうだ。
まぁ、此方にも非はあるので、謝罪は受け入れて此方も謝っておいた。
さあ! 誤解も解けた所で、風神様に会いに行きますか!




