『「ただいまと言える場所」・「おかえりと言える人」』
「んで、鬼を倒した………と」
「ん」
「んで、手に入ったアイテムで出た式が、ソイツだと」
「ん」
「柊です」
「んで、こっちは竜から貰った卵から孵ったと」
「ん」
「髪、髪~♪」
「髪を引っ張らないよう言ってくれるか?」
「ダメですよ、竜胆」
「はーい!」
ロンレンさんに説明しました。
他の皆………俺の捜索をしていた人達にも、説明しました。
後は、“夢月館”にいる人達に説明しないと
とりあえず、皆とお店の中に入る。
「離して! 早く助けに行かないと!」
「落ち着きな! アンタが行ったところで、どうなるってんだい!」
「師匠! もう少し言い方ってものが……あ!」
なんか、ユキミさんが外に出ようとしてたのを、イドミさんとミズハさんが止めている。んで、俺が入って来たのに先ずミズハさんが気がついて、その声にイドミさんとユキミさんも気がついた。
「トウカ!」
「ユキミさん!?」
「ユキミ……アンタ………」
ユキミさんが、妹さんの名前を言って俺に抱きついてきた。
「トウカ、トウカっ、良かった。無事だったんだね!」
俺に抱きついて泣くユキミさん。
酷かもしれないが、本当のことを告げなければいけないだろう。
「違うよ」
「………」
「私はスノウ」
涙を流し続けるユキミさんに、静かに告げる。俺は、スノウだ。ユキミさんの妹には、トウカさんにはなれない。本人にも、代わりにも
俺は、俺だ。他の何者でもない
「………そっか、そうだよね。トウカはいないんだよね」
「………」
「いないんだよね。だって、あの時………まだ苦しんでるのかな?」
「………ううん」
あの時、鬼を倒した時、幾人もの魂が天に昇った。安らかな眠りに落ちた。
その中の一人が
口々に俺に礼を言うなか
その少女だけは
「お姉ちゃんのこと………お願いね」
そう言っていた。
「もう泣かないで、それじゃあ眠れないよ」
「………そうだよね、トウカはいつも私に心配しないでって言ってた。今は、私じゃなくてトウカが心配してるんだね」
ユキミさんは泣きながら、俺に……いや、自分自身に言い聞かせるように呟く。
「ごめんね……いい加減前をむかなきゃね」
ユキミさんが、涙を拭って、唇を引き結ぶ。
さて、そういえばまだ言って無かったことがあった。
「ただいま」
ユキミさんが、目を見開いた後、誰もが見とれてしまうような美しい笑顔を浮かべて、呟いた。
「お帰りなさい」
◇
「ふあーはっはっは! めでたいぜ! 腹躍りでもするか!」
「主様に汚いものをみせるな!」
「げふほぉあ!?」
酔っぱらって腹躍りをしようとしたロンレンさんが、柊の回し蹴りで吹き飛ばされた。流石、鬼ということはある。凄い威力だ。
「主様、ゴミの処理が終わりました」
「ゴミはダメ」
「………では、酔っぱらいの処理が終わりました」
「ん。お疲れ」
誉めてほしそうな柊の頭を、撫でてあげる。ちなみに、俺の帰還を喜んだネーヴェとシャルーは、竜胆に一瞬で捕まって、今も……
「可愛い~♪」
「きゅ~……」
「~……」
うん。未だに捕まっている。
それと、ユキミさんが未だに吹っ切れてなさそうな感じ。
どうしようか考えていたら、竜胆がネーヴェとシャルーを抱えたままユキミさんのほうへ
「痛い?」
「え?」
竜胆がユキミさんの胸に手を当てて、小首をかしげて尋ねている。あれ? 竜胆って、そういうの分かるの? 言っちゃ悪いけど、竜胆は繊細なこととか分からないと思ってた。
ユキミさんが、大丈夫だよ、と、笑って竜胆を撫でると、竜胆も笑顔になった。
「スノウ」
「ん?」
料理をもぐもぐ食べていると、イドミさんが話しかけてきた。
「アンタ、なんのために鬼と戦ったんだい?」
「見たくないの」
「見たくない?」
「誰かが傷ついて、悲しそうな顔をするの」
「そうかい」
イドミさんが、ふぅーと、息を吐いた。
「けど、アンタが傷ついて悲しむ人がいるのも知りなよ」
「………知ってる」
「……スノウ、アンタ………」
そんなこと百も承知だ。しかし、それでも俺は止まらない。これが俺だ。
今さら、自分を変えられるとは思わない。それに、死ぬつもりも毛頭ない。
危なくなったら逃げるさ。だって
「おぃぃぃ! 蹴ることないだろ!」
「汚いものを見せようとするからです」
「ユキミ好き~♪」
「えへへ。私も好きよ~」
「ぬぁぁぁ! ちょっとそれ私のよ!」
「違いますぅ~。早い者勝ちですぅ~」
「師匠! お酒はダメだと言ったでしょうがぁー!」
人の悲しそうな顔は見たくないからな、だから、俺は絶対に死なない。
………寿命はどうしようもないけどさ
“悪鬼編”終了です。掲示板回と、その頃の〈ツェントゥル〉をやって、〈ヤマト〉の次の話に入ります




