『夜の終わり』
フレンドメールを流し読みする。
殆どが、先ほど俺が放った『竜巻』に関するメールだったので、「さっきの竜巻は私がやりました。申し訳ありません。」というメールを、この場にいるライラとクノ以外に、一斉送信。
スリート姉さんとヘイルからは、「後でゆっくり聞かせてね?」的なメールを返された。これは、洗いざらい吐いたほうがいいな。
「来たか」
「誰ですか?」
「あれは、ハルシィとグレインだな」
「じゃあ、後は王子だけですね」
「いや、王子なら……」
どうやら、最後の二人が来たようだ。ん? 王子? あぁ、そんなふうに呼ばれている人なら………
「リューニャ! 大丈夫か!? 怪我はないか!?」
「ちょ! お兄様あまりくっつかないでください! 恥ずかしい!」
「何を言うんだ! 兄妹の感動的な再会の場面じゃないか!」
「そんなに長い間離れてません!」
リューニャに抱きつこうとして、拒否されている。典型的なシスコンの兄と、兄のことはそれほど好きでもない妹、という感じの兄妹だな。
「リューニャ、此方の三人は?」
「友達!」
「そうか、リューニャが世話になったようだな、感謝する。お礼は、後日改めて」
お礼か………
貰えるとしても、魔族の国については情報すら出回ってない状況だから、かなり先になりそうだな。
そして、ハルシィさんと、グレインさんとも自己紹介をしあい。そろそろお別れかな? と思った時、『風の察知結界』に沢山の反応。しかも、声からして友好的ではない。というか、以前聞いた、アーサーとか言うやつそっくりの声も聞こえる。めんどうくさいな……ッ!?
レレロゥの時と同じような、嫌な風が背中を流れるのを感じると同時に、『風の察知結界』にリューニャに向けて空気を斬り裂きながら、何かが飛んでくるのが分かった。
『ガキィン!』
「きゃっ!?」
「「え?」」
「「「「「何!?」」」」」
ナイフか……
飛んで来たほうに、全速力で移動。『風の察知結界』を全力で使い、居場所を特定。
大分速いようだが、今の俺より遅い。
正面に先回りして、全速度を乗せた回し蹴りを叩き込む。
双方かなりの速度で移動していたが、俺のほうが速いうえに、魔力を纏った状態で、かなりの速度を乗せた蹴りを叩き込んだのだ。結果は………
「ぐぼぁぁぁ!?!?」
物凄い勢いで、来た道をぶっ飛びながら戻っていく。途中の木々は当たったそばから折れていく。さて、追い討ちをかけるかな。
「げほっ! ごほっ! い、いったい何が……」
「せい!」
「ぐはぁ!?」
今度は、起き上がった所を、無防備な顔面に飛び膝蹴りを叩き込んで、再びぶっ飛ばす。
俺の友達を殺そうとしたのだ、ただじゃ済まさんぞ。ここからが、本番だ。
「ほい」
「ぐほっ!」
「よっ」
「がっ!?」
「それ」
「やめぶっ!?」
地面に倒れて蹲っていたところを、蹴り上げる。そして、地面に落ちる前に再び蹴り上げ、また落ちてきたところを蹴り上げる。
名付けて、人間リフティング!
「スノウちゃん一人じゃ危ないと思ってたけどー、心配ないみたいねー」
「えげつなっ!」
ハルシィさんとグレインさんの声が聞こえたが、今は集中しないと落としてしまいそうなので、おいておく。
よし、このへんでいいだろう。
落ちてきたところを、先ほどとは違い踵落としで、地面に叩きつける。リフティングの途中から声が聞こえなくなっていたのだが、どうやら気絶していたようだ。
「スノウちゃん後はー、任せてねー。『カースチェーン・バインド』」
ハルシィさんの言葉とともに、禍々しい黒紫色の鎖が現れ、気絶した男を捕縛する。
「よっ。『シャドーホール』」
続いて、グレインさんの影が伸びて男の真下に円を作ったと思ったら、男がその円に落ちた。どういう魔術? 魔法なのか……
「それじゃー、戻りましょうー」
「だな」
「ん」
三人で広場に戻ると、他の七人が大勢のプレイヤーに囲まれていた。
プレイヤーは七人を囲んではいるが、今は攻撃する様子はない。理由は直ぐに分かった。なんかしらんが、アーサーが七人に向かって何か喋っている。あれは、酔ってるな、自分に。
「お待たせ」
「スノウ。さっきの奴は?」
「叩きのめした後に、グレインさんが捕まえた」
「そっか。それより、あの口上なんとかならない?」
「無理」
だってめんどくさいんだもん。
そしてここで、フレンドメール。魔族守ろう組の皆が、俺達を囲んでいるアーサー達を囲んでいて、何時でも攻撃出来るので、何か合図をしてくれとのこと。
クノとライラにも伝え、『爆炎』の符を上空に投げるという合図を、アーサー達が武器を構えたらするということで決まった。
「…………という訳だ。今なら、僕らの仲間になり、悪しき魔族の討伐に参加させてあげよう!」
「言いたいことはそれだけ?」
ライラがイライラしたように返す。
「なに?」
「口上長すぎ、来るならさっさと来てよね」
「くっ!」
顔を真っ赤にしたアーサーが、手を上げる。それに合わせて、俺も『爆炎』の符を投げて合図を出す。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?』
「な、何事だ!?」
「大変です! 後方から幾人ものプレイヤーが奇襲を!」
「なんだと!?」
合図と同時に、森の中から爆発音や、誰かの高笑いや、「スノウ様に武器を向ける奴は………」「全員ぶっ殺すD・E・A・T・H! 殺すのデス!」とか聞こえてくる。
活躍してるのは、ヘイルにルキエさん、茜さん、親衛隊の隊長の皆さん等々、少し前に聞いたように有名プレイヤーや、トッププレイヤーの実力を発揮して、敵を片付けていく。
「くっ! せめて悪しき魔族だけでも!」
「お呼びじゃないのよ!『烈火五連』!」
「ぐぁっ!?」
「『樹木の檻』」
「なに!?」
ライラの『烈火五連』をくらい、怯んだところをクノの『樹木の檻』に囚われる。さて、トドメといこうか。
「『爆炎』!」
十枚の『爆炎』の符により、大爆発が起こり、木の檻ごとアーサーを消し飛ばした。
その後は、此方は誰一人欠けることなく、倒すか逃がすかすることが出来た。
◇
「それじゃ、またね三人共!」
「ん。また」
「何時になるか分からないけど、必ず行くわ!」
「またね!」
リューニャは魔族の王国へ帰った。
さて、いよいよイベントも終わりが近づいてきた。明日に備えて、今日は寝ることにしよう。




