『隊長さん』
森の中を、先頭に俺、ライラとクノ、リューニャとリリルィ、殿にレレロゥという順で進んで行く。道中の敵は、闇夜に隠れたフクロが倒している。他は、大福が予定通りリューニャの頭の上。ネーヴェはリリルィについていて、シャルーは俺の後ろについている。
一番警戒しなきゃいけないのは、魔族を倒そうと考えているプレイヤーだ。一番重要なのは、リューニャを生かすことであり、俺達がやられてもなんとかなる可能性のほうが高いので、魔族はそこまで警戒しなくていい。
まぁ、合言葉は『死ぬな!』でいこう。
「スノウ。周りの様子はどう?」
「今のところは大丈夫」
『風の察知結界』の範囲内には、まだなんの反応もない。と思っていたら、右斜め前に3つの反応。何か会話しているようなので、おそらくプレイヤーだろう。
さて、襲ってくるなら撃退。話しかけてくるなら警戒しつつ、話し合いにのるが、どうでるかな? そんなことを考えていたら、【火魔術】の『ファイアランス』が飛んできた。
ふっ。甘いな。
『ファイアランス』はシャルーの放った水の槍と当たって消える。
レレロゥとリューニャが、俺達全員に防御系の魔法をかけたのを確認して、『風の察知結界』を解除。『爆炎』の符を五枚取りだし…………
「ほい」
軽い掛け声で、プレイヤーのいたほうに『爆炎』の符を投げる。
ゴォッ! という音とともに、爆発が起こる。
「「「うわぁぁぁぁぁぁ!?!?」」」
三種類の悲鳴が聞こえてきたが、気にせず進む。再び『風の察知結界』を作りだし、警戒を続ける。
そろそろつくかな?
前方に開けた場所が見えてきた。そして、『風の察知結界』に反応がでる。ん?
「五人いる」
「「「「「え?」」」」」
レレロゥを除く侵入した魔族は残り四人。最低でも一人はプレイヤーかモンスターだろう。石造りの舞台の全体が見渡せるようになると、一対四で戦っていることが分かった。
近接職三人と魔法職一人のプレイヤーのパーティーに対して、軽装に長剣一本でそれを捌いている魔族の人が一人。
にしても、長剣一本でよくあそこまで戦えるな。表情をまったく変えずに、近接三人の攻撃をいなして、魔法が飛んできても斬り飛ばしている。
「隊長ー!」
レレロゥが大声を上げて手を振る。すると、魔族の人は此方を一瞥した後、流れるように素早く四人に連続で当て身を食らわせてふっ飛ばし、此方にやって来た。
「レレロゥ。そちらが協力者か?」
「はい」
「そうか。リューニャ様の件で迷惑をかけたようで、申し訳ない」
隊長さんが丁寧にお辞儀をした。遠目から見てもそうだったが、かなりのイケメンだ。夜を映したような黒髪の、前髪の一部が銀色になっており、鋭い瞳は燃えるような紅。首のあたりには、鈍く光る鱗がある。
「殿下と他の二人には連絡とれますか?」
「いや。狼煙弾を撃てば来るだろうが、敵まで来るだろう。何か他に連絡手段はないものか」
顎に手を当てて思案する隊長さん。そんな隊長さんに、魔族の人を見つけたら連絡するように知り合いに頼んだことを伝える。それをもとに話し合って、連絡がくるまでここにいて、連絡がきたらその場所に行くということにした。
「本当なら、リューニャ様だけでも帰したいのだが、あいにく“帰還石”は一つしか持って来ていないのでな」
そんな話をしていたら、先ほど隊長さんがふっ飛ばしたプレイヤーがやって来た。
「おいおい。NPCに味方してるプレイヤーがいるぞ」
「バカだな」
「何をどうやったか知らないが、一緒に倒してやる」
近接三人がへらへら笑いながら武器を構え、魔法職の奴はいつでも魔法が撃てるように構えている。
「さて、下手に殺して人族や獣人族、エルフと戦争になるのは避けたいのだがな」
「隊長! こいつらは、死から逸脱した異界の冒険者です! やっちゃっても大丈夫ですよ!」
「ほぅ。初めて見たが、ぱっと見では分からないものだな。しかし、そういうことなら遠慮なくやれる」
隊長さんがそう呟いた後、隊長さんの身体が揺らめいて消える。
え? と思った時には、プレイヤー四人の身体が斬り飛ばされて光の粒子に変わった。
「うわっ。本当に死体が残らないんですね」
「の、ようだな」
隊長さん! さっきのいったいなんでしょうか? そう聞くのはなんかあれなのでやめておくが、気になる。使ってみたい!
「スノウさんにライラさん。隊長が気になるんですか?」
「「ううん、技術」」
どうやら、ライラも興味をもった模様。隊長さんは待っている間は暇だからということで、ちょっと教えてくれると言ってくれた。
先ず、隊長さんの職業は、魔法剣士の派生職業の幻影剣士系統の職で、それに関係したスキルを使ったらしい。魔法剣士であるライラは、将来的に可能らしいが、俺は無理らしい。
「【蜃気楼歩法】スキルや、その進化先の【幻影歩法】スキルなら誰でも覚えられるから、そう落ち込まないでくれ。」
隊長さんが言った【蜃気楼歩法】スキルは、使用するとその場に自信の残像を残せるスキルらしく。【気配希釈】というスキルと併用すると、残像のほうを本物と思わせることもできるらしい。もっとも、一定水準より上の人には、効果が薄いらしい。
進化先の【幻影歩法】スキルは、ある程度動かすことのできる幻影を産み出せるようになるらしい。他は、【蜃気楼歩法】と同じ。
「幻影剣士か~」
「目指すの?」
「うーん。どうしよ?」
「なるとしても当分先だから、今はそこまで考えなくてもいいと思うよ」
「そうね」
雑談しつつ連絡を待つが、先に無粋な奴らが来た。しかも、此方を囲むようにたくさんの気配と話し声が、風にのってくる。うーん。各個撃破するのも面倒だし、一掃しよう。という訳で、皆なをちょうどいい位置に移動させ、“符”を取り出す。
「何をするつもりなんだ?」
「さぁ? なんですかね?」
「ちょっとスノウ? その符ってもしかして……」
「えぇっと、スノウちゃん?」
「スノウ?」
「スノウさん?」
ひきつった笑いを浮かべる、レレロゥと隊長さん以外のグループ。幻獣達もびくびくしている。俺は、満面の笑みで四つの“符”を四方へ投げる。
「『竜巻』!」
符を起点として、合計四つの巨大な竜巻が起こり、周囲に暴風が吹き荒れる。俺達は風を操作した俺によって守られているが、他の奴らは違う。さらに、今回は慈悲はしない。
【風之主】を使って、竜巻の回転速度をさらにあげる。
さらに大きくなった竜巻が、プレイヤーどころか木々やモンスターも巻き込んで進んで行く。
たくさんの悲鳴や、フレンドメールの通知を聞きながら、ふと思う。
ちょっとやり過ぎたかな?
「ここまでしたら、王太子様も気づきますよね」
「というか、色々集まって来るだろうな」
「「「「…………」」」」
えっと、そんな目で見られるとあれなんですが。その、なんというか………
許して、てへぺろ(ほし)
ため息を吐かれました。




