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『水面下で蠢く者達』











「くそっ! こんな所まで攻め込まれやがって無能共が!」



PK軍団の砦の中で、一人のプレイヤー………《Kill Road》のギルドマスター、ジャックが怒りに叫んでいた。強力なPKを敵陣に送り込んだというのに、未だに旗を取った報告が無いのと、敵がこの砦に攻め込んでいるからだ。


彼がPKをやる理由。それは、現実での憂さ晴らしだ。現実でやったら犯罪になることが、ここでは自由に出来る。匿名であるから、やってもここで叩かれるだけだ。


PKは禁止されていない、だというのに今回のイベントで禁止されるかもしれないということに、彼は納得出来ていなかった。彼は、やり過ぎだと微塵も思っていなかった。NPCを殺したのに………



「くそっ! 負けてたまるかよ! 全員ぶっ殺してやる!」


「無駄、無駄。どうせ負けるんだからさぁ」


「あぁ!?」



ジャックの後ろから、ケラケラと笑いながら黒い衣服を着た、若い青年が表れた。口元は、スカーフのようなもので隠されている。



「てめぇは……」


「あれぇ? 忘れちゃったの? 僕はノックスさ」


「何のようだ」


「いやぁ、やっぱり君は目障りだと思ってさ。雑魚の癖に粋がって、うざいったらありゃしない」


「てめぇ………ブッ殺してやろうかぁ!?」



ノックスの言葉に顔を赤くして憤るジャック。しかし、そんなジャックに対して、余裕の姿を崩さないノックス。



「あはは。ムリムリ、君程度じゃ僕に一撃与える事も出来ないよ、君はさぁ、強者達の足下にも及ばない。そもそも、こっち陣営に強い人が少ないけどね」


「殺してやる!」


「そのくせ、向こうには灰姫とか、三猿トリオとか、nonameとか、シロガラスとか隠れた強者がいるんだから、参っちゃうよ………あぁ、後は未知数の《雪月花》もいるなぁ」


「死ねぇぇぇぇぇ!!! 『アースクエイク』」



ジャックの言葉をまるで聞いていないノックスに対して、自慢の巨大な斧で叩き潰そうとするジャック。しかし、ノックスは何処から取り出したのか、赤く光る血管のような模様が浮かび上がった斧槍を取り出すと、目にも止まらない速さでジャックの攻撃を回避した。


ジャックの攻撃で地面が砕ける。しかし、ノックスには当たっていない。飛び上がったノックスは、斧槍を振り下ろす。



「さよなら弱者君。『メテオ・スマッシュ』」



振り下ろされた斧槍は、ジャックを簡単に両断してデスペナルティにすると、地面を破壊した。その衝撃は、砦を揺らしてしまう程だった。



「あぁー、もっと弱くて良かったね。さぁてと、彼岸花さんもゲオルグ君もやられちゃったらしいし、どうせソウレン君に旗は盗られるから、終わるまで隠れてようか」



ノックスは独り言を呟いた後、その場から立ち去った。


この数十分後、ソウレンによってPKの旗は奪われ、PK軍団と正義のプレイヤー軍団は、正義のプレイヤー軍団が勝って終わったのだった。


そう、幾人かのPK達の予想通りに………





















「彼岸花さん、ゲオルグ君、二人共お疲れ様~。それと、ハニーさんとジゼル先生もお疲れ様」


「ふふふ。いいのよ、ルキエと戦えたから」


「こっちも、まだまだ強くならなきゃいけないって分かったからな」



丸い机に五人の人物が座っていた。先のプチイベントに参加していた、彼岸花、ゲオルグ、ノックスの三人と、晒に短パン姿で黒いマントを羽織った幼女と、黒いローブで目深にフードを被り棺桶のような物を背負った人物である。



「そんなに強いのいたの?」


「無音で空中移動する上に、防御無視らしき攻撃してくる奴だ」


「無音移動? いいなー」



ゲオルグの言葉にハニーと呼ばれた少女が、羨ましそうな声を上げる。



「此方の準備は上々ですよ。向こうとの交渉も終わりましたので、後はPK無効期間が終わるのを待つだけです」


「そっか。それじゃあ、それまでは各自レベリングしたり、好きに過ごしてもらおうか」



ジゼル先生と呼ばれた人物が、メンバーに報告すると、ノックスは愉快そうに笑って頷いた。彼らが何を企んでいるのか、知っている者は殆どいない。



「クラッチの奴はどうした? こっちの計画にのったのか?」


「いや、断られたよ。でも、こっちに関わらないなら、邪魔する気は無いって、彼の能力は未知数だから、手を出さない方向で」


「おう………未知数っていや、例の《雪月花》の連中が謎のスキルを使ってた」


「謎のスキルですか? 興味深いですね」



ゲオルグの言葉に各自の視線が集中する。《雪月花》、それは彼らにとって最も計れない集団である。特に、ギルドマスターのスノウについては、未知数の能力を持っているため、かなり警戒していた。


いや、彼らが注目する理由はそれだけではない。



「ねぇ、もしかして無音移動って………」


「ライラだ」


「あの娘かぁ………何度か邪魔されてるんだけど、反撃する前に気付かれそうになるんだよねぇー」



ハニーがうんざりしたという感じで、ため息を吐く。



「出来れば戦いたくないんですよね。恐らくですが、一人私の天敵がいると思いますし」



ジゼルもそう言って頭を掻いた。



「確かに彼女達は脅威になりえるよ。なんせ、ギルドマスターは僕と同じでドラゴンを所有してるし、従魔も2体で、鬼も持ってる。その上で、未知数の能力を幾つか持ってる…………もしかしたら、僕らの計画の最大の障害になるかもしれない」


「ただでさえ、今の準備段階から感づいて探ってる奴とか、なんとなくで見かけたら邪魔してくる奴もいるのにな」


「普通に強い人達もいますしね」


「今の所バレては無いけど、大丈夫?」


「ここまで来たら、成功させたいですよね」



彼らが企むこと、知られてはいないがPK最強格の者達が集い企むこと、それは―――――



「まぁ、邪魔が入るのも醍醐味。悪役として、デカイことしようじゃないか! 国家転覆をさ!」



彼らの計画は普通では無い。他のプレイヤーが思い付かないような事を、成そうとしていた。彼らが動く理由は、それぞれ違う。



ある者は、ただ誘われて面白そうだと思ったから



ある者は、ただの退屈しのぎに



ある者は、興味を引かれて



ある者は、間接的に己の欲求を満たせるから



そして、この計画を考えた彼、ノックスは………



(折角のゲームなんだ。自分からイベントを起こしてみるのも一興だろう)



ただ純粋に……自分なりにゲームを楽しむために。


やがて、ここに集まったPK達は、他のPKも、純粋なプレイヤーも、そしてNPCすら巻き込んだ事件を起こす。それがどのような結末を迎えるのかは………まだ、誰にも分からない。





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