『とある戦い:死神と戦乙女』
「ふふふ」
「………」
ヘイル達のパーティーが外でドン・クラッチと戦っている中、普通プレイヤー達の砦の中では、激戦が繰り広げられていた。
片や、光輝く剣を持ち戦う騎士。しかし、その周囲には、追従するように光の盾と、円錐形の光の馬上槍を持った大柄な鎧が浮かんでいる。
片や、巨大な鎌を構えた黒いゴスロリ衣装の少女。しかし、その背後には、紫色のオーラを放ち、目があるハズの場所に黒い炎が灯っている骸骨が佇んでいる。
両者の武器がぶつかり合う度に、衝撃波で周りのプレイヤーが吹き飛ばされる。
「ちょ! お二人共止めて下さいよ!」
「ちょっと無理かなぁ……近接の【化身】使い同士の戦いに、一応僧侶の私じゃあねぇ……」
「因縁のある二人なんだろ? なら、殴り込むのは野暮ってもんさ」
両者の戦いを遠巻きに見る、《エスポワール》のスリートと、《金鈴の旅団》の茜。二人のギルドマスターは、両者の戦いに参加する気は無いようだ。しかし、既に武器は取り出しており、何時でも戦闘に参加出来るようにしていた。
【化身】と呼ばれる物を出して戦う両者は、激戦の中にあっても会話をする。
「ふふふ。楽しいわね、ルキエ」
「黙れ、彼岸花」
《雪月花親衛隊》のギルドマスターであるルキエは、因縁の相手………いや、本人は腐れ縁と言える相手と戦っていた。
名を彼岸花。
PKではあるが、女性ばかりを狙っている。それも、ルキエと親しくなった女性ばかりを………
「このゲームに来てから随分やりたい放題だな!」
「ふふふ。これも“愛”よ。貴女には一生伝わる事は無いであろう儚い“愛”…………ああ、私はなんて可哀想なの?」
「嘘つき」
今にも泣き出しそうな顔をする彼岸花に、ルキエが吐き捨てるように言うと、彼岸花は先程までが嘘のように、恍惚とした表情を浮かべ始めた。
小さい頃から一緒の、幼馴染だった二人。端から見たら対照的な二人。
片や、何処と無く気品が感じられながら、フレンドリーで意外と普通な、咲輝。
片や、地味で暗く、人を寄せ付けない雰囲気を醸し出している、暗菜。
「ふふふ。皆が皆、私が貴女に対してコンプレックスを持ってると思ってるわ………大間違い、検討違い」
「あぁ、お前はお前だ! 今も昔も変わらず私を困らせる」
刃を合わせながらも二人は話し合う。それは、ある意味阿吽の呼吸と言えるのかもしれない。
「ふふふ。貴女の近づく女の殆どは、内に悪意を抱えているわ。私を冷えさせた彼女以外は……」
そう言ってチラリとスリートを見る彼岸花。
「ふん。私が誰と付き合おうと私の勝手だ!」
「ふふふ。私が貴女を助けるのも私の勝手」
一度大きく距離を取る二人。
「平行線だな」
「ええそうよ。私達は、お互いを分かっているのに、交わる事は無い………」
ルキエの【化身】━━銀天の騎士が光輝き出す。
彼岸花の【化身】━━クラーヌ・ラルムが毒々しい紫色の煙を出す。
「『オーバード・レイ』!」
「『怨嗟ノ十字架』」
両者の【化身】が相手に向けてその力をぶつける。周囲が白と黒に染まる。その威力は凄まじく、黒に塗り潰されるように何人かのプレイヤーが消えた。
周囲のプレイヤーが決着は着いたのかと、息を飲む中で、スリートと茜は相変わらず戦いを見ている。
そう。決着など着いていない。【化身】とはあくまでサポートの存在。【化身】同士の攻撃技がぶつかり合った場合、相殺されてどちらもダメージは受けない。そして、暫く攻撃技は使えなくなる。
「『グランドクロス』!」
最初に仕掛けたのはルキエだった。周囲に満ちた煙を吹き飛ばし、十文字の光の斬撃が飛ぶ。それは彼岸花に直撃し、光を撒き散らす。しかし、光が晴れたそこには、右手にひび割れた青く光る塊を持った、傷一つ無い彼岸花がいた。
「ふふふ。流石ね。結構強いプレイヤーだったと思うけど、一撃ね」
「『身代わり魂』か」
「えぇ、バカよね? 鎌で刈られたけど何も無かったから、冗談だと思ったのよ? そんなわけ無いのに」
彼岸花の手にあった青く光る塊が、音を立てて壊れて、灰のようになって飛ばされていった。【死刈鎌術】のアーツである、『魂狩り』を使用しながら攻撃されると、死なずに魂を狩りとられる。それを『身代わり魂』のアーツを使う事で、自分のダメージを魂の持ち主に肩代わりさせる事が出来るのだ。
その後も、ルキエは攻撃の手を緩めずに攻めていく。魂の数には限りがあるし、『身代わり魂』は自動発動ではないので、発動される前に攻撃すれば倒せるのだ。
「『死者の手』」
「『聖騎士の抱擁』!」
彼岸花の【化身】から無数の紫色の手がルキエに迫るが、ルキエの【化身】がルキエを抱くように青く輝きながら守る事で、完全にその攻撃を防ぐ。
この戦い、何れはルキエが勝利する。愛称的にも、技量的にも。しかし、ルキエは焦っていた。彼岸花が自分と戦うのは、恐らく足止めだろう。足止めする事で、他に来ている者を暴れされるのだ。
スリートと茜は動けない。万が一ルキエが負けた場合、二人が全力で彼岸花を倒さなければならない。何故なら、ルキエがいない場合、最悪の結果が彼岸花によって起こされるからだ。
「ふふふ。この間にも、他の二人が暴れているでしょうね」
「………」
「貴女が一番守りたい人も、やられているかもしれないわね」
「雪姫様はそう簡単には負けない!」
「どうかしら? 数日前見てみたけど、私達クラスにはまだ到達していないわ。今来てる二人にも、恐らく勝てない」
「黙れ!」
ルキエの攻撃はさらに激しさを増す。彼岸花の身体にはどんどん傷がついていく。しかし、致命傷には至らない。
ルキエの焦りは募るばかり。あの愛らしい少女が、もしも倒されていたら………守らねばならない。しかし、彼女は何時もふらふらとしていて、気づくと何処にいるか分からなくなる。
(結局私は、守れてなどいないじゃないか)
何も出来ない自分に不甲斐なさを感じる。もし彼女が倒されたら………
(きっと雪姫様は、ケロッとしているのだろうな)
倒されている所を見た事は無いが、自分より強い人間がいても特に気にした様子は無かった。彼女は、強くなろうと思っていないのかもしれない。彼女は、なんとなくそう思った。
(心配しても仕方ないのかもしれない………ならば、信じて倒すのみ!)
ヤケクソなのか、吹っ切れたルキエは、【化身】を自身へと重ねる。彼岸花は、それを見て首を傾げた。
「どうやら、これには到達しては無いようだな」
「………なんですって?」
「“我、聖なる騎士を宿し、死にゆく者を選択する”━━『ロンギヌス』!」
騎士の馬上槍とルキエの剣が重なり、青く輝くオーラが一本の槍の形を取る。そして、彼岸花に向けて突き出された。しかし、それはそこまでの速さではなく、彼岸花は落ち着いて『身代わり魂』を使用する。
勢いは殺し切れずに吹き飛ばされた彼岸花は、起き上がって反撃しようとして、身体に力が入らない事に気づく。彼岸花の身体は、青いオーラに包まれていた。
「“聖なる死の宣告”。死者を決定する槍を受けし者は、やがて死にゆく」
「確定デスペナルティなの? ゲームバランス崩壊もいい所ね」
「避けやすい上に初見ぐらいにしか使えない。それに、解除の手段もあるハズだ。さらに━━」
良く見ると、ルキエの【化身】が消えている。
「これを使うと、一日【化身】が使えなくなる」
「成る程。デメリットありって事ね」
彼岸花が薄く笑う。
「私の負けね。でも、嫌がらせは出来たから満足だわ」
「だろうな。ある意味私は負けたと言える………が、今回のイベント、私達が勝つ!」
ルキエは彼岸花に向けて決意を込めて言う。それを聞いて、彼岸花は満面の笑みを浮かべる。
「それはそうよ。だって、上位のPKは勝つ気なんて無いもの」
「何?」
「一部のおバカさんに付き合ってるだけ」
「どういう事だ!」
「ふふふ。何れ分かるわ」
それだけ言うと、彼岸花はデスペナルティで消えてしまった。ルキエは、彼岸花の言葉に言い知れぬ不安感を抱くが、今は他にやるべき事があると、スリート達の元へ行く。
そして、戦いは終盤戦へと移行する。
新しい要素が色々………スノウが知らない事があっても、不思議じゃない! ということ




