『とあるバレンタイン』
去年言った事を回収! 中学の頃の話です
「ねぇ、ねぇ、バレンタインどうする?」
「とりあえず、部活の人達に~」
「マネージャーとして義理チョコね」
「今年も本命に!」
「告白は出来てないじゃん」
男も女も一喜一憂する行事、バレンタイン。日本のお菓子業界の企業戦略に完全に乗せられている。まぁ、それはいいんだよ。クラスの奴らが浮かれているのも別にいい。
しかし、しかしだよ?
中にはバレンタインが嫌いな奴だっているんだ。
オタク? モテない奴? ぼっち?
違う! どれも違う! そいつらは、貰えないと分かっていて、それでも欲していながらリア充達に呪詛を吐いている。だがな、俺は違う! 俺は別の理由でこの行事を嫌っている。
「とりあえず、後5日あるけど、集まって作る?」
「あ、私料理無理、買い」
「私は作るー」
「アタシもー」
「じゃ、どっかで雪ちゃん家集合ね!」
「「「オッケー!」」」
「オッケー! じゃねぇ!! なんで俺を巻き込むんだよ、後、雪ちゃん言うな!」
「雪ちゃんだって作るんでしょ?」
「作らねーよ! 作った事ねぇよ! 俺は男だ! もらう側! やるとしても女子に花束贈るほうだから!」
「またまた~。こんな可愛い男がいるわけないじゃん!」
「いるんだよ!」
そう。この顔に産まれたせいで、女と間違われること多数。バレンタインチョコの催促をしてくる奴まで現れ始めた。男だと言っても信じない奴、それでも欲しいという奴、その他諸々だ。そして、女子は女子に友チョコ渡す感覚で渡してくるし! せめて、男友達として友チョコくれよ!
何はともあれ、俺はこの行事が嫌いだった。見ず知らずの奴から、「バレンタインのチョコくれるよね?」と爽やかな笑顔で言われる身にもなってみろ! 鳥肌全開だわ! 学校休みたくなるわ!
「冬道~今年は誰にチョコやるの?」
「俺欲しい!」
「俺も俺も」
「やらねーて言ってるだろうが! ってか、去年も作った覚えないからな!?」
何が幻の冬道雪のチョコだよ! 誰にも作ってないわ! 去年は、友チョコと家族チョコをもそもそ食ってたわ! 言ってて悲しくなってきたな……
しかし、チョコ、チョコねぇ…………は!
我ながらナイスなアイデアを思い付いてしまった。今日という日も、これからは楽しくなるかもしれない。そうと決まれば、今日は材料を買って帰らなければいけないな。うん。
「どったの? 突然機嫌良くなって………」
「いや、ちょっとね」
グフフフフフ。見ていろよ、俺のバレンタインを見せてやるぜ。
先日とあるアイデアを思い付き、材料を帰りに買い込んだ俺は、バレンタイン前の休みに、キッチンに立っていた。今年のバレンタインは月曜日。いやぁ、前の日が休みで良かった。時間はたっぷりあるし、多目に作っておこう。
「ククク。それじゃあ、始めますか」
喜べ男子達、俺が思いを込めて最高のチョコを作ってやるぞ。丁寧に、じっくりと、俺の思いをチョコに込めていく。
「お兄ちゃん、何してるの?」
「お料理中みたいね」
「バレンタインのチョコ作り」
「えっ!? お兄ちゃん、遂に………ごめん、勘違いだった」
「………大丈夫かしら?」
霙姉さんと雹が、チョコの材料を見て口をひきつらせている。安心してくれ、これを女子に渡す気はない。
ククククク、バレンタインが楽しみだ!
そんなこんなで、やって来ましたバレンタイン! 2つの紙袋を引っ提げて、スキップしたい気分になりながら教室に入る。そして、教壇の前に立ってクラスに呼び掛ける。
「喜べ非モテ男子共! チョコを作って来てやったぞ!」
「えぇーマジ!?」「ひゃっほう!」「目覚めたか!?」「ありがとうございます!」等の声を上げながら、俺の下にやって来る男子達。女子用の奴は、近くにいた女子に渡して配るように言っておいた。
期待に満ちた表情を浮かべる男子達に、俺は食べなくてもいいからと、笑顔を浮かべて渡していく。因みに、俺に対して何かを感じ取った男子は、取りに来なかった。それが正しいよ、うん。
「受け取ったなら、ちゃんと全部食べろよ。俺の気持ちをちゃんと込めたから」
「もっちろん!」
「おぉ! ハート型!」
「美味そう!」
違うクラスの奴、後輩やら先輩、教師も何人か来たので渡す。さて、ちゃんと言ったし、確認したからな。後は、自己責任だ。
笑顔でチョコを食べる男達を見て、俺は笑みをより一層深くする。そして、男達はその口から━━━
「「「「「辛ぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」」」」」
「「「「「苦ぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」」」」」
「「「「「不味ぅぅぅぅぅぅ!?!?」」」」」
「「「?」」」
悲鳴を上げた。
ハハハハハハハハ!!! どうだ? 中身激辛チョコ、中身激苦チョコ、激不味チョコのお味は? 俺の気持ちしっかりと伝わっただろう!?
「おぃぃぃぃぃ!!! 冬道なんだコレ? お前気持ちを込めたって━━━」
「あぁ、しっかり込めたぞ。外面は取り繕ってるけど、内面は殴ってやりたいって気持ちをな」
「そういう気持ち!?」
阿鼻叫喚の男子の中で、普通そうにしているのが三人いた。それを見て、ちゃんとしてるのもあるじゃんか! と抗議の声を上げる男子達。そうなんだよ、実は当たりがあるんだよ。
「実は、当たりがあるんだ、三つほど」
「「「やった!」」」
「下剤入りを三個ほど」
さぁーと、顔を青くさせる三人。安心しろ、医師の意見をしっかり聞いて、弱めの奴にしといたから、他の奴らよりはマシだと思うぞ。
俺は、青い顔をしてダッシュで教室から出ていく三人を見ながら、満足げな表情を浮かべた。
「いやー楽しかった」
初めて気分良くバレンタインを終えられた俺は、帰り道を若干スキップしながら歩いていた。来年も、作ってみようかな~。
と、歩いていたら、公園のベンチに座って泣いている女の子を見つけた。慰められるか分からないけど、心配になって近づいてしまった。
「大丈夫?」
「え? あ………はい。すみません」
女の子は涙を拭うが、次から次に溢れてしまっているようだ。なんとか出来ないかと悩んで、咄嗟に一番良く出来たチョコを出して、女の子に渡した。
「えーと、これ一番良く出来たやつでさ、元気出るか分からないけど、貰って」
「え、でも………」
「いいから、いいから、どうせ自分で食べようと思ってたやつだしさ」
最後に笑って、花束じゃなくてごめんと言って、立ち去る。いやぁ、やっぱこういうのは向いてないね。
「あ、待って下さい!」
「ん?」
「あの…………コレ、お礼です」
「え、でも………」
「貰って下さい!」
ちゃんとラッピングされたチョコを、ぐいぐいと俺に押し付ける女の子。涙はいつの間にか止まっていて、寒さで頬が赤くなっている。貰わないのは悪いから、貰うことにした。ありがとうと告げて、去っていく。
女の子から貰ったチョコは、とても甘かった。
◇
「詩乃!」
「霧月ちゃん」
「どうだった? ちゃんと渡せた?」
「………先輩、彼女さんいたみたい」
「あっちゃー………まぁ、もっといい男見つかるって!」
「………うん。そうだね」
「あれ? チョコは?」
「あぁーえっと、食べちゃった」
「そっか。じゃ、新しい恋に出発よ!」
「うん」
また、会えるかな?
会えるといいな
皆さんは、チョコに下剤を仕込むのはやめましょう。良い子は真似しないでね!




