『スリートの実力』
「ねぇ、スノウ。私の言いたい事分かる?」
「………」
ここは、普通プレイヤー軍の砦、その一室。廊下の方では忙しなくプレイヤーが往き来しており、時折大きな声なんかも聞こえてくる。
部屋の中では、親衛隊のルキエさんとヤハギさん、その他名前の知らないプレイヤーが何人かで、話し合っている。
他の場所では、ネーヴェとシャルー、竜胆がスリート姉さんと遊んでいたり、ヘイルがクノと一緒にすあまに埋もれていたり、柊が頭にフクロを乗せて胡座の中に大福を入れた状態で瞑想していたりする。
俺はというと、正座してライラに怒られていた。
「あのね、応援に来てくれたのはいいの。それはいいのよ」
「………」
「ただね、事前に一言言ってくれてもいいんじゃなかったの?」
「………」
「そうすればあんな事にはならなかったんじゃない? ねぇ?」
「………」
「聞いてる?」
「はい」
何故にライラがこんなに怒っているのか、皆さん気になっている事でしょう?
え? そんなんでもない?
兎に角、突然の参戦だったが、それだけならライラもちょっと文句とか小言を言うくらいだった。しかし、あの………最後の奴でさ。敵だけじゃなくて味方も吹き飛ばしたじゃん? あの後ね、謝ったのよ。そしたら快く許してくれて、俺もホッとしたんだけどね。後ろから肩を掴まれまして、振り返ったら━━━
『ちょっと話があるんだけど』
有無を言わせぬ笑顔だったね、どうやらライラも吹き飛ばされていたようだ。クノ経由で聞いたが、ライラは高所恐怖症で絶叫マシンなんかもダメらしい。
うん。これは完全に俺が悪いですね。ホントすみません!
全力土下座で謝罪する。
「………はぁ。もう、次は気をつけなさいよ」
「はい」
とりあえず許してくれたようだ。さて、後は出番が来るまで待ちますかね。
「スノウちゃーん!」
「ん?」
符でも作ろうかな? と思っていたら、リジェさんとアルネさん、ドルグさんが入って来た。アルネさんの側には、空海豚のサファがいた。
久しぶりに生産組の人達見たな。まぁ、俺がずっと〈ヤマト〉とかに行ってたからだけど。
「お久しぶり」
「おひさー! 防具メンテと強化に来たよー」
「お久しぶりです」
「久しぶりだな。俺は武器の方をやってやる」
おぉ、ありがたい。装備を巫女服にして、雪姫シリーズをリジェさん達に渡す。待つこと暫し、全体的に能力の上がった雪姫シリーズになった。追加能力とかはないので、詳細は省く。
さて、次の出番はいつかな~。ん? なんか外が騒がしいな。
「大変です! PKの大群が!」
おっと、早速出番のようだぞ。部屋の中にいた皆で、外が見えるバルコニーに向かう。
バルコニーから見えた光景は、沢山のPKプレイヤー達が雪崩のように押し寄せている場面だった。っていうか、多過ぎじゃないか? 俺が遭遇したPKプレイヤーよりも多い気がする。
「あれって、まさかドン・クラッチ!?」
「ヘイル、知ってるの?」
「有名なPKプレイヤーで、通称頭領。物量でプレイヤーキルする、異色のPKだよ」
「うーん。プレイヤーはあれの十分の一もいないわね。殆どが、召喚されたキャラだわ」
スリート姉さんが意味深な事を言ったので、詳しく聞いてみると、ドン・クラッチは、プレイヤーでもNPCでも無いキャラを召喚? することが出来る。その上、それが100を越える軍団というのだ。
昔から戦いは量だって言うけど、ふざけた数だな。でも、ここには俺がいる。少し時間はかかるが、殲滅出来るだろう。俺が符を取り出して、【仙術】を使おうとしたら、スリート姉さんが手で行く手を塞いだ。
「スノウちゃんはこっち陣営の切り札みたいなもの。温存しなきゃダメよ」
「でも」
「安心して、多分、広範囲殲滅ならスノウちゃんに負けないから」
「?」
スリート姉さんはニッコリ微笑むと、長杖を取り出して構える。
「行くわよ。『コール・グランドクラウド』」
スリート姉さんがそう言うと、空に巨大な雲が出来上がり辺りが暗くなる。なんか、下の方から「逃げろー!!!」って声がするけど、一体全体何が起こるんだ? ちょっとわくわくする
「何人耐えられるかしら? 『ハザード・レイン』」
そして、上空の雲から雨が………いや、水の塊が落ちてくる。まるで空から滝が落ちてくるが如く、轟音とともに水の爆弾が落ちる。その圧倒的な質量でもって、地上にいるPK達を一掃する。
無茶苦茶な威力だな。でも、効果時間は短いようで、直ぐに雲は消えてしまった。あ、まだ十数人残ってる。
「あら、ドン・クラッチ本人もいたみたいね。珍しい」
「珍しい?」
「えぇ。殆ど前線には出てこないわ。その必要がない能力を持っているから」
「成る程」
「さてと、追加を呼ばれる前にここで倒しちゃいましょう。私じゃダメだった場合に……ヘイルちゃん。お願いできる?」
「まっかせて!」
元気よくヘイルが手を上げて、バルコニーから飛び降りた。っていうか、まだなんかやる気なの?
「“水”は無くなってないわよ。『ダイダルウェーブ』」
スリート姉さんの言葉とともに、少し離れた所に水の塊が瞬く間に出来上がる。
って、今地面とかから出てなかったか? まさか………
俺がとある疑問を持つと同時に、スリート姉さんの第二の大魔法が発動する。先程の雨によって落ちてきた大量の水が、今度は大津波となってPK達に牙を剥く。
「スリート姉、まさか……」
「ふふふ、私は“水”よ。今度のギルド対抗戦が楽しみね」
これは本気で来るつもりっぽいな。それにしても、スリート姉さんと戦うのは骨が折れそうだ。使用にある程度の制限はかかるだろうが、威力は向こうのほうが遥かに上だ。なんせ、質量を持っている。
まぁ、対抗策は有るけど。
ん? この反応は━━━━囮だったか!
次から次へとと思いながら、その場から駆け出す。今はまだ奥まで入ってないな。でも、ルキエさんのようなトッププレイヤーは避けている。いや、なんでトッププレイヤーばかり避けられるんだ? そういうスキル持ちか? まぁ兎に角、見つけた!
「ここ!」
「!」
既に『嵐纏』は発動させている。暴風の纏った蹴りを、出会い頭に放つ。が、流された。
「危ねぇ。まさか見つかるなんてよぉ」
「誰?」
「あぁ? 俺は……そうだな。“辻斬り”だよ」
和服に刀一本という軽装備の無地の仮面を着けた男。それにしても、辻斬り? そのまんまのプレイをしてるって事か? なら━━━
「出来てないけど?」
「ちっ。ムカつく言い方だな、今からぶっ殺せばノーカンだろ」
自分ルールで生きてる奴か。ならば、これ以上言うことはない。止まった状態から、最高速度まで加速して、鉄扇を放つ。
「『鷹突き』」
が、ギリギリで交わされる。しかも、下段から刀が飛んで来た。【思考加速】、【迅雷】の補正を受けてそれを飛びながら回避、空中で体を捻って回転のベクトルを乗せた一撃を━━
「『鬼殺し打ち』!」
「『竜紋一閃』!」
金属の衝突する音と同時に、男が吹き飛ぶ。威力は同程度だったが、『嵐纏』の追加効果で吹っ飛んだようだ。
さて、楽に勝てればいいが………




