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閑話 その頃の反乱軍

 その日、反乱軍の元へある集団が接触してきた。

 リュー達とは別の場所で反旗を翻した反乱軍である。


「私達はヴィブランシュ領で旗揚げした反乱軍だ」


 そう自己紹介する反乱軍のリーダーに、同席していたミラは兜の下で眉根を寄せた。

 そんな様子を知ってか知らずか、リューが視線を向ける。

 すぐにリーダーに視線を戻した。


「あそこはそんなに悪い領じゃないだろ?」

「いや、農民が領主に従うという現状がそも間違いなのだ。人は神の下に平等であり、人と人の間に上下がある事は許されざる背信である。それを正し、得られる成果は公平に分配する世を実現するため、私達は立ち上がったのだ」


 ああ、こういう手合いか。とミラは呆れと苛立ちの入り混じった感情を(いだ)く。

 それを抑えつつ、丁寧に反論する。


「不当を正すという考えには賛同しましょう。しかし、あなた方の考えは理想を叶えるため、乱に乗じただけのものです。大義とは言えず、此度の反乱の道理を逸脱しています」

「いや、わからぬのも道理。私の考えは既に今の世を飛躍している。私は先の世を見据えているのです。現状だけにしか目の届かぬ凡婦(ぼんぷ)には、それが解らぬのも仕方ない事なのでしょう」


 得意げに、嘲笑の色すら見える態度でリーダーは返した。

 ミラの額に血管が浮く。

 兜ごしにもわかる不機嫌さをリューは察し、ミラの前に出た。


「で、お前らは何のために来たんだ?」

「私達に従いなさい。その領地を奪い取った蛮勇、私が率いてあげましょう」


 左手を胸に、右手を差し出しながらそう告げる。


「……リュー、殺しなさい」

「怒りすぎだろ」


 剣呑なミラの言葉にリューは返す。


「大義は私達にこそあります。それに従う事で、あなた方は初めて大義を得られるのです」

「お前の話は難しいし、大義とかよくわかんねぇ。だからよ」


 リューは右拳で左手の平を打った。

 バチンと音が鳴る。


「殴り合ってどうするか決めようぜ」

「な! 何故、そうなるのです?」

「話し合いってのは大事だけどさ。話し合いだけでどうにかなるなら、俺らも反乱軍なんて作ってねぇんだよ。話を聞いてもらうなら、まず腕っ節が強くねぇといけない」

「そんな無茶苦茶な!」

「お前だって、力が必要だと思うから俺達に会いに来たんだろ?」


 リーダーは言葉に詰まる。


「さ、始めようぜ」


 結局、リーダーはリューに叩きのめされ、彼女を含めて全員がリューの傘下に下った。




 シャパド領を制圧した実力から、国内で活動していた反リシュコール勢力はこぞってリューの反乱軍に接触を図り始めていた。


 手を結び、もしくは傘下にくだり、バラバラだった勢力は集中しようとしていた。


「俺達はここから離れようと思う」


 そんな中、ある反乱軍のリーダーからそう切り出される事になった。


「何で? それなりに仲良くしてたじゃねぇか。何が気に入らないってんだ?」

「だってお前ら、挨拶代わりに胸を揉んでこようとするじゃねぇか! なんでだよ! こわいよ!」

「それはここでの挨拶だからな」

「仲間から苦情が出てんだ」

「え、でもお前の仲間から前に胸揉まれたけど……」

「染まっちまった奴もいるんだよ! どうしてくれる!」


 かつて戦力と結束の強化を図って発案された挨拶が、反乱軍同士の仲に亀裂を生もうとしていた。

 この事実は、発案者のミラにとってショックな出来事であった。


「とにかく、こんな所にいられるか! 協力はするが、必要以上に接触はしない。あと、染まった仲間は置いていくから、そっちで面倒見てやってくれ」

「わかった」


 終結しつつあるリシュコールに抗する者達であったが、志を同じくするも相容れぬ部分も多かった。

 集い、離れ、やがて反乱軍という一個の塊は精錬されつつある。




 シャパド領城の訓練場。

 そこで、マコトはヨシカと剣を打ち合わせていた。


 彼女には焦りがあった。

 前の戦いで、自分は何も成し遂げていないという事実から発せられるものだ。


 ウィンとは二度当たり、どちらも負けている。

 勝利に対し、一切の貢献がなかった。


 その心の隙を衝き、ヨシカはマコトの肩を強く叩いた。


「ぐっ……!」


 骨は折れずとも、痛烈を免れない打ち込み。

 マコトは思わず膝を折り、地面に手を付く。


「休むな。立て」


 ヨシカは容赦なくそう告げる。

 痛みに脂汗を流しながら、マコトはゆっくりと立ち上がる。

 まだ痛みの引かぬ内に、ヨシカが打ち込んでくる。


 二人の打ち合いが再開された。


 ヨシカは、正体がばれぬよう普段の技を封印していた。

 得意の上段を封じ、切っ先を地面へ向ける形で構えていた。


 マコトが悩みに苦しんでいる事には気付いている。

 そういうものは動きに出るからだ。


 今までならば、そういう時に鍛錬は行わない。

 上の空で行えば、事故に繋がる事もある。

 技を養う事もできない。


 しかし、戦中の緊急時にそのような悠長な事もできない。

 よって、彼女はがむしゃらに打ち込み、考え事ができぬほどに追い込む方法でマコトを鍛え上げる事にした。


 時に、無心で振る剣には術理が宿る。

 それを狙っての事だ。


 その容赦のなさが逆に、ヨシカの正体をマコトに悟らせない要因ともなっていた。


 教えるのではなく、ただただ打ち込み合うだけの鍛錬。

 数時間に渡るそれに、マコトの悩みが薄れつつあった。


「ここまでにしよう」

「ありがとう……ございました」


 ヨシカに言われ、マコトは礼をする。

 同時に、ばたりとその場で倒れた。


 仰ぎ見る空は朱に染まっている。

 その視界に、見下ろすヨシカの顔があった。

 彼女はマコトの傍らに座る。


「どうすれば、強くなれるんだろう」

「何故強くなりたい?」


 何でだろう?

 問われて疑問を持つ。


「勝ちたいから、かも」


 思えば、自分は真剣勝負で勝った事がない。

 練習試合や喧嘩なら、リューにだって勝った事がある。


 でも、負けられないはずの戦いで勝った事がない。

 シャパド領主との戦いでも、一度も勝てなかった。


 それに……。

 ロッティにも勝てなかったな。


「俺は一度も勝った事がない。前に、魔力がない奴にも負けた事があるんだ」

「それは誰だ?」

「……ロッティ・リシュコールって奴」

「ロッティ殿下か」

「知ってるのか?」


 意外に思って訊き返す。


「一度、会った事がある。だが、あれに負けたのならば仕方がない」

「どうして?」

「あれは異常だ」


 ヨシカはロッティの事を思い返す。


 二年前、初めて会った時の彼女は武の匂いを感じさせはするが、嗜みとして纏わせるだけの少女だった。

 だが、今は違う。


 たったの二年。

 それで彼女は、むせ返るような武を漂わせていた。

 もはや技量だけならば、自分に並ぶだろう。


 傘下に加わり、手合わせをする機会も何度かあった。

 そうして実際に触れれば、その武が確かな実体を持っている事がわかる。


 魔力の薄い彼女にとって、魔力持ちの懐は死地である。

 一度の過ちが命の喪失に繋がる。

 それでも彼女にとっての活路は、相手の懐にしかない。

 だからか、彼女はどのような時も距離を詰めてくる。

 そこに怖気はなく、躊躇いもない。


 理屈ではわかる。

 しかし、それを実行できる胆力は、おいそれと備わるものではない。

 だからこそ、異常なのだ。


「あれに勝てずとも恥ではない。あのようになる必要も無い」

「俺じゃあいつになれない。わかってるよ。……でも、悔しいんだ」


 顔を曇らせるマコト。

 その額にヨシカは優しく触れた。


 慰めの言葉もなく、ただただ触れるだけだ。

 それでもマコトにとってそれは心地よく、受け入れるように目を閉じた。


 武人として、ロッティの技には感心すらする。

 しかし、手塩にかけて育てた子供があのように自分の命を(もてあそ)ぶような戦い方をすると思えば、気が気ではないだろう。


 ヨシカはゼリアに少しばかりの同情心を覚えた。




「なんか、途端にでかくなったな。反乱軍(うち)


 リューはシャパド領城の入り口前で、ぼんやりと行き来する人の姿を眺めていた。

 同じく、ぼんやりと隣に座っていたジーナにそう話を振る。


「領地を奪い取った反乱軍は他にない。そこに希望を見るのさ」

「そうだな。みんな、この国を変えたいって気持ちは同じだろうからな」


 そんなやり取りを交わしていると、こちらに向かって歩いてくる二人の女性に気付いた。


 顔が判別できるまで近づき、リューは表情を険しくした。


「おい、あいつ……。見た事あるぞ」

「ああ、そうだな」

「笛の奴だ」


 女性のうち、一人はバルドザードの将リジィであった。

 リューとジーナは、彼女と昔戦った事がある。

 そして、彼女と共にあるという事はもう一人もまた、バルドザードの者だろう。


 リューとジーナは立ち上がり、二人の方へ近づいていく。

 両者歩み寄る形で歩を進め、一定の間合いを取り立ち止まった。


「お前ら、バルドザードの人間だろ? 何しに来たよ」

「……あの時の子供か。大きくなったな」


 問いかけるリューに対して、リジィはそんな感想を返した。


「何だ、知り合いか?」

「殺し損なった相手だ」

「おいおい、俺らの目的わかってんのか? それじゃあ仲良くなれねぇだろ?」

「じゃあお前がどうにかしろ。私は気が乗らん」


 踵を返し、リジィは来た道を戻っていった。


「マジかよ……」


 その背をあきれた様子で眺め、もう一人の女性が呟いた。


「で、あんたはどうすんだ? バルドザードなんだろ?」


 シュッシュッ、とシャドウボクシングのようにジャブを振りながらリューが問う。

 対して女性は、頭を掻きながら苦笑を返した。


「まぁ、そういうな。俺達はまだ、出会ったばかりだ。嫌いな奴の仲間だからって、一緒くたに考えるのはよくねぇ。そんなんで良縁逃しちゃ損だからなぁ」


 女性は握手を求め、リューに右手を差し出した。


「俺の名はギオール。お前の言う通り、バルドザードの人間だ。仲良くしてくれ」

「はん! 敵とわかってて誰が仲良くするか!」


 それから三時間後、昔からの友人のようにギオールと笑い合うリューの姿があった。

今回の更新はここまでです。

続きは次の月末に。

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